RADIO インクルホイ! 第2回 私らしさと向き合う ________________ 番組紹介 ________________ <オープニング曲> KUGINI/音遊びの会 浅野:こんにちは。 山田:こんにちは。 浅野:「RADIOインクルホイ!」パーソナリティの浅野翔と、 山田:山田小百合です。 浅野・山田:よろしくお願いします! 浅野:この「RADIOインクルホイ」は、10年以上に渡りインクルーシブデザインに関わる、デザインリサーチャーの浅野翔と、NPO法人Collable代表の山田小百合がお送りするラジオコーナーです。 山田:毎回、インクルーシブデザインにまつわる事例や話題を互いに持ち寄って、ときに脱線しながらお話ししていきます。 ________________ 導入 ________________ <転換ジングル> 恋に落ちて/音遊びの会 浅野:今回は第2回、本日もよろしくお願いいたします! 山田:よろしくお願いします! 浅野:今回のテーマは、「私らしさと向き合う」ということで、事例を集めてきました。インクルーシブデザインのプロジェクトと向き合うなかで、このテーマについていろいろと考えることがあるなと思いますが、山田さんいかがでしょうか? 山田:はい。前回の収録でも実感しましたが、やっぱりインクルーシブデザイン系のプロジェクトって、すごく個が引き立つテーマ。だから、その流れでも「私らしさと向き合う」というテーマはすごくしっくりくるなと思って楽しみにしています。 浅野:そうですね。前回の「インクルーシブデザインとは?」という話題のなかでは、当事者の人たちとどうやって考えるかとか、あるいはデザイナーやまわりで応援する人たちがその事象とどう向き合うかとか、あるいはその関係性のなかでどう物事が起きているのかを理解するみたいな話もありました。なので、その延長として聞いてもらえるといいのかなというところですかね。 山田:はい、そうですね。 浅野:では、さっそく事例をご紹介していきたいと思います。はじめていきましょう! ________________ セットリスト紹介(1) ________________ <転換ジングル> 恋に落ちて/音遊びの会 浅野:このパートでは、ファッション関連の事例をいくつか紹介したいと思います。たとえば「bottom’all」や「SOLIT!」など、いわゆるアダプティブファッションと呼ばれる障害のある方も楽しめて、かっこよく着こなすことができるファッションに取り組んでいる国内の事例も増えてきている印象があります。 平林景さんが立ち上げたブランド「bottom’all」では、車椅子の方がスカートのように着脱ができる構造をした衣服がつくられています。「試着室に入れないよ」とか、「一人で着ることができない」とか、あるいは「もうそういうことから目を背けています」といった障害のある当事者の声をもとに商品開発をしていると。「福祉×おしゃれ」で、次の時代のユニバーサルデザインを目指しているところが非常に面白いなと思っています。しかも、福祉施設でつくっているのもすごくいいポイントだなと思いますね。 「SOLIT!」は、山田さんも仲良くされている方なんですよね。 山田:そうですね、代表の田中美咲さんとは昔から仲良くしていただいています。こちらも機能をはじめ、当事者の人たちと一緒につくっているのがすごく魅力的です。今はいろんなイベントや通販でも購入が可能です。 フルオーダーとは違って、セミオーダー式になっていて、たとえば服の手首部分を留めやすくするゴムが入っているものであったり、ボタンを普通のものかマグネットかで選べたり、一部を各ユーザーのニーズに合わせて、オーダーできる仕組みになっています。しかも、それをネットで注文できるんですよね。 浅野:最近、ユニクロなどの大手でも、フルフラットでスムーズに入れる試着室も少しずつ増えてきているけど、ボックスがボン!と置いてあるような試着室だと、車椅子のままでは入れなかったり、仮に入れたとしても着替えるには狭すぎる、みたいな話もあるから、家に送ってもらえるのは、そういう面でもいいかもしれないですね。 山田:ね。「bottom’all」さんの商品って、もう注文できるんでしたっけ? 浅野:まだそこまでやってないんじゃなかったかな。ちょっと調べてみよう。 山田:「bottom’all」の商品は、まだ手に取ったことはないんですけど、「SOLIT!」のセットアップは私も持っていて、時々使わせてもらっています。 「bottom’all」さんはブランドが立ち上がった背景が少し違うというか。パリコレに障害のある人が立つことを目指して、ファッションブランドをつくっているのもあって。アダプティブな服って増えてきているけど、「bottom’all」さんはエネルギッシュな立ち上げ方をしている印象がありますね。 浅野:たしかに。少しずつ展開をしていっている感じなのかな。 山田:たしかこれから販売もするっていう話しも聞いていたので、楽しみに待っていたいなと思いますね。 浅野:情報を見てると、クラウドファンディングで応援した方にスカートを購入できる権利をあげるといったことはもう既に展開されているみたいですね。 山田:なるほど。クラウドファンディングで展開しているファッションブランドは多い気がしますね。「SOLIT!」もたしかやってた気がする。 浅野:こういったプロジェクトでは、本当に必要とされている方がどれくらいいるのかを数字で把握するのはなかなか難しかったりするので。そういう面でいうと、クラウドファンディングを使って、先行マーケティングのような形で展開するのは、ひとつの方法なのかもしれないですね。 山田:たしかに。 