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(カテゴリー)REPORTS

(タイトル)「状況のアーキテクチャー」が もたらした、さまざまな“であい”

(この記事について)

あのカオスはいったいなんだったんだろう。奈良県〈Good job! センター香芝〉で「状況のアーキテクチャー」パフォーマンス公演が開催された。繰り返すが、あのカオスはいったいなんだったんだろう。

(更新日)2019年3月1日

CREDIT

[写真]  中矢昌行

[文]  中村悠介

このメンツ。このやり方。そして、この場所

「彼らが出合ったことのないものに出合って欲しいと考えたんです」。

そう語るのはアーティストで京都市立芸術大の教授、高橋悟さん。今回紹介する「状況のアーキテクチャー」、そのプロジェクトリーダーだ。

昨年12月、奈良県香芝市にある〈Good job! センター香芝〉で「状況のアーキテクチャー」パフォーマンス公演が開催された。ここはアートやデザイン、いろんな分野を超えて、障害のある人たちの新しい仕事を作り出すことを目的にした施設だ。施設、とはいえその言葉の堅さは似つかわしくない。

工房をはじめ、カフェやショップもある館内で、特徴的なのはいくつもの壁が多面的に配置されていること。それらは仕切るための壁ではなく、つながるための壁として設計されたという。なるほど。たしかに壁によって閉じられた空間があるわけではなく、窓も通りに面している。加えて2階は吹き抜けているので、すこぶる風通しが良い。にも関わらず、ひと目ではすぐに空間全体を把握できないところがおもしろい。

(写真について)〈GoodJob! センター香芝〉の建築を手がけたのは、「o+h/一級建築士事務所」(http://www.onishihyakuda.com/)の大西麻貴(おおにし・まき)さんと百田有希(ひゃくだ・ゆき)さん。何度も奈良へ足を運び、話し合いを重ねながら設計していった。

センター長の森下静香さんいわく、コンセプトは「多様な人のための居場所で、多様な働き方をつくる場」。柔軟で寛容で、つまり現在形の多様性を考える上で、この建物と仕組みは、福祉からの観点のみならず、建築やデザイン業界においてもひとつのモデルケースとなっているそうだ。

そんな会場で行われた今回のパフォーマンス公演はまず、これぞクロスオーバーというか、まさしく異種格闘というか。出演者はセンターの利用者やスタッフ、そしてcontact GONZO(コンタクト・ゴンゾ)、Shing02(シンゴツー)。つまり障害のある人たち、異色のパフォーマンスユニット、一筋縄ではいかないヒップホップMC。と、まずもって予想不可。いや、予想できてどうする? そんなハプニングのような試みなのかもしれない。それにしても、このメンツ。このやり方。そして、この場所。なぜこんなチャレンジングな試みを? 続けて高橋さんに聞いてみよう。

(写真について)「状況のアーキテクチャー」プロジェクトリーダーで京都市立芸術大の教授、高橋悟さん。
(写真について)〈Good job! センター香芝〉のセンター長・森下静香さん。

「アートとケアを考えたときに、それはどこかマイルドだったりアットホームなものだったり。それには驚きがない、というかよく見かけるものでもあると思うんです。だから、こんなエッジの効いたプロジェクトがあっても良いのではないか、と考えたんです」

とはいえ、ただ奇をうわけではなく(そうだったとしてもこれはかなり興味深い試みだけど)、発端は高橋さんがさまざまな福祉施設を訪ねていく中で気付いたことだそうだ。

「たとえば、障害のある人たちの描く絵には子ども向けのような情報がたくさん入っているわけです。いわゆるアニメ的なアイコンですね。それらは、もしかしてただ与えられているだけであって本当に好きなのかどうなのか? という部分はグレーだと感じました。だから、このプロジェクトでは出合ったことのないものに出合って欲しいと考えたんです」

(埋め込みコンテンツについて) 撮影・編集:高橋悟

(埋め込みコンテンツについて) 撮影・編集:高橋悟


自分を客観視することで世界が変わる

今回のパフォーマンスは、昨年4月からcontact GONZO、Shing02、それぞれが〈Good Job! センター香芝〉で実施してきたワークショップの延長上にあるけれど、そのアウトプットや成果発表ではないという。

