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(カテゴリー)レポート

(タイトル)たけし文化センター(静岡県)

(この記事について)

静岡県浜松市にある〈たけし文化センター〉は、あるがままの混沌の中から生まれるものを「それぞれの特性や表現」ととらえ、個人のもつ文化として発信しながら、街とつながっていく。

(更新日)2020年06月26日

CREDIT

[写真]  衛藤 キヨコ

[文]  岡田 カーヤ

すごいものを見てしまった。

障害のある人、ない人かかわらず、ステージで音楽的なものを披露する雑多な音楽の祭典「スタ☆タン3」で。静岡県浜松市にある〈たけし文化センター〉で昨年11月に開催された「表現未満、」文化祭2019でのことだ。

パンク、合唱、ラップ隊ほか、ただ舞台上で石を蹴るような動作をしては叫ぶだけの人も含む総勢14組のパフォーマンスは、次に起こることが予測不能なだけに目が離せない。固唾を呑んで見守っていると、こうした雑多な表現がおもしろいこと、さらにはおもしろがっていいんだということを発見した。

(写真について)3回目となる「スタ☆タン!!3」は2019年11月に開催。平塚の〈studioCOOCA〉からやってきてた「THE KENTY DONUTS」ほか、14組が参加した。
(写真について)1組終わるごとに、7名の審査員による論評が行われた。見ているほうも真剣勝負。審査員も公募によって集まった。

このイベントを主宰している〈認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〉の活動は「表現未満、」がベースにある。「表現未満、」とは、その人を表す行為を、たとえ問題行動だとしても、とるに足らないことと一方的に判断せずに尊重。そこから対話や創造を生みだし、街へと顕在化させる文化活動だ。後日、〈たけし文化センター連尺町〉を訪ねると、彼らの日常生活自体が「表現未満、」の集積だったことがわかった。

(写真について)2Fの音楽スタジオ。爆音セッションが始まることもあるけど、この時間は利用者も職員もこたつでごろり。

表現にまでいかない行為を、どう楽しむかをひたすら考える

2018年に浜松の街なかへ拠点を移した〈たけし文化センター連尺町〉は、1〜2F が福祉施設〈アルス・ノヴァ〉、3F がシェアハウス&ゲストハウスとして運営。3F ではレッツ代表の久保田さんの息子、さんが、アーティストや大学院生と一緒に暮らしている。壮さんには、重度の知的障害がある。そんな彼が福祉の枠組みを超えて社会の中でどのように生きていけるかの「実験」でもある。

(写真について)3Fには重度の知的障害がある人のシェアハウスと一般の人々が泊まれるゲストハウスがある。
(写真について)「たけしと生活研究会」では、重度の知的障害がある久保田壮さんが自立して生活することを模索。障害がある人にかぎったことではなく、私たち自身の生活や暮らし方を考える機会でもある。

日課らしきものはなく、詩の制作に取り組む人、紙をちぎる人、キーボードのリズムトラックを聴く人、みんなが自由に過ごしている。突如ピアノの音とともにラジオ体操のようなダンスが始まり、拍手喝采がおこったかと思えば、ジャンプしながら奇声をあげる人もいるし、そんな雑然とした状況の中、散歩にも行かずに寝続けている人もいる。つまり、なんでもありのカオスの世界。それが心地いいし、おもしろい。

(写真について)ジャンプしてシャウトするツツミリョウガさん。
(写真について)いつの間にか眠っている太田燎さん。
(写真について)恋愛妄想詩人ムラキングこと、村木大峰(ひろみね)さんは不安や妄想を打ち消すために、日々、詩を吐き出している。最近では、大学で講義することも。乃木坂46などのアイドルの熱狂的なファンでもある。
村木大峰さんの詩はこちらから。Twitter/恋愛妄想詩人村木大峰(ムラキング)bot → @osamamuraki_bot
(写真について)朝からキーボードのリズムトラックを聴き続けるナカムラシュンスケさんは、食事のときも、散歩のときもキーボードを手放さない。

〈たけし文化センター〉は、久保田壮という個人を全面的に肯定することが出発点となっている。壮さんは、石ころをいれたタッパーを片手にもち、始終音を鳴らしている。食事中、他人の食器に手を入れる。それを問題行動と捉えるのではなく、「好きなことをやりきる熱量」であり、その行為こそが「表現未満、」だと考える。