浅野:それでいうと、こういった事例は小さくはじめていく方々もいる一方で、わりと大手の会社もどんどんやっていますよね。たとえばTOMMY HILFIGERは、ずっと前から「TOMMY ADAPTIVE」をやっていたりするし。海外だと国際的な文化の違いや身体的な特徴の違いも含めたファッションのあり方に対して、歴史的にずっと取り組んできていたりしますよね。 今まで日本では「多くの人が同じ型=パターンを着て楽しめる」ことから逸脱したものは、なかなか取り上げられにくかったかもしれない。けれど今回紹介したプロジェクトのように、違いを理解して楽しむことと、ファッションのもつ「自分らしさ」を出す側面とが合わさって、展開される事例が国内においても出てきていて、面白いなと思いますね。 山田:海外でもファッションの事例は増えてきているイメージがありますよね。 浅野:海外でいうと、今回事例として挙げているのが2つあります。「Bethany Williams」というブランドだと、障害の有無だけではなくて、つくる場所や材料に関しても、いかに対等で平等な関係でものをつくることができるのかに着目しています。たとえば女性の刑務作業所や福祉施設の就労支援施設で服をつくっていて、その上でファッション産業がはらむ社会問題やSDGsのような環境問題も含めた問題系を露わにするひとつの方法として取り組んでいる印象があります。 ただ展示やショーでおしまいではなく、ちゃんとプロダクトとして世の中に出まわっていることも非常に興味深いところですね。 あとは、シンガポールのアパレルブランド「Will & Well」が、去年のデザインウィークでも発表されていたんですけど、 山田:これめっちゃかわいいなと思ってました。 浅野:ね、本当に。もともとアダプティブファッションとして展開していて、東アジアあるいは暖かい地域ならではの意匠性が出ていますよね。彼らの取り組みで面白いなと思ったのは、「当事者の方を理解する」とか、「当事者同士もしくはサポートする人たちと当事者の関係のなかでファッションについてどう思っているのか」とか、「私らしさをどういう風に表現できるのか」といったことを理解する方法として、「Give Me A Hand」というカードゲームをつくっていることです。自分の内に秘めていた「これはやらないでおこう」「これは隠しておこう」と思っていたこととか、あるいは「言いたかったけど、言えなかったこと」みたいなものを一緒に遊びながら、表現するためのコミュニケーションツールとして、カードゲームをつくっているんですよね。それがアイデアの源になったり、ファッションを楽しむ家族関係やパートナーとの関係をサポートしているのも、非常に面白いところだなと思って紹介しました。 山田:たしか手の絵とかが書いてあって、デザインもかわいかったんだよね。あのカードゲームのルールを口頭で説明するのが難しいなと思ったんだけど。 浅野:たしかにね(笑)。 山田:ファッションを考えるとか、立場や背景の異なる人と協働・共創するとかって、いきなりはじめるのは難しくて。そのなかで、まずは自分たちがつくっているものや思考のプロセスを疑似的に共有するための方法として、カードゲームを使うっていうのは、PR素材としてもすごくいいですよね。私はこの「Will & Well」は、デザインがすごく好きですね。とっつきやすい。 浅野:それに、デザイナーが上から目線で「こうしたらいいんじゃないか」「こうすべきなんじゃないか」っていう意見を押しつけるんじゃなくて、「そもそも私たちも何も知らないよね」っていうスタンスで臨んでいるなと思っていて。実際、インクルーシブデザインのプロジェクトをやろうとしたときに、それってすごく重要じゃないですか。 こういうコミュニケーションツールがあると、山田さんがやっているワークショップでも結構効いてきたりするものなんですか? 山田:そうですね。結局、プロダクトをつくるときに難しいのは、「使いやすい」「使いづらい」とか、機能に関する話に執着しがちになることなんですよね。そうすると結局、誰が協力しても、同じような答えになってしまうことが結構あると思っていて。服の場合だったら、着た時に自分がどんな気持ちか、どんな想いがあるのか、どんな表現がしたいのか、使う人の気持ちや想いも含めて、形のアイデアを生み出せるといいと思うんだよね。そういう意味で、カードゲームをはじめ、いろいろな手段でそれを模索できるのはすごく素敵だなと思います。 浅野:そうですよね。僕たちが「当事者と一緒にやりましょう」あるいは「観察をして彼らがどういう行動や言葉にできない想いをもっているのかを理解しましょう」と言っている理由は、まさにそこにあるんだろうなと。 特に今回紹介した海外事例や、国内事例のいくつかは、実際に服をつくっている人たちも障害のある方々や社会的に疎外されている当事者というのがもうひとつポイントだと思っていて。やはりアパレルの多くは量産品なので、誰が着ているのか、どういう人に楽しんでもらえるのかはなかなか表面化しにくかったりもしますよね。そういう当事者に思いを馳せてつくっている人たちがどこまでいるのかもなかなかわからない。でも実際に、自分たちも当事者だったり、福祉に関わっていたりすると、「こういったプロダクトやブランドが世に展開されれば、自分たちの活躍の場も広がるのかな」とか、「同じような思いを持っている人が少しでも減ったらいいな」と思いながらつくれる。つくる人たちと使う人たちの楽しみのニーズが一致しているところも、非常に面白いところですよね。 山田:そうですよね。私の肌感覚では、ファッションのプロジェクトはものすごく増えていると思います。東京都でも、ファッションを学ぶ学生がインクルーシブデザインの服をつくって賞を決めるというイベントをやっていたりするし。 