「このパフォーマンスは、いわゆるショーではない。だから、失敗も成功もないんです」と高橋さん。念頭に置かれたのは、何かを完成させることではなく「プロセスの共有」だった。では、ワークショップではどんなことが行われていたのか。まずShing02さんに話を聞こう。

(写真について)パフォーマンス中のShing02さん。着ているジャケットはここで展示されていた仙台の多夢多夢中山工房制作による「めぐるトワル」のもの。

「詩を書く。朗読する。韻を踏む。リズムに乗って歌う。そんなラップみたいなことにチャレンジしてみるというワークショップです。僕はそこでアドバイスやアイデアを与えたり。ですけど、大事なのは本人がどうやりたいのか? それはこういう施設だから、というわけではなく自主性がいちばん大事で、それが本人も一番楽しいし達成感もあると思うんです。

僕は、障害という言葉が好きじゃないというか。その言葉が社会的にどんな使われ方をしているのか、あんまり分かっていません。自分は今ハワイに住んでいて、そこで高校生を対象にワークショップをやったりしているんですが、それと同じ感覚でした。だからここでやることも深く考えてないんです。まず会ってみて、というところから始めて。僕のスタンスとしては、僕が来ることによって、みんなの普段とは違う部分を引き出すことをお手伝いできたら、という考え方ですね」

(写真について)マイクを握れば最強。即興でしりとりラップを堂々と歌い上げる、田村一翔(たむら・かずと)さん。

「チーズケーキが、食べたい!」「結婚、式で暴れる!」。突然、話の最中にそんなラップが大音量で耳に飛び込んできた。見ると、センターの利用者でさっき、カフェで注文を取ってくれたおとなしそうな青年がいつのまにかノリにノっている。本番に向けたリハーサルだっだのだが、Shing02さんの話を掻き消すほどのシャウト。ワークショップで水を得たのか、もう取り憑かれたようにマイクを離さない。このプロジェクトの中では家族も知らない一面が発揮されることも少なくないそうだ。

(写真について)スーパーの野菜売り場で働いていた頃の体験をラップした向川貴大(むこうがわ・たかひろ)さん。
(写真について)ふだんのおしゃべりのようなラップで和ませてくれたトリオ、山田の愉快な仲間。左から下田静香(しもだ・しずか)さん、山田奈穂(やまだ・なほ)さん、寺川リエコ(てらかわ・りえこ)さん。

「誰でもマイクを通したり、録音された自分の声を聞くのは新鮮ですよね。違和感もあるけど、リズムに乗っている自分の声がかっこよく聞こえたり。僕はそれを今でもやってますけど(笑)。それで世界が変わるんですよ。自分の声をマイクに通すというのは、自分が自分から離れ、自分を客観視することでもあるんです」

(写真について)みんなのバランスが肝。たくさんの木の枝を会場の参加者で支え合うcontact GONZOの協働パフォーマンス。

やりたくないならやらなくていい

今回、高橋さんはワークショップを「言葉という内発的なもの、そして身体を使った外から内へ、というもの。内からと外からの2つのベクトル」での構成を想定したという。では“外からのベクトル”を担当したcontact GONZOのワークショップはどのようなものだったのだろう。まず「この建築からインスピレーションが受けられる」(塚原悠也)という。それは、過去にライブハウスからサッカーコートまでを舞台にパフォーマンスを繰り広げてきたcontact GONZOならではの視力かもしれない。

(写真について)パフォーマンス中のcontact GONZO。左から松見拓也さん、塚原悠也さん、三ヶ尻敬悟さん。

「僕らの場合はあまりワークショップという感じではなくて。あえてそういう風にしたところもありました。自然に遊びを提案しながら、どう思う?とか、やってみる?というような相談を持ちかけるというか。進める中で、もちろんこちらもアイデアを出すんですけど、この場所をどう理解するか? どう遊び場に変えるか?ということを一緒に考えようと。こちらが用意したプランはあくまでこちらの都合であって、やりたくないならやらなくていい、という考え方です。というのも、自分たちもそうでありたいと思っているんです。いわゆる舞台作品はすべてがガチガチに固まっているわけですけど、その考え方から離脱する発想があってもいいという気持ちで」(塚原)

