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(カテゴリー)コラム

(タイトル)ダイバーシティな「絵本」ガイド vol.1

(この記事について)

絵本は子どもたちに向けた内容ながら、本質を鋭く描いた作品が多い。小さな子どもからの視座だからこそ、大人たちの「常識」を時に大きく揺さぶります。京都在住の絵本編集者・筒井大介さんに「多様性を考えるためのヒント」になる絵本を選書していただきました。

(更新日)2020年08月24日

CREDIT

[文]  筒井大介

「多様性」という言葉を聞くと「他者を理解する」「違いを受け入れる」という発想につながる人も多いと思う。

しかし、最近つくづく思うのは、自分以外の誰かのことを理解するのは本当に難しいということだ。どんなに親しい関係でも、心の中で何を考えてるかなんてわからないし、様々な面で自分と違う状況にある人が何を感じているか、日々どんな状況に直面し、どんな風に乗り越えたり乗り越えられなかったりするか、その全てを理解するのは不可能だ。

理解しよう、受け入れよう、という気持ちには「出来るかもしれない」という希望と期待が伴う。それが間違いの元だ。

自分に出来るのはせいぜい、様々な人がいると知った上で、想像することくらいだなと思う。想像し、時にった上で、必要があれば可能な範囲で出来ることをする。そしてあとは「まあええやん」と思うこと。大体のことは「まあええやん」で済む。これはとても良い「まあええやん」だなと思う3冊を紹介したいと思う。


『エリック』

「お国柄」という言葉が嫌いだ。

その言葉自体、というより使われる文脈のせいだろうか。大抵はどこかの国の人たちをむ、そこまでいかなくとも、少しネガティブなことをいう時に「まあ、お国柄だね」といった風に使われることが多い。なのでいつの頃からかこの言葉を使う人を警戒するようになってしまった。

この絵本には「お国柄」という言葉が何度も登場する。どこかの国からホームステイにやってきた交換留学生「エリック」に快適に過ごしてもらおうとぼくらは家具を新調したりペンキを塗り直したりして準備を整えた。それなのに彼は勉強するのも眠るのももっぱら戸棚の中。

なんでだろう? 

そんなエリックを見て母さんは「きっとお国柄ね」という。「いいじゃないの、本人がそれでいいんなら」と。

嫌いだった「お国柄」という言葉が全く違う響きを持って聞こえて、とても新鮮に感じ驚いた。価値観も習慣も違う相手に「理解できない」と腹を立てるのではなくこの母さんのように「いいじゃないの」と思えたら、つまらない争いも少しは減るかも知れない。

ショーン・タン [文、絵]、岸本佐知子 [翻訳]
『エリック』河出書房新社、2012年


『すきっていわなきゃだめ?』

「恋の絵本」と銘打たれたシリーズの1作。児童書の世界でもセクシャルマイノリティについての本を作りたいと目論んでいる編集者は多いと思う。

それ自体は悪いことではないが、一方で「テーマにする」ことの暴力性についてもきちんと考えなければいけないとも考える。うっかりすると、会社の金儲けや、企画者の自己実現のために性的少数者をネタとして消費する、ということになりかねない。

これは性的指向についてだけでなく、あらゆる場面で起こりうることだ。その懸念をこの絵本はとても軽やかに飛び越えてくる。

どんな性的指向も決して特別なことではなく、様々ある人の営みのひとつとして、取り立てて「そういうテーマです」と打ち出すことなく、自分の中に芽生えた「好き」という感情に向き合う子どもの気持ちを淡々と描く。

例えば、実は自分が異性より同性に惹かれることや、どちらが好きか分からなかったりすることを誰にも言えずに悩んでいる子どもたちが、この絵本を読んで「これでいいんだ」と感じられたら良いなと思う。

初見時にラストを「意外だ」と感じた自分が、まだまだ先入観に捉われていることに気づかされる。

辻村深月[文]、今日マチ子[絵]
『すきっていわなきゃだめ?』岩崎書店、2019年


『やましたくんはしゃべらない』

保育園入園から小学校卒業まで人前で一切喋らなかった山下賢二さん(元・ガケ書房、現・ホホホ座店主)の実話を元に作られた絵本。

「しゃべれない」ではなく、「しゃべらない」。自ら選んでそうしている。コミュニケーションはジェスチャーと筆談。合唱コンクールも口パクで通す徹底ぶり。

良いなと思うのは、そんなやましたくんがクラスでいじめられたり、無視されたり、腫れ物に触るように扱われたりということが一切なく「変わってるけど、あいつはそういう奴やから」という感じで当たり前に存在していること。

子どもの世界も大人と同じく、あるいはそれ以上に同調圧力に支配されていて、他と違って目立つ存在は煙たがられやすい。そう考えると、このクラスメイトのあり方は非常に稀有なものに感じる。

まさに「まあええやん」だ。だからこそ、やましたくんは小学校を卒業するまで「しゃべらない」という意思を貫き通すことが出来たのだろうと思う。

「あの子はなぜしゃべらないんだろう」と想像するのも大切だけど、きっと本当のことはわからない。「わからないけど、それで良い」と思えるのが、相手を尊重するということじゃないだろうか。

わからないまま、時に心が通じているかもと感じられる瞬間があれば、それ以上望むものはない筈だ。

山下賢二[文]、 中田いくみ[絵]
『やましたくんはしゃべらない』岩崎書店 、2018年


PROFILE関連人物

筒井大介

(英語表記)TSUTSUI Daisuke

(筒井大介さんのプロフィール)

1978年大阪生まれ。絵本編集者。担当作に『こどもたちはまっている』(荒井良二)、『ネコヅメのよる 』(町田尚子)、『えとえとがっせん』(石黒亜矢子)、『オオカミがとぶひ』『オレときいろ』『ドクルジン』(ミロコマチコ )他多数。編著に『あの日からの或る日の絵とことば 3.11と子どもの本の作家たち』(創元社)がある。水曜えほん塾、nowaki絵本ワークショップ主宰。

(筒井大介さんの関連サイト)

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