服だけではなくて、試着室をはじめとして店舗に入るときの心理的安全性も含めて、取り組んでいるところもいろいろあるなと思っていて。少し前にFABRIC TOKYOさんが渋谷MODIにある店舗をバリアフリー化して、試着室が注目されていたんだよね。車椅子でも入れるし、天井にも鏡があって、寝っ転がって全身が見られる。車椅子の方って、立った状態で全身を見るのが難しいけど、寝っ転がれると全身が見られる状態になるから。 浅野:へー、なるほど! 山田:ファッションのプロジェクトで服をつくるのはもちろん重要だけど、どう届けるのかに関する事例も増えていますよね。インクルーシブデザインを考える上で、ファッションで今何が動いているのかに注目するといいんじゃないかと思う。 さっき挙げた「Bethany Williams」もそうだけど、ファッション業界では服の廃棄の問題など、サステナブルな視点も含めたインクルーシブのコンセプトがじわじわと広がってきている印象はあるので、みなさん見てみるといいかなと思います。 浅野:うん、たしかにね。今、話を聞いていて思い出したのが、僕は目が悪くて、メガネを買うとき、以前は鏡の前で試着していたんだけど、試着用メガネには度が入っていないから、ほぼ見えなくて(笑)。 山田:あー、たしかに! 浅野:アプリでバーチャル試着で、具体的に選べるようになってから、メガネ選びが楽しくなった。今かけてるメガネも、バーチャル試着をして、「これだったらいけるかも」って買ったやつだったんだよね。 山田:たしかに盲点かもしれないね。メガネユーザーで困ってる人も多いけど、意外と気づかない。そういうのもインクルーシブデザインを使って考えると、ハッと気づくことなんだろうなって思うよね。 浅野:ね。その時にやっぱりどんな色が自分らしく似合うかなとか。たとえば今、僕がかけてるのはピンク色のメガネなんですけど、いわゆる固定的なジェンダー観から見ると、「男性がピンクのメガネ?」とか思われがちだけど、自分の肌と合っていて、柔和な感じに捉えられるっていうのがあるから、あえて選んでいるんだよね。 選択できるポジションがどんどん増えていったり、そのきっかけがフィジカルからバーチャルにまで増えていたり、さらにはそれを届ける、つくるという話にまで展開している。「つくる」「理解する」ことから、「楽しむ」ことがひとつなぎになっている事例が、ファッションやアパレルまわりに集まっているのかなと。 山田:まさにひとつなぎになりつつあるから、本当にすごく楽しみな業界だなと思いますね。 浅野:ね。ファッションってやっぱり自分らしさを表すところもあるので、ひとつ面白いトピックかなと思って選んでみました。 山田:はい。 ________________ セットリスト紹介(2) ________________ <転換ジングル> 恋に落ちて/音遊びの会 山田:ここまではファッションにフォーカスしてお話してきていて、そこから派生して、実はスポーツもファッションとつながりがある分野かなと思って、スポーツの話をしたいと思います。なかでも今回は「服=着るもの」にフォーカスしてみたいなと思っています。 ちょっと前にアフリカンヘアー用のスイミングキャップが大会で承認されたニュースがあって。私は知らなかったんですけど、髪がボワっと広がる髪型の人向けにつくられたスイミングキャップは、昔は大会で使ってはいけなかったんですよね。競泳だとそうした髪型だと泳ぐスピードも落ちそうなイメージがあったから、てっきりみんな意図的にそうしていないんだと思っていたんだよね。けれども、このニュースを見て、髪型の表現そのものにアイデンティティがある国や文化がたくさんあることに気づいたんだよね。その尊厳を守る意味で重要なトピックだなと。 浅野:うんうん、たしかにね。東京オリンピックでは着用が認められていなくて、次回からOKみたいですね。 山田:ぜひみなさんも検索してみてほしいんですけど、スイミングキャップが結構大きく頭を覆ってる写真が出てくるんですよ。もしかしたら髪型を理由に水泳を断念しなくてはいけなかった選手も実はいたのかもしれないし、私もすごく考えさせられました。 浅野:ニュースを見ていたら、てっきりファッションだけの話かと思ったら、結構、身体的な話も含まれているみたいだよね。アフロヘアやドレッドヘアはそもそも手入れの仕方が少し違ったりするから、プールに含まれる塩素で髪の毛が痛みやすかったり、ゴワゴワキシキシしたり、切れやすくなったりするのかな? そういう背景でそもそもプールに入りづらかったり、水泳自体を諦める人もいたりするのかなと思うと、スイミングキャップひとつで参加するきっかけができるというのは、重要な視点だなと思いましたね。 山田:そうですね。 浅野:ヒジャブをつけて陸上競技に出場することも認められていくなかで、こういったところまで展開していくのが、今この2023、24年のタイミングなんだっていうことに、逆にびっくりもしたかな。 山田:たしかに。そもそも競技への参加に関する話から、ようやくオリンピック・パラリンピックの融合に関する議論が生まれてくるフェーズにようやく来た時期で、こうした視点は見過ごされがちだったのかもしれないですね。でもすごくいい一歩だなって、私は思っているんですけど。 浅野:それでいうと、パラリンピックってもともとは、戦争や災害で身体の一部を失った方たちの社会復帰という位置づけもあったっていう話を聞いたんだけど、今はそれ以外の人や要素も含まれているなと。山田さんのまわりでは、スポーツに関連したほかの事例ってありますか? 山田:そうですね。この話を聞いてくれている方は「ゆるスポーツ」を知ってる方は多いんじゃないかと思いますけどね。