STORIES

(カテゴリー)REPORTS

(タイトル)京都市ふしみ学園 アトリエやっほぅ!!(京都府)

(この記事について)

京都市の南側、名水に恵まれ酒蔵が多く立ち並ぶ伏見。このエリアにある京都市ふしみ学園〈アトリエやっほぅ!!〉は発足して10年、ここにきて少しずつその名が広がりつつあり“盛り上がっている”。ここはどんな考えを持つアトリエなのだろう。

(更新日)2018年10月25日

CREDIT

[写真]  高橋マナミ

[文]  中村悠介

地域に根ざすことは理想

主に自閉症など知的障害のある方が通い、軽作業や生活訓練を行う施設〈京都市ふしみ学園〉。“一人で全員を全員で一人を”をスローガンに掲げ、利用者自らの発達の可能性を広げる、という生活介護事業所だ。〈アトリエやっほぅ!!〉はその中にあり、作品制作を通じて、いわばそれぞれが持つ“クセ”の可能性を試し展開していく場だ。この試みは2008年からスタートしている。

「しっかりし過ぎている建物で(笑)」と言うのは〈アトリエやっほぅ!!〉スタッフのリーダー、中島慎也さん。続けて「3階にはこんなアトリエがあるんですよ!と地域の方に伝えたいんです」。たしかに、この庁舎のような建物の中に本格的な陶芸の窯があるなんて意外。そして「し過ぎている」は、誰でもが気軽に“やっほぅ!!”しづらいかもしれない、という意味。

(写真について)

描かれる顔はカラフルなアトリエそのまま。スタッフと談笑しながら制作する南保孝(みなみやすたか)さん(写真右)。

「地域の中で知られることが大切で理想なんです。ここは丹波橋通りに面して目の前にスーパーもあって人通りも多いんですが、100人中1人も〈アトリエやっほぅ!!〉を知らないんじゃないかなと思います。先日、東京から見学に来られたデザイナーの方にお聞きしたんですけど、イタリアのトリノでは地元の人がこういった施設にどんどん入ってきて、作品や雑貨を通して交流している、という話を聞いたんです。ここもそうなって欲しい。みなさん、地域で生活しているわけですし、そこに根ざすというのは理想です。地域の子どもたちにも入って来て欲しい。今年で10年とはいえ、あっという間でスタッフがバタバタしてきただけで。でも、ここ2年くらいでやっと横のつながりができてきたこともあって。これからですね」

(写真について)

ちびた色鉛筆で器用に絵を描いていた吉田裕志(よしだ
ひろし)さん。


作品は財産。販売も慎重に

現在、アトリエに通い制作を行うメンバーは19名。アトリエは2つの部屋を仕切りなく使用しているため広く、北側には京都タワーを望む大きな窓もあって明るく風通しが良い。作品制作以外にもここで1日2回のラジオ体操や、制作に集中できない人のためにストレッチやヨガなど、体を動かすプログラムも行われている。季節になるとここでハロウィンパーティーなども行ったりもするそうだけど、賑やかに壁に貼られたメンバーのポストカードや作品からその様子が想像できる気もしてくる。

アトリエでは、スタッフと話しながら中央の大きなテーブルで絵を描いているメンバーもいれば、壁に向かって鼻歌混じりに粘土を丸めているメンバーもいる。一段高いところに座敷を作り、半個室のような専用空間で画用紙に色を塗り込むメンバーもいる。十人十色スタイル。それぞれの制作空間がその作風を決定している、と言うのも過言じゃないかもしれない。それに京都風に言うと“はんなり”か、それぞれどこか穏やかに制作しているように見えるのは、やはり自分オリジナルの居場所によるところが大きいのかもしれない。

(写真について)

鼻歌まじりで粘土で通称“かつだま”を作り続ける職人、勝山雄一朗(かつやまゆういちろう)さん。

「環境は大事です。利用者さんにはのびのびしてほしいというのがあって。対人関係を気にされたりする方もいますので、それぞれが安心して制作に打ち込めるように、とスタッフは考えています。それをまず最初に。それから画材だったりのアドバイスしたり。アドバイスといっても新しい画材を横にちょっと置いてみる、という感じで。もちろん強制はしないですけどね」

中島さんはこの施設に勤めて20年。もともとは陶芸の講師として関わることになったのだそう。最初の頃は窯で焼いた陶器など、作品というよりは、とにかく売れる商品を作ろう、ということばかり考えていたが、現在その考えは変わったのだという。

「ここでちゃんとした器を作ってもあまり意味がない、というか。メンバーの独創性を生かせない。今は(絵画作品は)それぞれの財産だという考え方ですね。これまで例外的に数点だけ販売したことはあるんですけど。〈アトリエやっほぅ!!〉では今まで基本的には作品を販売してこなかった。というのも、まだまだいろんなところでの展示などで作品を見てもらいたい、ということが強くあったのと、売ってしまうと売れた先で作品がどうなってしまうか分からない不安もありました。

でも、これからは(売っていい)作品を決めて販売していこうと考えています。

それと、メンバーの作品がたまってきているのでこれから収納をどうしていくか、それが一番の悩みの種で……もう倉庫はごちゃごちゃです(笑)」


カテゴリー関係なく勝負できるはず

これまで数々の賞を獲得している〈アトリエやっほぅ!!〉を代表するふたりのアーティスト、木村全彦さんと国保幸宏さん。現在、彼らが突破口となって他の作家たちが少しずつ知られ始めているところだという。これは地域で知られるきっかけとなる?

(写真について)

アトリエを代表するアーティスト木村全彦さん(写真上)とシエスタ中(?)の国保幸宏さん(写真下)。

「もうスタッフが勝手に盛り上がってます(笑)。でも今のところはまだ(障害者という)ジャンルの中での評価だと思います。最終的にはそんなカテゴリー関係なく評価されて欲しいんですね。まずアトリエのツートップ、木村さん、国保さんの作品はそういうところに関係なく勝負できるはずなんです。それに、メンバーが展覧会に参加したり他の地域に行って、うまく喋ることはできないかもしれないけど、交流することはみなさんの刺激になるのでどんどん外に出ていきたいんですね。スタッフも同様ですが、つながりが大事なんです」

現在、木村さんと国保さんのみならず、アトリエの他の作家たちの個展など展覧会が年末までに7つも決定している、というからすごい。〈アトリエやっほぅ!!〉発足から10年、ここにきてデッカいこだまが返ってくる日は近いかもしれない。

(写真について)

どこか和を感じさせる緻密でサイケデリックな絵を描く若林義輝(わかばやしよしき)さん。


○Information

京都市ふしみ学園 アトリエやっほぅ!!
京都府京都市伏見区紙子屋町544
tel.075-603-1288
http://atelieryoohoo.com