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(カテゴリー)レポート

工房YUAI(東京都)

それぞれの人生から生まれた作品

クレジット

[写真]  萬田康文

[文]  久保田 真理

読了まで約5分

(更新日)2019年10月18日

(この記事について)

東京青梅市にある〈工房YUAI〉は、個性が爆発する作品で埋め尽くされている。芸術に造詣が深いスタッフが、作家たちと寄り添いながら、メンバーの人生を彩る作品が日々生まれている。

本文

それぞれの人生から生まれた作風に圧倒される。

東京のなかでもとりわけ自然豊かな青梅市にある、社会福祉法人「友愛学園 成人部」。〈工房YUAI〉の敷地内は2つの建物があり、メンバー60人が和紙、陶芸、藍・草木染め、織り、木工、絵画に分かれて創作活動を行っている。

ゆうあいがくえんのがいかんのしゃしん

「素材ごとに活動スペースが分けられていることで、何をする場所なのか重度の知的障害がある人にとって視覚的に分かりやすい。でも、木の工房で絵を描いている利用者さんもいたりして、その人に合った支援ができるように心がけています」と話すのは、〈工房YUAI〉の表現活動をマネージメントするスタッフの大矢将司さんだ。

スタッフのおおやさんがインタビューをうけているようす。

一人ひとりが生きてきた文化を掘り起こして、表現していくことを大切に。その言葉通り、メンバーそれぞれの作風は見事なまでに異なり、オリジナリティが突出している。

カラフルな色づかいの無数のドットが規則正しく描かれたTシャツ、恐竜や特撮もののキャラクターが豊かに表現された焼き物、ヤスリで縦横無尽に削られた木の切り株、色と模様を替えながらひたすら刷られたハガキ大の木版画、「イカしょうゆ」「カカオチョコレート」と書かれたカリグラフィー……。見る者の心を揺さぶってくる。

しがらみから解放されて、人生を豊かに生きる活動へ。

きのこうぼうでせいさくするおおたけさんのしゃしん。ちかくでほかのりようしゃもせいさくしている。

昭和54年(1979年)に作業訓練棟が建てられ、就労訓練を通じて自立を促していく活動が行われてきた。かつては花の栽培や霊園の清掃活動などに取り組み、現在でも青梅市の企業から発注を受けてペットのゲージに敷くスノコの製作を続けている。

今のような創作活動に力を入れるようになったのは、約20年前から。1993年に東京・世田谷で行われた展覧会「パラレル・ビジョン 20世紀美術とアウトサイダー・アート」などに当時のスタッフが影響を受けて、陶芸が導入された。自己表現を大切にしようとする動きの始まりだった。

そして、活動の主体は“作業”から“創作”へ。それには、メンバーの高齢化が大きく影響しているという。「現在60人いる利用者さんの平均年齢は約50歳、61歳から70歳が16人と各年代のなかでも最も人数が多い状況です。仕事をするよりも、自分の気持ちと向き合って1日を楽しく過ごすことを重視したいので、自然と創作活動へとシフトしていきました」と大矢さん。

10年前からはアートの知識があるスタッフを雇用。創作ジャンルも陶芸から木工、和紙、テキスタイルと広がり、メンバーみんなで同じものを作る創作スタイルから、一人一人の個性が生かせる創作へと変化していった。

「一口に陶芸と言っても、形を作るのが向いている人もいれば、作業をせずにボーッとしている人も。その人が絵を描いている方が生き生きとするなら、しがらみをなくして好きなことをした方がいいですよね。それは創作活動でなくても、昼寝をする、本を読むでもいいですし」。大矢さんをはじめとするスタッフは、メンバーそれぞれの生きがいを見出すことを意識しながら、日々サポートしている。

彼らの行動にヒントがある。

さくひんしゃしん

創作活動を行うメンバーは、重度の障害がある人が多いため、意思疎通を図るのは簡単ではない。メンバーの生きがいをどこで見出すのか、彼らの行動をよく見ているとヒントがあると大矢さんは言う。

「例えば、僕らが言っていることが届いていると感じられる利用者さんの場合、聞き続けると本人が言いたいことがなんとなく分かってきます。また、始めは分からなくても彼らの一日を追っていくと、ふとした時にその人オリジナルの仕草が出るんです。右手で胸を掻くとお風呂の合図だったり」

メンバーそれぞれにあるオリジナルのコミュニケーションの取り方が見つかるように努力するものの、自分はメンバーに関わり過ぎているのではないかと葛藤することもある。

作品展示や公募を通じて、本人、周囲に意識が変わる。

たなのうえにはりったいさくひん。かべにもさくひんがはられている。

公募などに利用者の作品を応募するようになったのは、約2年前から。作品が評価されることに抵抗を感じるという声もあるが、「展示されるだけでなく、応募するだけでも利用者さんはうれしいと感じています。だから、利用者さんのためにこれからも積極的に出そうと思っています」と大矢さんは話す。

昨年は、「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展2018」にて波多野美恵さんが特別賞エドワーズ・ゴメズ賞を。また今年1月には、福岡県田川市で開催された「第1回タガワアートビエンナーレ『英展』」にて、臼田祐太さんの作品「かみなりさま」がU22賞を受けた。

「利用者さんが高齢であったり、精神的な波があったりすると、本人が元気なうちに作品を出して、展示会場に足を運んだりしてたくさん外出できたらいいなと思います」。工房YUAIのメンバーのほとんどが敷地内の施設で暮らし、生活支援を受けている。作品展や公募展を通じて支援をするスタッフの意識の変化にもつながってくるそうだ。

パレットのしゃしん。

自分の好きなことに取り組むことでメンバーは集中して時間を過ごし、スタッフは肩の荷が下りて、お互いにとって良好な関係が築けている。見学者にはよく、「なぜこんなにも皆さん落ち着いているんですか?」と聞かれるほど。

ねこのえと「ねこ」とかかれたこざらのしゃしん。

メンバーが楽しさ、うれしさを増やせる活動ができ、できることを少しずつ増やしていって作品ができるまでの集中力が生まれたら――。大矢さんをはじめとするスタッフらのメンバーの幸せを願う思いが通じて、今日も自分らしい一日を過ごせる時間がここ〈工房YUAI〉に生まれているのだと思う。

Information
友愛学園(社会福祉法人)成人部 工房YUAI
〒198-0001 東京都青梅市成木2-130-2
社会福祉法人友愛学園 ウェブページ