あれはたしか、「運動音痴な人ができるスポーツ」っていうニュアンスで発信してたのかな? スポーツのルールに乗れない人って、身体のどこかに障害がある人だけじゃなくて、五体満足でも運動は苦手な人はいますよね。たとえば「走るのは得意だけど、球技が苦手です」とか、「チームプレイが苦手です」とか。そもそも「身体を動かしたくないです」っていう人もいるなかで、「スポーツ=ハードに身体を動かす」っていう固定概念にある種、対抗するものとして、ゆるっと身体を動かして楽しめる「ゆるスポーツ」っていう言葉で表現してるのが、めちゃくちゃすごいなと。多分、体験したことある人も結構いるんじゃないかな。 浅野:たしかに。特にチームスポーツって、絆を感じられるいい側面もあるけど、そこから爪弾きにされてしまったり、できない自分と向き合わなければいけなかったりするっていう問題もあったりするじゃない? 山田:うんうん。 浅野:うちのおじいちゃんがゲートボールに革命を起こした人なんだけど(笑) 山田:ええ!? そんなすごい人なの!?(笑) 浅野:地域のね。じいちゃんが入るまで、その地域のゲートボールはおじいちゃんおばあちゃんのいじめの温床になりやすい場所で、すごい揉めることが多かったんだって。ゲートボールって交互に打ち合っていくから、ちょっと下手な人が失敗すると、すごい怒鳴って、「なんでそんなところに打つんだ!」とか、「来るな!」とかって言う人もいるらしくて。 山田:ゲートボールって、ほのぼのやってるイメージがあると思うけど、いきなりイメージ崩れるね。すごい。 浅野:そう。だから昔は町内会でゲートボールやってた人も多かったと思うけど、最近では空き地状態になってるゲートボール場も結構あるみたいなんだよね。 山田:へー。 浅野:それで部員がめちゃくちゃ減った時に、たまたま新しく入ったうちのおじいちゃんが「これはまずい、やり方を変えよう!」って言って、上手い人と下手な人を近づけるためのオリジナルルールをつくったらしくて。 山田:おもしろい! 浅野:そこから地域のおじいちゃんおばあちゃんたちが、「そういうやり方なら怒られないから私も入るわ」とか、「辞めてたけど、やりやすくなったって聞いたからまた来ました」とかって言って、部員が倍ぐらいに増えたらしくて。 山田:へー、いい革命を起こしてるね! 浅野:そうそう。オリジナルルールだから大会には出れないみたいだけど、本来だったらゲートボールや地域スポーツって、地域に新しく引っ越してきた人だったり、独居老人の方だったりがつながって、お互いを気にかけるためのひとつのきっかけとしてやっていたはずだから。そこの良さに立ち戻ったのが「じいちゃんすげえな」と思いながら聞いていて。 山田:いいじいちゃんだよ! 浅野:ね。そう思うと、リーグ的なスポーツのあり方って、いかに平等にやっていきましょうと言ってても、どうしても社会的な関係性が出てきてしまうこともあって。たとえばアメリカンフットボールで黒人の方を応援するポーズをした人が処罰されてしまうような事例とか、不平等さもはらんでいたりする。だから、そこを乗り越える方法として、新しいスポーツのあり方やルールをつくっていく「ゆるスポーツ」は面白いなと思って聞いてましたね。 山田:はい。 浅野:それでいうと、イギリスのラグビーリーグで、自閉症の人たちの社会参画や、お互いのコミュニケーションを促進するきっかけとして、「Learning Disability Super League」っていうのを立ち上げている人たちがいて。ラグビーってフィジカルスポーツだからどうしてもぶつかることや接触は多少あるけど、なるべく年齢や障害の有無関係なくスポーツに参加して、みんなと喜びを分かち合おうっていうプロジェクトをやっている団体があるそうなんですね。イギリスでラグビーはめちゃめちゃ人気スポーツだから、当事者の人にも「身近なスポーツに自分も参加できるんだ!」っていう喜びもきっとあるだろうし。あと重要だと思うのが、戦って上に行くというような競技性ではないスポーツのあり方を、ルールからつくろうとしていることと、そのためにコーチ向けのコーチングもやっていること。 山田:へー、面白い。 浅野:そうそう。だから、どうしても社会からの疎外を感じる場面が多いなかで、一緒に楽しむことができるっていう視点も重要だし。 僕も生まれは兵庫県だからさ、阪神タイガースのユニフォームを着たら、テンション上がるじゃない?みたいな。 山田:なるほどね。 浅野:実際、プロリーグのユニフォームも着ることができるらしくて、プロ選手から教えてもらえる場面もあるらしい。そういう環境や関係をつくっていく時に、ユニフォームがいい形で使われると、「俺この地域に住んでるんだ!」っていう参加している人たちのプライドも育まれるから、ルールづくりから、それをみんなで共有するコーチング、それを表すユニフォームというのが面白いなと思って、この事例を紹介しました。 山田:なるほどね。スポーツって身体を動かして健康になるだけじゃなくて、できることが増えることもそうだし、チームワークを育む良い場でもあると思うし、地域のスポーツチームと連携してるんだったら、なおのこと地域への愛着もより強くなるだろうし。日本でもプロスポーツチームのジュニアはあるけど、そこに参加する子どもたちの多くはプロになるための登竜門として、ジュニアにいるイメージがどうしてもあるんだよね。もちろんそれはそれで価値があると思うんですけど、そうすると参加できる人は限定的だし。 スポーツって実は、ルールを変えることで、いろんな人が参加しやすくなるための絶妙なコントロールができるのも面白さだったりもするよね。まさにユニフォームという表現のあり方も含めて、インクルーシブを考える上で絶妙に面白い領域だなと思いましたね。 