(写真について)壮さんがいつも持ち歩いて音を鳴らしているタッパーと石。
(写真について)久保田壮さんと職員のササキユーイチさん。

「施設として、絵を描いたり、作品制作をしていたりした時期もありますが、それをルーティンにすると、暴れたりパニックを起こしてしまう人もいる。制作を中心に据えないようにしたから、行為そのものにバリエーションがでてきて、そのほうが圧倒的におもしろいと思ったんです。真っ赤なぬいぐるみを真っ黒に塗りつぶしたり、がんこにこだわる行動の中に喜びを見つけたり、もういいかげんにしろよという中から生まれてくることを、こちらがどう引き取って楽しむか。それをひたすら考えることこそが『表現未満、』なんです」と久保田さんはにっこりと微笑む。


(写真について)突発的に始まったダンスタイム。〈たけし文化センター〉では、なにかが突然始まるし、ふらりと遊びに来くる人もいる。

様々な行為が生まれる「場」にこそパワーがある

そうした行為の先から生まれた「作品」が独り歩きしてしまうこともあった。美術館に作品が展示されるのはうれしい反面、自分たちがおもしろいと思っているプロセスが置いてきぼりになってしまったというとまどいもあった。

「アート活動と障害をわけてはおもしろくない。作品は単なる作品になってしまうから。一方、現場からはたくさんアート的なものが生まれている。スタッフは毎日、わくわくしながらそうしたものをおもしろがってきました。なかには“もういい加減にしろよ”という中から生まれてくることもある。

一度現場に立ち返りたいと思ったんです」。久保田さんは、自分たちの強みは「表現未満、」が生まれる「場」にあるのではないかと思い至った。

(写真について)〈認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〉理事長の久保田翠さん。

(写真について)尾形和記さんが大好きな電化製品を気持ちのままに積み上げたオガ台車。
(写真について)高橋舞さんは色とりどりのガムテープでさまざまなものを覆っていた。

(写真について)ゆっくりと時間をかけて散歩をする太田燎さん(写真奥)と一緒に町を歩くりょうさんぽ。

そこから誕生したのが「タイムトラベル100時間ツアー」だ。〈たけし文化センター〉に来て、まずは1泊2日を一緒に過ごす。プログラムは決まっておらず基本放置。利用者たちの写真と名前が書かれたカードを渡され、あとは一緒にごはんを食べたり、散歩へ行ったり、あるがままの〈たけし文化センター〉を体験するというものだ。

(写真について)「タイムトラベル100時間ツアー」は、毎月末に開催。福祉系、アート系のほか、口コミで噂を聞いて参加する人も。

どうして100時間かというと、彼らと4泊5日を過ごした学生たちの人生が変わったことがあったからだ。それまで障害者に接したことがなかった人たちの中にはここでの体験が忘れられなくて、教育学部に行き直す人、大企業ではなくベンチャー企業に就職した人もいた。

「1泊2日で終わってもいいし、そのあと来てくれてもいい。障害のある人に、フラットに出会ってほしいんです」と久保田さん。

(写真について)「タイムトラベル100時間ツアー」は参加した時間分、スタンプを押してくれる。地元の小学生に〈たけし文化センター〉で自由に過ごしてもらい、「もくげきシート」「これやったシート」を記入して「わからないものとの付き合い」を感じる「GoGo! たけぶん探検隊」も実施している。「よく見ると、へんなものやへんなことに出合うから、それに対して想像してほしい」とスタッフの夏目はるなさん。

郊外から街なかに〈たけし文化センター〉の新しい拠点を作ったことで、イベントがやりやすくなったし、おもしろそうなことを嗅ぎつけて訪れる人も増えてきたという。NPOになった20年前から「ソーシャル・インクルージョン(社会包摂)」を掲げて、ともに生きる社会を目指してきた。だから、「スタ☆タン」のようなものも生まれるし、街なかに拠点があることが重要になる。

(写真について)浜松の繁華街に拠点を構える〈たけし文化センター〉のお散歩タイム。積極的に街へとでていき、自分たちの存在を顕在化している。

アートには、社会の中の様々な問題、あるいは個人的な問題、苦しみ、悲しみに対して、一条の光となる力がある。固定化された価値観、様々なルールにがんじがらめになってしまった人、疎外されてしまう人たちに対して、新しい関係性を構築していく力もあると久保田さんは考えている。だとすると、〈たけし文化センター〉としての活動がまさにアートそのものだと思った。これからあるべき社会の姿を、おもしろおかしく照らしだしている。

(写真について)久保田翠さんと息子の壮さん、職員のササキユーイチさん。23歳になった壮さんの未来を考えて、福祉の枠組みではなく、シェアハウスで共生する「実験」も始まっている。
(写真について)浜松駅から徒歩10分の繁華街にある〈たけし文化センター連尺町〉。

○Information
〈たけし文化センター連尺町〉
静岡県浜松市中区連尺町314-30
電話:053-451-1355
http://cslets.net/
※取材は2019年12月末に実施しました。