「だから(ワークショップに)来ない参加者がいても驚かなかったし、そんな小さな事故を含めて全部見せてもいいんじゃないか、と。たとえば、舞台袖は隠すためにあるわけですが、自分たちは普段それを取っ払うことも多いんです」(三ヶ尻敬悟)

そんな彼らのワークショップは、高橋さんいわく「(contact GONZOのパフォーマンスにある)過激な殴り合いをしている、と最初はみんな誤解して恐る恐るだったんですけど、途中からそうじゃないと気付き始めて」コミュニケートし始めたという。

「(利用者たちは)外から来る人に対する好奇心がはっきりしていて。それを躊躇なく表現してくれるからやりやすかったですね。(ワークショップでは)2回目からぐいぐい混じってくる人がいたり」(塚原)

「そうですね。あんまり垣根がなく、向こうから来て参加してくれるというのはありましたね」(松見拓也)

「むちゃくちゃだけどそれがおもしろいんですね。(ワークショップは)たとえばダンサーの人たちを相手にするより楽しいというか。感覚的で反応がダイレクトだし」(三ヶ尻)

「本番はどうなるか。ほんとに分からない(笑)」(塚原)


渾然一体。みんながどう考えるのか?

結果、約80分に及んだ公演は、これぞ予定調和のない世界がおおいに展開された。カテゴライズできない、そんなパフォーマンス+αがこれでもか、と。たとえば、朗読のようなラップあり。女性3人組の語りあり。乱入する者あり。上半身裸になる者あり。ごはんを食べている者あり。シェーカーを振るバーテンダーあり。しりとりラップあり。ぶつかり合う男たちあり。踊る者たちあり。漫談のようなストーリーテリングあり。たくさんの木の枝を使った協働のパフォーマンスあり。この公演のために壁に鏡が貼り付けられたため、より多面体空間となり館内がディスコのようにも見えたし、宇宙ステーションのようにも見えた。

(写真について)流れるビートの上で絵本「じごくのそうべい」のストーリーを語る得田育宏(とくだ・やすひろ)さん。
(写真について)生きている意味を問うラップを披露した大坪明美(おおつぼ・あけみ)さん。

ラストの7名のマイクリレーによるポッセカット(仲間で参加する曲)の大団円まで、いったい誰がパフォーマーで、誰が観客なのか。誰がスタッフで、誰が利用者なのか。それぞれの立場と役割がどんどん混ざり、溶けていくような。大きな多面体空間がさまざまな人間の坩堝と化すような。そんな渾然一体の、いうなれば状況劇場。このカオスはいったいなんだったのだろう? しかし利用者のみならず、この場にいた人たちはきっと「出合ったことのないものに出合ったった」はずだし、一つひとつのパフォーマンスはどうやって生まれのか? とその道のりを想像せずにいられなかったはずだ。最後に、高橋さんはこのプロジェクトを継続していきたいと語る。

(写真について)最後のスタッフ勢揃いの曲で、アイドルチームを育てるプロデューサーになりきって「キラキラ神7スタッフスターズ」というリリックをつけたのは、メンバーの鈴木彩乃(すずき・あやの)さん。

「いわゆる鑑賞とはまた違う、経験の共有の仕方、その提案にならないかなと考えています。このプロジェクトを芸術的価値の中だけで判断してしまうと本末転倒で。というのもこれをみんながどう考えるのか?ということがとても大切なんです。それに、経験したことを理解して言語化できるまでは1年くらいかかる人もいるんですよ。だからこれからも繰り返してやっていくことが理想です。作品制作も同じですけど、作っている中でだんだんと分かってくる。そのサイクルが大事だと思っています」

(埋め込みコンテンツについて) 撮影・編集:岸本 康


○Information

状況のアーキテクチャー
1880年開学の京都市立芸術大学が、2023年に予定される都市部への移転を控え、「芸術であること」「地域であること」「大学であること」の意味を、改めて問い直す作業として立ち上げたプログラム「状況のアーキテクチャー」。今回のパフォーマンスは、このプログラムの一環として行われた。
http://www.kcua.ac.jp/art-m/2018/

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