浅野:そうだよね。でも同時に、隣に社会制度的な部分があるのも、スポーツの難しいところでもあると思うんだよね。 山田:たしかにね。 浅野:相手を責めてしまったりとか。勝ち負けがあると、どうしてもそこに執着してしまうのもわからなくはないなと思うし。 山田:うんうん。 浅野:だから、そこをどう乗り越えるために何ができるかというのは面白いなと思っていて。 山田:うんうん。 浅野:名前をちょっとど忘れしちゃったんだけど、今その話を聞きながら中国系のメディアアーティストの方を思い出して。彼女は、アジア圏にあるラジオ体操や日体大の集団行動のようなものが、国民の健康を守ると同時に、国民をコントロールするプロパガンダとして使われていた事実をベースにしながら、新しいラジオ体操的なものを考えるプロジェクトをやっていて、すごく面白いなと思ったんですよね。さらに現代的なところでいうと、「細いほうがいい」「マッチョなほうがいい」「ボンキュッボンのほうがいい」みたいなルッキズムを乗り越えるための方法としても提示されていて、新しいストレッチや身体の使い方を考えて、アート作品にしているんだよね。それをみんなで運動するパフォーマンスとしてもやっているみたい。 体育やスポーツをいろんな問題や可能性を孕んだ題材として捉えたときに、もうひとつ面白いなと思った事例が「Multiform」っていうプロジェクト。デザインスタジオのStudio Fontanaが2019年からやっていて、ルールをつくる、ユニフォームをデザインする、みんなで一緒に楽しむっていうのをまとめてセットにしたものなんです。ドッジボールとハンドボールとバスケットボールを混ぜて分解したような感じで、最初は3チームに分かれてやるスポーツで。みんなハーフパンツとシャツを着ているんだけど、最初、濃い青色だったメンバーが一定時間経つと、シャツの一部を取り外して広げると水色になって、水色だったメンバーがそれを外すと白色になってみたいな、だんだんチームメンバーがごちゃごちゃになっていく。さらに2ターム目に入ると、大部分は濃い青色だけど、部分的に水色が入ってくる、一見見間違えてしまうようなトラップがあって。だけどその間違いも楽しめるようなユニフォームになっているんだよね。ボールを回し合いながら、間違えてしまうこともありうるし、勝ち負けの線引きがどんどん曖昧になるルールになっている。実際、小・中学校の子どもたちでプレイして、彼らがどういうことを感じたか、どういう心の変化があったかまで含めてインタビューしていくプロジェクトなんですよ。 だからスポーツのユニフォームっていうと、冒頭に山田さんの話もあったように、機能性が前面に出てきやすいかもしれないんだけど、そうじゃなくて、社会との関係性を変えていく、ひちつの方法として、ユニフォームに着目してるのが面白くて、このプロジェクトを紹介しました。 山田:なるほどです。白色と水色と濃い青色のユニフォームの3チームで、六角形みたいなフィールドの中で、ボールを回し合ってるんだけど、自分のユニフォームの色を簡単に変えられる機能がついているから、一定時間が立ったらランダムに変えて、「自分の味方、誰!?」みたいに混乱しながらするスポーツってことだよね? ざっくり言うと(笑)。これは難しそう! 浅野:頭がこんがらがりながら、楽しめる感じだよね。 山田:「間違っていいんだ!」って、間違いが面白くなるっていうのは面白そう。日本でもやってみたいですね。 浅野:ね。もちろん男女や年齢の差があっても楽しめるのもあるけれど、彼らがデザインをしていく上で言っていることとしては、どうしても体育や運動が敵対的なものになってしまっていたり、多様性が非常に限定的になっていたりっていう問題があって。たとえばバスケットボールやバレーボールだったら、背が高ければ高いほど強いとかさ。 山田:うんうんうん。 浅野:あるいは男性の方が女性よりも肉体的にはぶつかった時に強いとか、そういう制約・制限を強めてしまうルールづくりに、どうしてもなってしまっているから、そこを引き剥がすために何ができるかってときに、文字通り「ユニフォームを一部引き剥がす」というか。関係性をどんどん曖昧にしていくアプローチをしていて、体育・スポーツにおいて「私らしさと向き合う」ときに表面化している問題をしっかりと捉えているプロジェクトだなと感じますね。 山田:うんうんうん。すごい面白いですね。 浅野:日本でももはやブルマを見なくなって、ハーフパンツとシャツに切り替わってたりするから、こういう事例を見てると、昔ながらのユニフォームのあり方自体も考えていった方がいいんだろうなと思いますね。 山田:はい。 ________________ セットリスト紹介(3) ________________ <転換ジングル> 恋に落ちて/音遊びの会 浅野:ファッション、スポーツと続いてきましたが、背景にあるのは「自分らしさ」。個と個がぶつかり合う瞬間をどうやって柔和にしていくのかっていうときに、着ているものがもついろいろな役割があって。そういったものをどうやって変更することで、関係性をより良くすることができるのかを考えているデザイナーがいることもお話してきました。 実際、そういうものって、もちろんファッションやスポーツだけでなく、いろんな事例でありますよね。個人的に興味深いなと思って見ているのが、バービー人形。近年、非常に多様なキャラクターをつくっていて、最近だと2023年にはダウン症のバービー人形が登場しました。これまでも男性女性以外のキャラクターもいて、いろんな障害のある方だったり、車椅子のキャラクターもいたりしたんだけども、ダウン症のバービー人形は今までいなかった。