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(カテゴリー)INTERVIEWS

(タイトル)俳優・永瀬正敏と写真家・齋藤陽道がとらえた光とは? (3/3)

(この記事について)

前作『あん』で初めて音声ガイドに触れ、視覚障害者の人たちにも映画を届けたいという思いから、河瀨直美監督が手がけた最新作『光』。映画の音声ガイドを製作する美佐子と弱視のカメラマン雅哉との交流を描いた本作で、雅哉として出演するのは写真家としても活動する俳優の永瀬正敏さんだ。生まれつき耳の聞こえない写真家・齋藤陽道さんは字幕付きで本作品を3回観て、自分も体験したことがある感覚を覚えたという。二人が映画を通じて見た光について訊いた。

(更新日)2017年06月16日

CREDIT

[文]  小川知子

[写真]  田上浩一

今を受け入れて、一歩踏み出すという選択

齋藤:雅哉さんの体験する、見えているところから見えなくなるというのは、とても怖いですよね。どうやって見えなくなっていく気持ちを掴んでいったんですか?

永瀬:雅哉の場合は、突然病気で弱視になって、その時点で将来見えなくなることを医者に宣言された人なんです。なので、映画が始まる前に、いろんな方々にお会いして話を聞いて。その時に、みなさんがおっしゃっていたのが、「映画で描かれている、雅哉が生きている時間が一番苦しかった」と。絶望だけじゃなくて、微かに見えるという希望も持っている。もしかしたら、いつか奇跡が起きるかもしれないって。絶望と希望が常に心のなかにあるから辛い。だから、雅哉が美佐子に激しく言う、「逃げるな」という言葉も、本当は自分に向けたものなのかもしれないですよね。

齋藤:舞台挨拶でも登壇されていた盲目の大谷(重司)さんは、ベンチプレスで世界チャンピオンになった方なんですよね。

永瀬:はい。大谷さんもともと絵を志していた方で、目が見えなくなってから趣味でバーベルを上げてみたら、実は自分がすごく力持ちだと気付いて世界チャンピオンに。

齋藤:すごいなあ。本当に。

(写真について)新宿バルト9で行われた舞台挨拶。永瀬さんの役作りをサポートされた大谷重司さん(写真左)、映画にも出演された田中正子さん(写真右から2番目)が花束を持って駆けつけた。

永瀬:大谷さんと話をしている中で、スタッフが「盲目になると宣言したときに、準備はなさったんですか?」と聞いたんです。点字を覚えるとか部屋を整理するとかね。彼はすごく温厚な方なんですが、そのときに初めて声を荒げて、「そんなことできるわけないじゃないか!」とおっしゃって。「そういうことは見えなくなってから仕方なくすることだ」と怒られたんですね。たぶん、そのときの気持ちが彼の中で鮮明に浮かび上がっていたのだと思うんですけど。今回の映画は、ほかにもたくさんの障害のある方々にアドバイスをいただいてできあがっているんです。

齋藤:ああ……。そうなんですね……。

永瀬:だから、みなさんが観られてどう思われたかは、ものすごく気になりましたし、ドキドキしました。たぶん、言いたくないことや思い出したくないことも含めてみなさんが想いを僕に託してくれたので、そこに嘘はついちゃいけないと思っていましたし、何とか伝えたいとがんばりましたけど。今日の舞台挨拶で、全盲のモニターとして出演してくれた田中正子さんに、「泣きました」と言っていただけて、ほっとなりました。

齋藤:正子さんのシーン、どれもどれも本当に素晴らしかったです。

永瀬:河瀨さんって、映画を一から順撮する方なんです。正子さんには台本なしで率直な意見を言っていただいていたので、あのシーンの彼女の言葉をきっかけに映画全体が後半向かっていく方向性も変わったのだと思います。僕もお芝居が変わりましたしね。それほど素直で、素晴らしい言葉でしたね。

齋藤:僕、中学生まで一般校に通っていました。会話ができない日々が続いて、一生このままなんだろうかと想像したら、たまらなくなりました。このまま、ひとりぼっちだとヤバイぞ思い、健聴者社会から逃げるようにして、高校でろう学校に入りました。当時は逃げ道だと思っていたんですが、実際に入ってみたらまったく違いました。朝、友だちと会って、僕が「おはよう」と言うとき、普通に伝わって、そして向こうからの「おはよう」も普通に伝わってくる。その当たり前のことが、すごく嬉しかったんです。自分の身体を素直に受け入れて、自分の気持ちに濁りのない言葉を言えるときの嬉しさ。その思いを『光』の雅哉を見ながらしみじみと感じていました。

永瀬:そのときに補聴器を外したんですか?

齋藤:外したのは二十歳のときなのですが、かすかにでも聞こえていると、やっぱり音に頼ってしまうんです。なんというか、音に気持ちを乱されるのが嫌だった。それで補聴器をつけることをきっぱりやめて、見ることに集中しようと思いました。そこから「見る力」が上がってきたんだと思ってます。

永瀬:一緒ですね、雅哉がカメラを投げたシーンと。

齋藤:あっ! うわあ。びっくりしました。本当にその通りです。それまでの僕は補聴器が生きるためのよすがだと思っていて。まさに、心臓だと思っていました。やめるにやめられず、だらだらと意味もなくつけたり外したりする時期がありました。一切つけることをやめてから、気持ちもすっきりしてきて、身体も受け入れることができてきて……。あぁ、本当にそうだ。全然気づかなかったです。

永瀬:次に向かうため、なんですよね。

齋藤:僕がもし目が見えなくなったらと考えました。難しいことはもちろんのうえで、それでも写真は続けたいなと思いました。その理由としては、ユジャン・バフチャルという写真家を知っているからなんです。こうして障害がどうこうということではなく、自分の身体を活かしながら撮る写真家が存在しているというのはとても心強いことだなと思います。

永瀬:盲目の写真家の方ですよね。写真家の荒木経惟さんも、今は右目の視力がないけれど、それをポジティブにとらえて、見えない方の右目のメガネをマジックで黒く塗って写真を撮ってらっしゃる。撮り続ける道も、雅哉のようにカメラを捨てて今を受け入れる道も、どっちの道もあるんじゃないかな。

(写真について)12歳で盲目になった、スロヴェニア生まれの写真家ユジェン・バフチャルの写真集『Le Voyeur absolu』。

齋藤:永瀬さんなら続けますか?

永瀬:僕自身は、もし盲目になっても、使っていただけるのであれば役者は続けたいですね。許されればですけど……(笑)。映画では、雅哉の何十年後は描かれていないからわからないですけど、さっきお話した大谷さんのように、今の自分ができる表現を選択していきなりベンチプレスを始めたり(笑)したのかもしれない。でも、執着を捨てて一歩を踏み出せたことが、”光”なんじゃないでしょうか。


(写真について)©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

『光』 

2017年5月27日より公開中

監督・脚本:河瀨直美
出演:永瀬正敏  水崎綾女
神野三鈴 小市慢太郎 早織 大塚千弘/大西信満 白川和子/藤竜也

[STORY]
視覚障害のある人に向けて映画の音声ガイド制作に関わる美佐子(水崎綾女)は、映画のもうひとつの魅力を言葉で伝える仕事にやりがいを感じながらも、単調に繰り返される日々に迷いを感じていた。そんななか弱視のカメラマン雅哉(永瀬正敏)に出会い、次第に視力を奪われていく彼の葛藤を見つめるうちに、何かが変わり始める。全国公開中。

*作品の詳細や劇場情報は公式サイトよりご確認ください。

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