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(カテゴリー)展覧会

(ニュースのタイトル)集め集められる、この世界の断片を見せる企画展「世界の集め方」鞆の津ミュージアム(広島県)にて開催中

(更新日)2018年01月19日

日本財団助成事業
(この記事について)

知れば知るほど、わからなくなる。世界は広い。そんな途方もなさを感じ取る。

本文

 この世界の断片をひろい集めるという営みは、古今東西、いつでもどこでもありました。他人にとっては「無意味」「無駄」と思われることでも、心ひかれる何かのことなら、どんなことでも知りたいし手に入れたいという好奇心に導かれ、あれこれどこまでも集めてしまったという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。なぜそんなことをしているのか、自分でもよくわからない。ただ、自分にとって未知なる何かにふれることや愛好するものに囲まれて暮らすことの愉楽は、それだけで他の何ものにも代えがたい私たちの生きる糧である、ということは言えるのかもしれません。
 本展は、自分の身のまわりにある様々なものやできごとを集めることから生み出される多様な表現をご紹介するものです。それぞれの「眼鏡」を透かして世界の混沌に投げかけられるきめ細かなまなざしは、見えているはずなのに視ていない物、聞こえるはずなのに聴いていない声、そこに在るのに無いものにされることにも等しく光を当てることで、それら小さな存在を忘却から救い出し、それまで知っていたのとは別の世界の姿を異なる解像度で多面的に私たちへ示してくれるでしょう。


【 出展者情報 】

三松 正夫
1888 年北海道生まれ。1977 年逝去。有珠郡壮瞥町の元・郵便局長。1943 年に火山活動を始めた有珠山の麓に広がる麦畑に隆起し始めた溶岩ドーム(後の「昭和新山」)の定点観測を行う。その記録にもとづき作成された通称「ミマツダイアグラム」は、火山の誕生を記録した貴重な資料として国際的に評価されている。三松は後に昭和新山を私費で購入するなど、自然保護につくした。本展では、撮影フィルムも手に入らない当時、絵画や日記の形式で火山活動の一部始終を記録した作品を展示する。

三松正夫『昭和新山 生成直後全図』

増田 善之助
1928年東京都生まれ。2017年逝去。東京都文京区の土木部技術職として働くかたわら、 1950年代中頃より郷土史に興味を待ち始めたことをきっかけに、独自の地図制作を開始。古地図・古資料や自らの足で各地を歩きまわって手に入れた地域の情報などを参照しつつ、歴史的事象やそのときどきの個人的関心を反映した様々な情報を混在的に描き込んでいた。これまでにつくられた地図は300点以上。本展では、それらの自作地図を展示する。

増田善之助

塩見 實
1933 年京都府生まれ。京都府の土木建築部で設計・施工を行う仕事を退職後、故郷である福知山の歴史や時事、個人的な想いなどを綴った詩の創作を本格的に開始。かつて小学校の音楽教師であった臼井清美(2017年逝去)に作曲・編曲を依頼した 2000 年頃以降、自らも歌を吹き込んだオリジナルの楽曲約 130 曲をこれまで共同で録音・制作してきた。本展では、それらの楽曲や音源を収録したカセットテープ、手書きの楽曲目録を展示する。

塩見實

藤井 徳夫
1936 年広島県生まれ。スーパー経営のかたわら、小学 3 年生の頃より 60 年にわたって蒐集してきた世界各地の切手約 50 万枚以上を保存・展示する私設博物館「分水嶺」を生活の拠点である府中市上下町に 2005 年開館。事務所を改装した展示室の壁面には、蒐集した切手のうち約 26 万枚を貼り付けた壁画を職員と創作した。本展では、それら蒐集した切手を使って共同で生み出された襖絵や貼り絵、立体作品を展示する。

藤井徳夫

赤田 洋茂
1955 年広島県生まれ。2007 〜2012 年頃にかけて、在住地である尾道市で日々開催されるイベント案内や地元にちなんだレコード盤、自作絵画の紹介など尾道にまつわる多様な文章を掲載したフリーペーパー『尾道文化情報』略して「OBJ」を自作し、街中各所に配布。手書き原稿に既存資料やチラシ、誌面作成で発生したレシートなどをコラージュして編集後、コンビニのコピー機を駆使して印刷された。本展では、OBJのほぼ全号とカラー原稿の一部を展示する。

赤田洋茂

内海 卓雄
1957 年広島県生まれ。手芸や絵画など様々な創作活動を日常的に行う。一方で、かつては、観光パンフレット・チラシなどを手元に収集し、そこに掲載されているホテル・旅館の部屋や温泉・プールなど各種レジャー設備の写真を中心に、観光地の風景・新幹線の車体・国旗など旅行や観光にまつわる図像を切り抜き、台紙に貼り付けコラージュしていた。本展では、その活動から生み出された創作スクラップブックを展示する。

岡 一郎
1966年広島県生まれ。幼少期より創作活動に親しみ、日常生活で体験するものごとを題材とする絵画制作を長年続けてきた。近年は、身近な人たちの髪の毛や服装に着目した横顔の肖像画とその正中面片方半分のみからなる頭部立体像をつくっている。その他、愛好する特殊車両・機材などをモチーフとしたカラフルな抽象画や唇・歯・舌といった身体の特定部位にフォーカスした人物像を描くなど作風は多様。本展では、それらの創作物を展示する。