当事者の人たちのある種ヒロインというか、自らもダウン症であるイギリス人モデルの方が「すごく嬉しい」と語っていました。「ダウン症だから」ってことではないんでしょうけど、自分らしさを表現しようとするときに、バービーちゃんのような、ある種アイコン化したものができたと。こういう形で、子どもたちの手に触れる人形にも波及しているのがすごく面白い。社会の変化を表しているなと思いながら見てました。 山田:バービー人形から、ダイバーシティにまつわる新しいキャラクターの発信があるときって、「あ、社会が変わってきているんだな」って感じる。車椅子のキャラクターをはじめ、すごく早い段階から多様なキャラクターのバービー人形を発信してた印象があって。そういう意味では先鋭的というか。世界でどういうトレンドになっているのかは、人がアイコン化されたバービー人形を見ると「おお、今そんな感じか」って、なんとなくわかるなと思う。いいですよねバービー。すごいチャレンジングだなと思いますね。 浅野:ね。レゴも車椅子のキャラクターのために、パーツをつくったりとか。僕、知らなかったんだけど、イギリスに「Toy like me=私のようなおもちゃ」っていう団体があるらしくて。 山田:へー。 浅野:その視点ってすごいなと思っていて。“ヒーローのような”というように、ある種ステレオタイプを生み出してしまうきっかけになってしまうこともある。そのなかで、バービー人形やリカちゃん人形も、「この体じゃないと恥ずかしい」とか、「かわいく綺麗じゃないといけないんじゃないか」みたいな強迫観念、いわゆるボディシェイミングを乗り越えるときに、「私のようなおもちゃつくってくださいよ!」ってオープンに言えて、それを受け入れる社会にしようとしているのが、個人的にはすごくいいなと思う。メガネのキャラクターも昔はオタクで、金にセコそうでとか、ステレオタイプ的に描かれていたけども、今はメガネをかけている主人公だっていっぱいいるし。そういう社会の変化がよりポピュラーになっていくときに、おもちゃの存在は非常にいいですよね。 山田:うん。おもちゃも量産されるからこそ、ある種の固定化したイメージを生み出しやすいツールでもあるから。特に人形を使うものはまさにそうだよね。それこそアニメだと、『プリキュア』もいろんな多様なキャラクターが登場して、毎シーズンで話題になってるよね。私は最近のプリキュアは知らないんだけど。 浅野:え、マジ? 今回の『プリキュア』は、めっちゃ話題になってるんだよ。 山田:あ、そう! なんか話題になってたんだよね? 浅野:犬なんだよ、まさかの。 山田:そうそうそう、見た! 浅野:いわゆるマルチスピーシーズ的な視点がそこに含まれているのではないかっていう。文化人類学者の人たちはワキワキしてるんじゃないかなとか思いながら見てた。 山田:(笑)いや、だからすごいよね。 浅野:そうそう。だからね、ファッションなどの身につけるものだけじゃなくて、自分を投影する存在として、こういうおもちゃが出てくるのはいいなと思いますね。 山田:うんうんうん。 浅野:一方でアニメーションだと、ディズニーは逆に「ポリコレを意識しすぎなんじゃないか」という社会的な批判を受けて、何か新しい動きがあったんですよね? 山田:そうですね。「ディズニーのCEOが近年の作品が“偏り過ぎていた”と認める」というニュースがあってね。「目的を見失っていた」みたいなことを言ってて、ディズニーは逆にぶれはじめたというか、迷いはじめたというか。実写版で肌が黒い主人公になったからって、特に話題になったのが『リトルマーメイド』だったと思う。私は観ていないので全然わからないんですけど、もともとのアニメでのアリエルのイメージとは大きく変わっていて、ビジュアルイメージで「原作とは全く違うじゃないか!」ってなって。それ以降も『美女と野獣』の舞台の役者さんを変えてみたりとか、いろんなところでも話題になってる。 だから今ディズニーで起こってるのは、原作があるストーリーをリメイクして、新たな形で表現しなおすときに、「原作と違うやんけー」ってことなんだろうなと思っていて。そこをどう捉えたらいいのかっていうのは、私も悩み中ですね。 浅野:うん。ディズニーとしてはやっぱり子どもたちに楽しんでもらいたいなかで、ポリコレ的な視点から批判をされてしまうのは、個人的には微妙なところもあるなと思っていて。つまり「誰もが楽しみたい」ときに、「誰かが我慢しないと楽しめないのか」っていう話なんじゃないかと思って。それを認めるか、認めないかを突きつけられているのが、ディズニーなのかなと思うんですよね。 山田:うんうん。 浅野:一方で、じゃあ「誰かが楽しめないからつくらない」ということではないと思っていて。「弱さをどうやって受け入れるのか」とか、「多様性をどう表現するのか」は、別にいろいろなものがあってもいいじゃんと思う部分もあるんですよね。 たとえば『ズートピア』観たことあります? 山田:観たことない。 浅野:女性警察官のウサギが主人公で、肉食動物と草食動物が共存している社会のなかで、ほかの動物と一緒に困難を乗り越えていくストーリーの映画なんですけど。放映された当初は多様性を表現した作品として評価されていた一方で、ジェンダー表現があまりにもステレオタイプすぎると言われていて。男性が上司にいて、「弱い女性」像が動物の世界でも同じように表現されているみたいな。 だから多様性に関する評価がどんどん可視化されたり、言葉になったりしていくなかで、当時は最先端の多様性を描いた表現が、むしろステレオタイプを生み出す映画になってるんじゃないかっていう批判をされてたりしている。 特にアメリカ映画では、ヒーロー・ヒロイズム的に、弱さを描くのが難しい印象がある。