ストーリー
presentation

(シリーズ)イッセー尾形の 妄ソー芸術鑑賞

(このシリーズについて)

縦横無尽な妄ソーで、見ている人を独自の物語世界へ誘うイッセー尾形さんが、障害のある人たちのアート作品を鑑賞。自由に妄ソーの翼を羽ばたかせました。そこからなにが生まれるか? アートはもっと自由に楽しんでいいのです。

vol.02『魚の抑止力』

クレジット

[写真]  平野太呂

[ヘアメイク]  久保 マリ子

[作品写真]  木奥惠三

読了まで約3分

(更新日)2020年02月27日

(この記事について)

聖火のもとに集まる魚と、走る人たち。 一見、平和そうに見える彼らは「地球防衛軍」として、 大切な使命を帯びていました。

本文

今回の共演者

松本寛庸

MATSUMOTO Hironobu(1991-)

1991年生まれ、熊本県在住。不思議な形の極小の単位がひとつひとつ増殖してゆき、濃密な世界を形作る。色彩豊かに色鉛筆を使い分け、丹念に描かれる彼の絵のユニークな点は、写真や実際見た物の記憶を独特のイメージに変換して描くところ。誰の模倣でもない自分独自の感覚をカタチにしてゆくことは、作家本人にも大きな喜びになっているよう。描く場所は母家より少し離れたアトリエ。テーブルに向かって椅子に座り、毎日4〜5時間くらいは平気で描く。5つの皆違う入れ物に300本程の色鉛筆と水性ペン100本程を入れ、目の前には約B4サイズの画用紙。正座して、長身の背中を丸めて、11色をリズミカルに塗り分けていく。1色塗るとその色鉛筆を別の箱に移し、またすぐ次の色鉛筆を箱から取るというように、どの色鉛筆も満遍なく使って循環。高機能自閉症と診断されている彼は、豊かな自然と温かい家族や人々に囲まれて、のびのびと独創世界を積み上げている。

「魚のオリンピック」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆/2008年/日本財団所蔵


「魚のオリンピック」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆/2008年/日本財団所蔵

 

この絵を見て、真っ先に思い浮かんだのが「地球防衛軍」。 左上の奥にあるのが宇宙の戦闘機で、隊長グループ。そのまわりに無数にいるものが、聖火のもとに集まってきている「地球防衛軍」。よく見たら、彼らは無数の魚なんですが、魚たちは地球を守ることに人間以上に熱心なんです。防衛のために敵をやっつけようと、魚たちがどんどん集合してくるのね。

 

聖火が灯されていることからわかるように、これは神聖なる戦いなんです。思いつきで戦っているわけじゃない。地球規模で防衛軍を応援して、動かしているんだ。

 

 

「くらげの大群」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆/2008年/日本財団所蔵

 

まるい点々があるけど、これは宇宙船の風防ガラスにつく水滴。雨粒なのね。雨粒もカラフルに彼らを応援している

 

 

「乱…人」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆、水彩絵の具/2008年/日本財団所蔵

 

それで、この絵に目を移すと、走っている人がいっぱいいる。彼らはパイロットたちね。 これはパイロットたちの訓練であり、試験でもある。宇宙パイロットになれるかどうかを選別する入所試験なんだ。若い力が必要だから、大学が選抜した学生さんたちが訓練している。

 

目につくのが彼らの靴。これらはスリッパなんです。なぜスリッパを履いているかというと、敵の宇宙船にはどうやら電流が流れているらしいので、船内では普通の靴ではだめ。スリッパに履き替えて、宇宙人をやっつけるという戦法なんです。 だから、パイロット候補たちも専用のスリッパを履いて、駅伝のように延々とぐるぐる回っている。そういう耐久テスト。それを地球で、地球防衛軍の訓練服をきてやっている。

 

 

「乱…人」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆/2008年/日本財団所蔵

「乱…人」/270×380mm/紙に鉛筆、色鉛筆、水彩絵の具/2008年/日本財団所蔵

 

敵の宇宙船がやってくるという情報はずいぶん前からあるのでが、まだ「待て」の状態なんです。浮かんでいるけど、進んではいません。

 

だけど、魚たちは続々と増えてくるんですよ。だから、この絵におさまらない魚がまだまだいっぱいいる。それは溜まる一方で、地球にこんなに魚がいたのかってくらい。ここに描ききれないくらいの魚を、みなさん想像してみてください。

 

 

「魚のオリンピック」/257×366mm/紙に鉛筆、色鉛筆/2008年/日本財団所蔵

 

試験にとおった若いパイロットたちは、この魚へと乗り込んでいく。けれども、魚はどんどんやってくるから、パイロットなしの魚もいっぱいいるんです。だから、まだまだ若い力を募集している。魚のほうが多いからね。魚に負けるな、少子化なんて言ってられません。

 

さて、結局、地球防衛軍の戦いは始まるのでしょうか。 みんな戦う気は十分なんですけど、この絵自体がものすごく平和。よく見ると、絵の下のろうそくが灯されている。隊長が三十何回目かの誕生日を迎えるから、みんなでお祝いしているんでしょうね。それくらい平和なんです。

 

おそらくこうやって集まっていることが抑止力になって、戦いまでいかないでしょうね。 だから、この物語のタイトルは「魚の抑止力」です。

 

 


関連人物

イッセー尾形

(英語表記)Issey OGATA

(イッセー尾形さんのプロフィール)
1952年、福岡生まれ。1971年演劇活動を始める。一人芝居の舞台をはじめ映画、ドラマ、ラジオ、ナレーション、CMなど幅広く活動。高い評価を得ている。近著に『シェークスピア・カバーズ』(スイッチパブリッシング)。
(イッセー尾形さんの関連サイト)