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(カテゴリー)レポート

リベルテ(長野県)

クレジット

[写真]  高橋宗正

[文・構成]  石井妙子

読了まで約4分

(更新日)2020年05月08日

(この記事について)

長野県上田市にある〈NPO法人リベルテ〉。商家を改装した建物の中には障害のあるメンバーたちが作ったものを売るショップ、奥にはアトリエスペースなどがある。地元にじわじわと浸透する〈リベルテ〉を訪ねた。

本文

〈リベルテ〉はなりたいものになれる場所

 長野県・上田駅から歩いて15分。〈NPO法人リベルテ〉は、旧北国街道沿いにある。商家を改装した建物の中をのぞくと、入り口付近にあるショップにはメンバーが制作したアクセサリーや紙小物が並んでいた。街なかにあるこの場所は、〈リベルテ〉を多くの人が知るきっかけの一つ。さらに小・中学校でワークショップをしたり、地元企業のホームページの絵をメンバーが手がけたりと、街のいろいろな場所にリベルテの存在がにじみ出ている。

 施設長の武捨和貴さんは「リベルテを避難所だと思っている」と言う。どういう障害のあるどこの誰、というレッテルからなるべく解き放たれて、なりたいものになれる場所。

「こうした“リベルテ的”な場所が外に増えていくとメンバーは街にいやすくなるし、街の人にとっても日常を振り返る機会になるんじゃないかと思う。そういう場所を、外に点在させる取り組みをしています」

カフェ「リベルテの角」スタッフ。左端が荒井さん。

午前10時。近くの商店街にある劇場兼ゲストハウス「の角」に、カフェ「リベルテの角」がオープンする。注文を取るのもコーヒーを淹れるのも、リベルテのメンバーたちだ。

カフェ営業を〈リベルテ〉に持ちかけたのは、劇場主宰者の荒井洋文さん。けれど当初は障害のある彼らに任せることに不安もあった。実際、注文を間違えたり、お客さんに呼ばれても気づかなかったりすることもある。メンバーの見た目から障害が分かりにくいこともあって、戸惑いやイライラした様子を見せるお客さんもいた。

「最初はフォローしていましたが、武捨さんと話すうちに考えが変わって。ここはこういうスタイルだと認知されてお客さんにも合わせてもらう、そのぐらいでいいのかなと思うようになりました」

1日2時間カフェに通うことから始めたメンバーが、長く接客できるようになった。一つのことを続けるのが苦手だった別のメンバーも、カフェの仕事はずっと続けている。

「社会に出ると『100%やらないとダメ』と言われることが多いけど、ここは結果が10%でも、90%の余白を持って見てくれる。働き方など実験しやすい環境もありがたいです。『障害者支援施設でしょ』の一言で終わらない、いろいろな人が集まる場があるのはすごく大切なこと」と武捨さん。

福祉支援が目的の〈リベルテ〉と売り上げを求める犀の角とで、考えがずれる部分もある。でも二人は「ズレがあるから、いい余白が生まれる」と話す。荒井さんにとってリベルテは自分たちの活動を相対化して考えるきっかけをくれる存在だし、武捨さんにとって荒井さんは、日々感じたことから地域の未来まで相談できるパートナー。そういう関係が徒歩圏内にあることが、おもしろいと感じている。

こうした地域のプロジェクトに誘われたら「来るもの拒まず」が武捨さんの基本的なスタンスだ。大切にしているのが、協力者との方向性に余白を持った関わりかたを探ること。

自身もリベルテファンというVALUEBOOKSの西山卓郎さん。

「リベルテはいつも外に開いていて、『こういうことをやってみたいけど、どうですか?』と言いやすい。それはすごく大きいと思います」

 そう話すのは上田を拠点とする古本販売会社、VALUEBOOKSの西山卓郎さん。〈リベルテ〉は、彼らが立ち上げた地域のNPO団体を支援する寄付プロジェクト「フレフレブックス」に参加している。賛同者が読まなくなった本を売り、その買い取り金を応援したい団体に寄付できる仕組みだ。

地元の老舗映画館 上田映劇でも「フレフレブックス」コーナーを設けるなど、活動は街じゅうに広がっている。集まった寄付金で「リベルテ出版」を立ち上げ、メンバーが描いたマンガを出版した。

地元の映画館「上田映劇」でもメンバーが作ったグッズを販売。「上田の街はコンパクトなぶんカルチャーのつながりも濃い」と支配人の長岡俊平さん。

さらに「フレフレブックス」をきっかけに、県内のスターバックスコーヒーと〈リベルテ〉のプロジェクトも始まった。店舗でメンバーの作品を展示した時は、家族や通院する病院のスタッフなど、普段はアートと距離がある人たちが見に来てさまざまな反応をくれた。「自分たちだけでは到底できなかったことでした」と武捨さんはうれしそうに振り返る。

あるメンバーのマンガは「フレフレブックス」の寄付金で出版が実現した。

 VALUEBOOKSにもスターバックスコーヒーにも〈リベルテ〉の作品のファンになったスタッフがいて、彼らの熱がプロジェクトの原動力になった。「VALUEBOOKSのスタッフが<リベルテ>のメンバーを呼んでイベントを開いたり、自分の視点で作品をキュレーション(情報編集)してくれる。それはすごくいいことだなと思う。僕の視点だけで紹介するより、その人の見方で<リベルテ>を伝えてもらった方がいいと思うから」と武捨さんはおおらかに話す。

外の視点を混ぜるとおもしろくなる

福祉のプロフェッショナルである武捨さんだが、少し意外な言葉を口にした。

「僕は自分の支援が、あまり上手だと思わないんです。自分の考えが正しいか自信がない。だから地域に出ていくのかもしれません。外の声を聞くと、よりおもしろいものになると思うから」

自分たちスタッフは、メンバーが外の世界とつながるための「扉」の役割。だから風通しよく地域とつながっていたい、それが武捨さんの思いだ。

「病院や行政の支援を受けていると、一見地域で暮らしているように見えても、実際は支援者にしか会わずに生活するメンバーもいる。そういうなかで、たとえばVALUEBOOKSのスタッフとメンバーが会うのは意味があること。まずは僕らが外とつながることが大切なんだと思っています」

◯Information
《NPO法人 リベルテ》
長野県上田市中央4丁目7-23 
http://npo-liberte.org/

※本取材は新型コロナウイルスが日本で拡散する前の2019年末に行いました。現在、新型コロナウイルスの影響で取材先が閉鎖している場合がございます。施設の再開情報は各URLをご参照ください。