日本の「のび太君」のように「弱い主人公」って、アメリカ映画では多分ありえない話なんだろうけど、弱さがゆえにサポートしてくれる不思議道具があって、弱さを乗り越える人間性を構築していくストーリーが含まれている。そう思うと、バービー人形やディズニーの映画、日本のサブカルチャーは、そういうステレオタイプをもう一度捉えなおす上で、面白いきっかけになりそうだなと思いましたね。 山田:多様性を表現する映像作品って結構増えてるじゃないですか。わかりやすいところだとストーリーのなかで障害の当事者をフィーチャーする映画作品もものすごく増えてますよね。日本のドラマでも増えていると思うし。だからわかりやすい当事者をストーリーを盛り込んでいくことは増えてはきているけども、性差の表現は絶妙にわかりにくかったり、顕在化していない違いが意外とあったり。まさに上下関係だったり、女性が弱いっていう表現の仕方って、日常に忍びこんで馴染んでしまっていて、一見わかりにくいことが今、顕在化しつつある年だよなとは思う。 オリンピック・パラリンピックもあって、「インクルーシブデザイン」っていうキーワードが広がってきているからこそ、このラジオでも使っていて、切り口として扱いやすくなってる。比較するものではないけど、見た目でわかりやすく表現しやすい障害や困難と、見た目では一見わかりにくい心理的なことも含めたものがだんだんフォーカスされはじめていて。私たちはどうやって、そのことに向き合って付き合っていかなきゃいけないんだっけ?って、すごく問われているような気がしてる。 結局、映像作品でもそうなんだけど、作品を出したときに「私たちはこういう思いがあるから出してる」っていう確固たる意思があって、説明できるのが大事だなって思う。 浅野:うんうん。 山田:何かを出せば、反対側から批判もあるし、別の方向から出してもまた反対側から批判があるのは現代では避けられない。価値観バトルがはじまっちゃう時代に、「いや、ちょっとブレててわかりません」とか言ってると、グラグラして、いよいよ叩かれやすくなっちゃう。まわりでその作品をせっかく良いと思っていた人も、「『良い』って言ってよかったんだっけ?」って不安になっちゃってると思うんだよね。それが間違ってるかどうかは正直わからないから、これから企業もクリエイターも含めて、強い意志で「私たちはこういう想いで出したんです! これを受け取ってくれ!」っていうスタンスをちゃんと表明することが求められる。私たちも含めてね。 浅野:繰り返しになっちゃうけど、それが「上から目線だ!」と感じさせてしまわないためにも、どういう手続きを踏むのか、どんな人たちの声を反映しているかについて、より自覚的でいる必要があるってことだよね。 山田:うんうん。「当事者の声を聞いて、こう考えたんだ!」ってなると、すごく説得力が増すと思っていて。たとえば前に東京都現代美術館でやっていたドラァグクイーンの企画がバズったとき、結構、批判されていた気がするけど、現美はスタンスを変えなかった。「これまでこういう歴史があって、ここでやる意味があるから、変えません」ってはっきりスタンスを表明をしてたんだよね。なんでああいうことが言えるのかっていうのは、一緒に表現する人たちとともに対話をして、自分たちの意志はこうだ!って強く思えたからだと思ってて。批判も受け止めながら、大事にしたいスタンスはここにあるって決めていると思う。だからスタンスをつくる上でも、当事者の声をどういうふうに共有して対話ができるかがものすごく大事だなって思うな。それが強さになるような気がする。 浅野:うんうんうん。そこにたどり着くための教養や経験、人との関わりがあるかないかはやっぱりそうした部分の意識に非常に大きく影響してきそうですね。 山田:うん。 浅野:ちなみに、誰もがそういう環境に身を置いたほうがいいと思う一方で、なかなか学ぶ機会がなかったり、日常でそういう他者と出会わなかったり、出会っていても意識できない人たちもいたりするわけじゃないですか。そういうときに、さっきの「Give Me A Hand」のように、楽しみながら学んだり、学ぶための環境をデザインするアプローチがあると思うんだけど、山田さんが知っている日本の事例とかってありますか? 山田:さっきも出てきて少しトピックが戻るけど、おもちゃはとっつきやすいよね。最近、「黒ひげ危機一発」がリニューアルされたニュースがすごい面白くて。多分、小さい頃に遊んだことがある人も多いと思いますが、海賊の人形が樽の中に入っていて、樽に空いた穴にナイフのおもちゃを刺していって、ハズレに当たると人形が飛び出してくるゲームなんですよ。それが樽にナイフを刺すと、音が出るようになったらしいんですよ。 浅野:へー。 山田:ざらざらしてるものとか、ナイフの質感や形状も何種類かあって、実は絶妙なリニューアルがされている。タカラトミーさんが出してるんだけど、開発に視覚障害のある女性の社員さんが関わっているっていうニュースがあったんですよね。ただ子どもが黒ひげ危機一発で遊ぶときに、音が鳴ってて楽しいのはもちろんあって、目が見えない人のためにというよりか、いろんな人のところに届けるために、目が見えない人の視点からの発想を追加して、よりバリエーションが増えている状態になっているんですよね。これすごい面白いなと思ったのが、目が見えない人と一緒に遊ぶことをいきなり押し進めるわけではないけど、目が見えない子たちと見える子たちが一緒に遊ぶこともできる。だから、たとえば幼稚園・保育園、学校で、いろんな子たちが、このおもちゃを通じて関わることができるようになるっていう流れは理想かもしれないけど、描きやすいなと。もっとこういうのが増えたらいいなと思うんですよね。 浅野:「だから、音が鳴ってたんだ!」