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(タイトル)女松虫レポート&インタビュー

CREDIT

[写真]  冨田了平

[文・構成]  日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

[インタビュアー]  森真理子

稽古場レポート

今回が初のデュオ共演となるプロダンサーの森田かずよさんと、定行夏海さん。2人が挑戦するのは、コンタクト・インプロビゼーションと呼ばれる、パートナーと身体の接触を続けるデュエット形式を軸にしたダンスパフォーマンス。パートナーの動きの弾みが自分の動きへと連動することで、独特な世界観を表現することができます。

8月下旬、カリフォルニアから振付家でダンサー、衣装作家の、ソンシリ―・ジャイルズさんが来日。今回のダンスデュオ作品の振付を担当します。ソンシリ―さんは、今までに世界各国の障害のある、または、障害のないダンサー達と、コンテンポラリーダンスの制作に取り組んできました。

日本での仕事が初となるソンシリ―さん、二分脊椎症・側湾症を患うダンサー森田さん、そして三人の中で最も年下の共演者・定行さん。言語の壁を越え、また、精神的、身体的な素質の違いも、世代差も巻き込んで、8日間のリハーサルを通じて、3人で3分間のダンス作品を完成に近づけていきました。

稽古初日、ソンシリーさんは二人に、ダンサーとしてだけでなく一人の人間としてどのような人生や背景を持って踊るのかに注目していることを伝えます。自然体のダンサー同士が接触し、お互いに安らぎを感じる動きや形を模索していきます。今ダンサー達が持っているものを最大限に引き出します。練習を重ねるごとに動きの可能性は広がり、更に上のレベルを目指すようになりました。今までにないアクロバティックな動きを取り入れ、限界を作らずに経験を重ねてほしいというソンシリーさんの思いに応えるようにダンサー達も恐怖心を捨てて挑戦していきます。

振付も完成に近づくと、手足の繊細な動きや、360度観客に囲まれることを意識した見せ方など、細かい確認・改善作業を繰り返しました。今回の振付テーマとけあう世界。パートナーの心と体に耳を傾け、また、ともに新しい一歩を踏み出すリスクを冒すことで3分間の作品の中で安らぎと緊迫のシーンが息をするように展開していく。この作品の表現の鍵となるのは信頼だとソンシリーさんは言います。

8日間の稽古が終了し、ダンスデュオ作品が完成。この作品だけに留まらず、森田さんと定行さんの試行錯誤によって習得された技や表現の幅は、これからも広がり続けるように思いました。


アーティスト・インタビュー

20183月にシンガポールにて開催される、アジア太平洋障害者芸術祭「True Colours Festival」で発表する「女松虫 – Onna Matsumushi」の振付のため、20178月に来日していた、ソンシリー・ジャイルズへのインタビューを行いました。アメリカでの障害者との活動や本作への意気込みなど語っていただきました。


――はじめに、アメリカでのご自身の活動やこれまでのダンサー・振付家の経歴について、お聞かせください。

私はアメリカを拠点に活動しているプロのダンサー・振付家です。現在は西海岸カリフォルニア州に住んでいます。フィジカル・インテグレイテッド・ダンス・カンパニーに所属するダンサーたちと、10年間共に踊りました。2015年に、私がアソシエイト・ディレクターとダンス講師を務めていたAxis Dance Company(アクシス・ダンス・カンパニー)を辞め、その後フリーランスで、さまざまなカンパニーのダンサーたちと共演をはじめました。ツアーに出たり、振付をしたり、独立したダンサーとしてより多くの仕事を経験しました。

――Axis Dance Companyに入ったきっかけは何ですか?

きっかけとなったのは、2003年にカンパニーのディレクター、ジュディス・スミスによる講演会を聴講したことでした。彼女の話はとても興味深く、カンパニーのメッセージとミッションに惹かれました。そして2005年、運よくAxis Dane Companyの一員となることが決まりました。これが私にとって障害を持つ人々と働く初めての機会となります。

――それ以前にもダンサーとしての活動はされていたのですね?

これまでにも、コンテンポラリーダンサーとしてさまざまなカンパニーと協力し、仕事を行っていました。大学院ではダンスの修士号も取得しています。 ダンサーとしての経歴は、バレエやタップダンス、ジャズダンスなどのクラシックダンスと、コンタクト・インプロヴィゼーションなどのコンテンポラリーダンスの融合です。特に、コンタクト・インプロヴィゼーションを通じた経験が、Axis Dance Companyに所属していた当時、私と身体障害のあるダンサー達をつなぐ架け橋となり、また、ダンスが私たちの共通の言語になったと感じています。

――Axis Dance Companyのことをフィジカル・インテグレイテッド・ダンスという言い方をされましたが、アメリカでは障害のある人とのカンパニーやダンスをそのように呼ぶことが多いですか?

フィジカル・インテグレイテッド・ダンスと呼ばれたり、インクルーシブ・ダンスと呼ばれたりすることもありますが、アメリカとヨーロッパで両方の単語が使われています。どちらも障害のある人、もしくはない人を含むダンスパフォーマンスになります。フィジカル・インテグレイテッド・ダンス・カンパニーは身体障害を対象にしたカンパニーであるのに対して、インクルーシブ・ダンス・カンパニーは、身体障害と知的・発達障害どちらも対象というケースが多いのではないでしょうか。Axis Dance Companyでは様々な生徒を教えていますが、私がいた頃の生徒たちは全員プロのダンサーで、障害種別は身体のみに限られていました。

――次に、今回の作品について聞かせてください。森田かずよさんと定行夏海さんという二人のデュオ作品への振付ということですが、初対面のお二人とどのように作品作りを始めましたか?