岡一郎

岡部 洋治郎
1980年広島県生まれ。新聞に掲載されている自然災害や交通事故などの偶発的な事件を紹介した記事を中心に、記事につけられている写真を切り抜いてノートにスクラップ。そのうえで、記事の見出し文やキャプションを手で書き写し、自ら貼り付けた写真にそえる行為を日常的に続けている。これまでに膨大な量を創作してきたが、廃棄されてしまったため、現在は数冊が現存。本展では、それらのスクラップブックを展示する。

岡部洋治郎

LUMMY
1983 年茨城県生まれ。抑うつ病と適応障害での闘病生活 ( 現在は寛解 ) を送る中、自らが服用・消費していた薬の殻や調剤薬局にお願いして保管しておいてもらった薬包シートの廃棄物を収集。2005年頃より、その膨大なコレクションを使って貼り付ける手法で、文字などをモチーフにした作品を制作してきた。2009年より LUMMY名義での活動を開始。本展では、それら薬の殻を使って生み出された作品を展示する。

LUMMY 『心01』2010年

飯山 由貴
1988 年神奈川県生まれ。他者の制作した記録物や話された言葉を起点に、個人と社会 / 歴史との関係を考察し、その過程で汲み上げられていくドキュメンタリーと作家自身が見る世界の交差点を、写真や映像、実際の記録やそれにまつわるテキスト、オブジェ、それらを組み合わせたインスタレーション作品を通して表現している。本展では、自身の家族の1人が持つ幻聴や幻覚の再現を試みる作品『あなたの本当の家を探しにいく』『海の観音さまに会いにいく』および、渋谷に暮らすある1人のホームレス男性についての作品『天国と地獄』を展示する。

飯山由貴『海の観音さまに会いにいく』2014年

飯山由貴『天国と地獄』2015年

尾崎 希実
2000年広島県生まれ。中学生になった頃より、自らが愛好するマンガやアニメの中に登場する様々なキャラクターの表情部分や衣装・装飾品など特定箇所だけ抜き出して模写する創作活動を開始した。その他にも、蒐集している雑誌の記事やお菓子の袋などをスクラップしたり、切り出した各パーツやアイテムを組み合わせて独自のキャラ図像を制作。本展では、様々な登場キャラの構成要素が図鑑のように編集・収録された自作ノートを展示する。

尾崎希実

山本 信太
2002 年広島県生まれ。幼少期より、国旗や自動車・飛行機など愛好する対象の種類を覚え暗唱したり、それらを網羅的に描いて集めるなどの創作を行う。近年は、家族とともに全国各地へ出向き自ら撮影した写真をもとに、様々な種類のレトロなホーロー看板のミニチュア制作や車のナンバープレートの描画に没頭している。その他にも、看板や企業ロゴの手描きイラストも存在。本展では、それらの膨大な創作物を展示する。

山本信太


インフォメーション

【展覧会情報】
鞆の津ミュージアム自主企画展「世界の集め方」
会期:2018 3 4 日(日)まで
開館:10:00 – 17:00
休館日:月・火曜日(祝祭日は開館)
会場:鞆の津ミュージアム 広島県福山市鞆町鞆 271-1
   https://abtm.jp
観覧無料

主催:社会福祉法人創樹会 鞆の津ミュージアム
協力:三松正夫記念館、WAITINGROOM、ボーダレス・アートスペース HAP、アーツ千代田 3331、社会福祉法人庄原さくら学園、社会福祉法人ひとは福祉会、杉浦貴美子
助成:日本財団

【関連イベント】
「野中モモ トーク」
ゲスト:野中モモ(作家・翻訳家)
日 時:2018 3 3 日(土)
開 場:17:30 / 開演:18:00 – 19:30
参加費:500 円(受付にてお支払い頂きます)
会 場:鞆の津ミュージアム館内
予約方法:参加者氏名と参加人数を info(at)abtm.jpatを@マークにしてください)宛までメールにてお送りください。

< 内容 >
自らが店主をつとめるオンラインショップ「Lilmag」で多種多様な自主制作物を扱いながら、既存の価値観だけでは捉えきれない周縁的な表現文化に向き合ってこられた作家・翻訳家の野中モモさんをお迎えし、野中さんがこれまでに蒐集された ZINE のコレクションなどの創作物を中心に、世界中で生み出される独自の「小さなもの」から見えてくることについて、お話いただきます。

<野中モモプロフィール>
文筆・翻訳業。自主出版物を扱うオンラインショップ「Lilmag」主宰。単著に『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』。共著に『日本のZINEについて知ってることすべて』。訳書にクリスティン・マッコーネル『いかさまお菓子の本 淑女の悪趣味スイーツレシピ』、アリスン・ピープマイヤー『ガール・ジン「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』など。

会場

[鞆の津ミュージアム] 広島県福山市鞆町鞆 271-1

鞆の津ミュージアム
広島県福山市鞆町鞆 271-1