とか「だから触り心地が違ったんだ!」みたいなことに、どこかで気づくと面白いんだろうね。 山田:ゲームやおもちゃの開発って、インクルーシブに関連した事例が結構、出ていて、ボードゲームも何年かに一回くらいはインクルーシブデザインっぽいものが出てるんですよね。 ちょっと前に紹介されて注目していたのは「グラマ」っていうボードゲーム。物の重さをはかる「はかり」がアイデアの土台になってると言ったら正しいのかな。いわゆるペーパーでコマを進めていくゲームでもないし、カードを用いたゲームではなくて、物の重さの絶妙な違いを表現するゲームなんだよね。 今どきだなと思ったのは、これ大学生たちが主体的につくっているんですよね。それがすごい面白いなと思ってて。 浅野:うんうん。 山田:これも目が見えていても見えていなくても遊べることがコンセプトになっているゲームで、遊び方はまた検索してもらえたらと思うんですけど、2人とか4人でできるんだったかな? どれくらいの人数でできるのかがわからないけど。 浅野:今、見ていると4人かな? 山田:そうだね。天秤にかけるはかりが交差したような4つのお皿に、いろんなものを乗せながら、みんなで協力しながら、重さを調整して均等にさせていくゲームなんだよね。 浅野:協力して、バランスよく釣り合わせると成功っていうやつだね。 山田:そうそう。たしか、コンビニにあるものとか、学校の教室にあるものとか、場所をまず決めて、天秤に置く重さのものをテーマとなる場所に合わせて考えるんだよね。たとえば「コンビニにある肉まんの重さ」だったら、その重さの重りを巾着袋にジャラジャラ入れて乗せるっていうのをみんなで絶妙に調整していく。すごいルールはシンプル。 浅野:うん、たしかに。ルールを考えながら、それに伴うオブジェクトをつくるという点においてはスポーツと類似するところは結構ありそうですね。 山田:うんうん。インクルーシブを考える上で、ルールメイキングはすごく重要な観点で、「ルールは変えられない」とみんな思い込みがちだなと、つくづく思うんですよね。たとえば今、高校生の子が学校の校則や制服を変えようとしていたりとか。私たちが高校生のときはそんなの変えられっこない感じだったじゃないですか。今となっては変えていける。でもそれは自分たちのわがままで変えるんじゃなくて、これが自分たちの生活にとって不便だからとか、これが生活のなかで困るから変えましょうって、ちゃんとを議論する事例が若い人たちから出てきてるのが、いい時代になったなって(笑)。「私たちもそういう時代に10代でありたかった」っていう気持ちになるぐらい時代が変わってきてるなと思う。 だから、ルールをもう一度違う視点で捉えなおしてみるっていう意味で、ゲームやスポーツもすごく参考になるし、実はそんなに難しいことではないなって思いますね。 浅野:自分たちでルールを決めたり、変えたりすることに立ち会う場面って、もしかしたら限定的だったのかもしれないですね。 山田:うんうん。 浅野:今聞いてて思い出したのが、とある高齢者福祉施設の代表の方が、施設の中だけで完結しない、いわゆる地域包括ケアシステムのようなものに対して、どうやったらスタッフの人たちに目を向けてもらえるかを考えていことがあって。もちろんいろんなリサーチをしたり実際の働き方を見たりしていくなかで、変化のきっかけとして、最終的に僕らが提案したのが「ボードゲームをつくろう」だったんですよ。 山田:へー。 浅野:その時につくったのは人生ゲームみたいな形ではあるんだけど、「子どもやお金を増やしたら勝ち」という人生ゲームのルールに対して、地域包括ケアシステムでは、「いろんな関係者を巻き込むことができたから勝ち」にしたんだよね。サイコロを振って、たとえばプラスの目だと「この福祉施設に面白い人がやってきて、それを見たファンが○◯人増えました。さて、その面白い人はどんな人でしょうか?」とか。一方でマイナスの目だと「とある出来事をきっかけに職員が辞めてしまいました。その人が落胆してしまった出来事は何だったのでしょうか?」みたいな。それを職員の人たちと議論しながらゲームをしていく。もちろんゴールを目指すとか人数を増やすとかっていうゲームの面白さもあるんだけど、みんなでアイデアを出して、「それ面白いね」と言い合えるフラットな関係にしようしたときに、マス目に書かれていることをきっかけに話せるボードゲームは非常に有効に使えるなと思った。 今日の話を振り返ると、ルールをつくるっていう話だったり、ファッションやユニフォームなど、関係性を読み解いて解きほぐしていくためのオブジェクトは何だろうかを考えたり、そこで表現しようとしている「自分らしさ」は何か?を考えていたりしていくうえで、インクルーシブな視点はまだまだ有効なところがたくさんあるんだろうなと思います。 ________________ エンディング ________________ <転換ジングル> 恋に落ちて/音遊びの会 浅野:さて、そろそろお時間となりました。今日も脱線しながらの1時間となってしまいましたが(笑)、いかがでしたでしょうか? 山田:まあね(笑)。毎度、編集者の方、泣かせになるんじゃないかって、そわそわしながらこれを喋っています。 浅野:(笑)。リスナーのみなさんからのご意見・ご感想、いつでもお待ちしています。またインクルーシブにまつわる、ふとした疑問にもお答えしていけたらと思うので、ぜひお気軽にお便りなどもお送りいただけたらありがたいです。 山田:次の配信もDIVERSITY IN THE ARTS TODAYで公開するので、ぜひチェックしてみてくださいね。 浅野:それではまた次回。お相手は浅野翔と 山田:山田小百合でした。 <エンディング曲> 4649 U5/音遊びの会