ダンサーとして技術的な面だけでなく、内面的な面でも彼女達のことをよく知りたいという思いはありました。まず私が二人から教えてもらったのは、彼女達がパフォーマーとしての自分と普段の自分との違いについて、それぞれの自分をどう感じているのかです。また、今回の作品や今後ほかのステージで試したいことを発表してもらい、私たち三人がこれからの稽古で成すべきタスクや目標を確認しました。これを踏まえ、彼女たちが模索しながら踊る姿を見ることで二人の人間性を確かめることが出来ました。

こうして作られたダンスを素材にして、私が取捨選択し、一連の流れになるようまとめます。また新たに2人から引き出された情報(ダンス)をもとにさらに作り込むことを行いました。空間を共有する、自立した2人の女性が、「溶けあう二人」というコンセプトに基づいて、どのように信頼を築き、どのような形でそれぞれを支え合えるのかを見てみたいと思いました。信頼や支え合いを探る動きの中に、激しさや勢いを見つけていくことを今行っています。

――作品を作ってみて、二人のダンサーの印象はいかがですか?

ダンサー達が私を信頼してくれていて、常にオープンでいてくれていると感じています。彼女達、そして私が一緒にリスクに立ち向かい、挑戦していく姿を見ることが出来て、それを私は美しいと感じています。彼女たちが前向きに一生懸命協力してくれたおかげで、たくさんの経験と段階、アイディアや動きを積み重ねることができ、豊かで深みのあるデュエットを作ることが出来たと思います。私もさらに深く彼女たちの人間性を知ることが出来ました。ダンスは人との距離を縮めることのできる世界共通の言語だと思います。

――さきほど「リスクに立ち向かう」という言い方がありましたが、もう少し詳しく聞かせてください。今回、森田さんはパートナーにダイブするような、これまでしたことがない動きや振付にもチャレンジしています。作品を作るうえでリスクを負うことや、危険を冒すことが重要な理由は?

リスクを冒して何かに挑戦することはダンスにおいても、生きることにおいても、とても大事なことだと思います。ダンスは人生や生きることのメタファーでもありますから。まず、リスクを冒して挑戦するということは、自分を信じることであり、また相手を信じることでもあります。そして、危険に立ち向かう姿は、見る人を引き付け、心を満たします。最後に、リスクを冒して挑戦することが、自分にとって良い経験となり、それが自信につながると思います。

なので、リスクに立ち向かうというのは、自分にとっても観客にとっても助けになるのではないのでしょうか。

どこまで危険なことをするかは彼女たちの匙加減ですが、限界まで挑戦したからこそ分かることがあると思います。パートナーと危険な振付に挑戦し、成功したとしたら、信頼関係も今までとは格段に深まると思います。彼女達同士の関係だけでなく、周りで見ていた人たちの関係も深まるでしょう。リスクは自分自身と相手双方に信じることを教えてくれます。

――そこに障害のある人とそうではない人の違いはあると思いますか?

違いはないと私は思います。障害の有無関係なく、どんな人間も誰かと関係を築きたいと願い、身体と魂の両方で一緒にリスクに立ち向かえるような相手を求めています。人と信頼関係を築いていくためには、まずだれか一緒にやってくれる人(パートナー)を持つことが良いと思います。誰でも、勇気を出して小さなリスクを負うことから、自信を得ることが出来るのではないかと思います。そうしたらもっと遠くに、もっと高く飛べる。それを見ることだけが面白いのではなく、自分でやってみるからこそ面白いのではないかと。

――今回、稽古を何度か拝見し、ソンシリーさんはよく稽古中に「Sculpture(彫刻)」という言葉をつかわれていました。私はその言葉にソンシリーさんの振付の特徴が表されていると思いました。その言葉の意味やソンシリーさんのダンス観のようなものをお聞かせください。

私にとってダンスは、空間の中で人の身体を使ってカタチを作りだすことです。構図、前景と背景、陰と陽、体積のバランスを見ながら作ります。私にとっての表現手段が身体であって、実際は絵の具でも粘土でもいいと思います。ただ、人の身体を使うということは、感情やストーリーは作らずともすでに存在します。なぜなら人の身体は、すでに文化や歴史を持つ素材であるからです。なので、私自身がメッセージを作品に込める必要はなく、ダンサーが持っているものだと、私はそう考えています。なので、かずよと夏海には彼女たち自身がすでに何者であり、どんな素質を持っているのかを改めて考えてほしかったのです。そうすることで私は、二人からもらったストーリーや感情といった素材を活かせるような骨組みやセッティングを考え、作品をより伝わりやすく面白くしていくことが出来ると思います。こう考えると、私のダンスの捉え方は、画家や彫刻家に近いのかもしれません。山や海など自然の景色を描くのと同じように、体の見せ方を考えることはよくあります。ただ、ダンスには自ずとダンサーの気持ちが表れますし、音楽や衣装といったものも含まれますから、絵のように、作者一人が作品の印象を決めるわけではないので、全ての要素が揃ったときに、一つの作品としてまとまるということが私にとっては大切です。

私の仕事は、すでに揃っている素材から、余分な部分を削り、必要なもの明確にし、観客が思わず見入るような振付を作ることです。何を見せたいのかを明確にすることで、観客に飽きを感じさせない作品になると思います。そのためには、ダンサーが空間を意識するというのはとても大切なことなのだと思います。


ACCESS(会場)

[OCBCスクエア] Stadium Walk, シンガポール

OCBCスクエア
Stadium Walk, シンガポール