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(カテゴリー)REPORTS

(タイトル)studioFLAT(神奈川県)

特別な呼称のないフラットな世界

(この記事について)

障害のある作家たちの才能を発掘し、広く世に出す手伝いをしているアーティストがいる。神奈川県川崎市で<studio FLAT>を主宰する大平暁さんだ。大平さんのプロデュースにより、作品が公募に入賞したり、テキスタイルのデザインに採用されたりした作家も少なくない。201911月には、自ら拠点を開設する予定だ。精力的に活動する背景には、いまは亡き自閉症の作家との思い出があるという。

(更新日)2019年08月27日

CREDIT

[写真]  斉藤有美

[文]  飛田恵美子

怪我をしたとき、絆創膏を貼ってくれた

——大平さんは多摩美術大学を卒業し、ご自身でも作品を発表されていますね。なぜ障害のある作家をサポートするようになったのですか?

地元川崎にできた障害者支援施設の施設長からお話をいただいたんです。オランダの施設を視察したときに、利用者が描いた絵を販売して自立する姿を見て、日本でも同じことをやりたいと思ったそうです。美大を出た人に先生を依頼したいということで、回り回って自分に話がきました。2007年のことですね。

最初は戸惑いの連続で、途中でやめようかと思いました。ちゃんとコミュニケーションが取れているのかも、できあがった作品の良し悪しもわからなくて。でも、こうした活動の先駆者に「ちゃんと作家さんとあなたのコミュニケーションが取れていることが作品から伝わってくるよ」と励まされて、「もう少し続けよう」と思ったんです。そのことを実感するような出来事もありました。

――というと?

自閉症の下川慧祐さんという方がいて、彼が描いた下絵に自分がペン入れする形で作品をつくっていたんです。でも、彼はこだわりが強く、少しでも気に入らないところがあると、2時間かけてペン入れした絵も容赦なく消されてしまって(笑)。

やるせない気持ちを抱いていたんですが、あるとき自分が怪我をしたら、下川さんがすぐに絆創膏を貼りに来てくれたんです。「ええっ普段あんなに冷淡なのに!?」とびっくりすると共に、言葉や態度に現れてなくても、ちゃんと心は通じていたんだな、と気づきました。

――制作を通して、信頼関係が生まれていたんですね。

下川さんからは、作家さんの伝えたいことを汲み取り、寄り添う姿勢を学ばせてもらいました。ですが残念なことに、下川さんはてんかんの発作によって突然亡くなってしまって。「もっと早く彼の作品を世に出すために頑張ればよかった」と後悔しました。あの経験がいまの原動力になっていますね。


一般のアーティストと同じ土俵で勝負したい

——現在の<studio FLAT>の活動について教えてください。

今は障害者支援施設で、作品制作をサポートしています。最初は「施設内の余暇活動」という位置付けでしたが、2016年に<studio FLAT>として独立しました。参加希望者も増えて、現在は14人が所属しています。いま、近隣の高校生と一緒に作品制作もしているんですよ。作家さんたちは普段若い子と関わる機会が少ないので、ちょっと照れつつ楽しんでいるみたいです。

——2011年から、展覧会<FLAT展>も開催されていますね。

障害のある作家の作品も、障害のない作家の作品も、フラットに展示する展覧会です。障害のあるなしに関係なく、作品の魅力だけを見てもらいたくて。最近こうした形式の展覧会が増えてきましたが、自分が始めたときは事例がなかったので、注目してもらえました。すごく面白いアーティストさんたちが<FLAT>のコンセプトに賛同して参加してくれているんですよ。

——「FLAT」であることを大事にされているのですね。

<studio FLAT>が目指すのは、「アール・ブリュット」や「アウトサイダーアート」のような特別な呼称のない世界なんです。本当にいい作品が生まれているし、あえて「○○アート」と名前をつけて区別する必要はないんじゃないかな、と思っています。一般のアーティストと同じ土俵で勝負して、ちゃんと評価してもらえることを目指しています。

才能のある人が認められ、夢や希望を抱くことができるように

——<studio FLAT>の作家さんたちは、作品がテキスタイルやグッズのデザインに採用されたり、公募で入賞したりしていますね。才能を伸ばすコツのようなものはあるのでしょうか。

あえて普段あまり使わない色の絵の具を渡したり、画材を変えたりして困らせています(笑)。

ただ、基本は待つことですね。無理に言ってもだめだから、ひたすら待つしかない。でも、長い時間の中で、絵がぐっと良くなるヒントが見つかる瞬間があるんです。

たとえば、平田貴子さんという女性は筆が早くてどんどん紙が無くなってしまうから、一度描いた絵を白い絵の具で塗って再利用してもらったら、下の絵が滲んですごくいい味が出ました。「これだ!」と思う瞬間に出合うと、すごく嬉しいですね。

 抽象的な美しい絵を描く清井了支さんは、最初からセンスがあって「すごい逸材だな」と思ったんですが、まだその魅力がはっきりと形になっていなくてこれからという時期に、パートの支援員さんが自分の知らないところで「もっとこういうのを描いたら?」とお相撲さんの絵をすすめていて、「やめて〜!」と焦りました(笑)。

 抽象表現の評価は一見難しいですよね。「何このぽつぽつした点は?」と思われてしまったみたいですね。

——才能があるのに、見過ごされている人は多いのかもしれませんね。

本当に。一昨年ぐらいから、特別支援学校で出張指導をしているんですが、たくさんの才能に出会いました。でも、卒業後の進路に、その才能を活かせるところは少ないんです。創作活動ができる作業所は本当に一握りですから。そこで、自分で小さな生活介護事業所を開くことにしました。201911月の開所を目指していま準備をしているところです。

——どのような場にしていく予定ですか?

 ギャラリーを併設して、地域に開かれた場にしたいと思っています。自分たちの作品を展示販売するのはもちろん、地域の人にも使ってもらいたい。一緒に作品を制作して発表するようなこともできればいいですね。

 障害のある作家さんたちと関わるようになって気になっているのは、周囲の人や親が「あんまり夢を見ちゃいけない、希望を持っちゃいけない」と考えているケースが多いこと。

でも、夢も希望もない人生なんて悲しいじゃないですか。たとえ叶わなかったとしても、目標に向かって歩くことでいい変化はあるはずです。それに、せっかくアートの才能があるのに、組み立てや軽作業などができないからと失望されてしまうのはあんまりだと思います。

 展覧会で作品が注目されると、やっぱり作家さんたちは嬉しそうにするんです。

知らない人から「すごいね」と言われて誇らしげにしていたり。褒められること、認められることってやっぱり大事なんですよね。自信がついて、絵もどんどん良くなっていく。そうした光景を、もっと日常的なものにしたくて。

 才能のある人が認められ、夢や希望を抱くことができる。そういうごく当たり前のことを、現実にしていきたいんです。


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