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(カテゴリー)レポート

(タイトル)デザインユニットHUMORABOによる、見出した価値の社会への届け方。

(この記事について)

プロダクトのデザインは極力しない。大切なのは「どうやって社会に浸透させるか」をデザインすること。「福祉を遊ぶ」をテーマに活動するデザインユニット〈HUMORABO〉の、制作したプロダクトとの育て方とは?

(更新日)2021年02月01日

CREDIT

[写真]  小島沙緒理

[文]  坪根育美

背景にある物語は伝えて初めて価値になる

「ちょっと待っててくださいね。いまから刷るので」。

〈HUMORABO〉の前川雄一さん・亜希子さん夫妻はそう言うと、両手に乗るくらいのサイズの機具に小さな六角形の紙をセットし、ハンドルをくるくると回し始めた。「改めてよろしくお願いします」と、笑顔で差し出されたのはできたての名刺。ふわっとした手触り感のある紙に「福祉とあそぶ HUMORABO」という活版の文字がくっきり刻まれている。なるほど、ふたりの遊びごころがこちらにも自然と伝わってくる。

〈HUMORABO〉は、「福祉であそぶ」をテーマに活動するデザインユニット。先ほどの“名刺づくり”で使われたのは、多岐にわたる〈HUMORABO〉の仕事のなかでも代表的なものとして挙げられる再生紙の手漉き紙NOZOMI PAPER®だ。宮城県南三陸町の障害のある人の生活介護事業所「のぞみ福祉作業所」が製作し、〈HUMORABO〉がデザインを含めた全体のディレクションを行うNOZOMI PAPER Factoryの活動から生まれた。

牛乳パックが原料の「MILK」、新聞紙が原料の灰色みのある「NEWS」、MILKをコーヒーの出がらしで染めた「COFFEE」の3種類があり、原料はすべて全国からの支援で作業所に届けられる。やさしいゆらぎのある唯一無二の質感と形は、「手漉き」と「再生紙」の要素が合わさっているからこそのもの。

「デザイナーだけれど、できるだけデザインをしないようにしています。グラフィックを加えるといったことはしません。NOZOMI PAPER® の手漉き紙は、それだけで十分魅力があったし、余計なことはすべきではないと感じました」と雄一さんは話す。

雄一さんが見つけた魅力は、NOZOMI PAPER®が作られる過程のなかにもあった。手漉き紙の原料を作るために牛乳パックをちぎる姿、利用者同士でエプロンの紐を結んでいる場面、原料を型に流し込み漉く様子——できないことを矯正せず、できることをする環境づくりや工夫が、そこここに散りばめられていた。それらは枠にはめられてしまう状況のほうが多いこの社会において、豊かですてきなことだと雄一さんは思った。プロダクトの背景にある物語も伝えていきたい。その思いはNOZOMI PAPER Factoryを紹介するパンフレットとして形になった。

「NOZOMI PAPER® は〈HUMORABO〉のオンラインショップや活版印刷所をとおして販売していますが、イベントに出店したときにこのパンフレットを使ってストーリーを伝えながら説明するようにしています」と、亜希子さん。

すると、多くの人がきれいで、薄くて、早くできる紙よりもストーリーのあるNOZOMI PAPER® に価値を感じてくれることがわかった。その事実は、これまでにやってきたことに対する自信となってふたりの心に高く積み重なっている。

「いまは、よりよい社会のために何かをしているとか、発見があるものが商品の価値になる時代になりつつあると感じています。『こういうふうになれば、もっとみんな幸せになれる』というものをきちんと示せれば、受け取ってくれる人はもっと増えるはずです」と、雄一さんはきっぱりと話す。


楽しんでいるからこそ続けられる

〈HUMORABO〉が活動のなかで意識しているのは、プロダクトをつくって終わりにしないこと。販路も含めて「社会に浸透させるためにはどうすればいいのか」をいつも考えている。売れ続ける環境があって初めて、作業所の仕事が持続可能なものになるからだ。

たとえば、「9696レタープレスセット」は、NOZOMI PAPER® に興味はあるが、どう使っていいのかわからない個人客のために作られた。これがあれば、誰でも自宅で簡単に活版印刷ができる。

「とはいえ、福祉の業界をなんとかしたいといった使命感のような気持ちはまったくなくて。僕が好きな言葉は『無責任』。おもしろい、やりたい、と思えるから続けていけます」と、茶目っ気たっぷりに話す雄一さん。そのあとに亜希子さんも笑みを浮かべて続ける。

「『福祉であそぶ』のテーマにつながりますが、一緒に遊べる人とは対等な関係でいられる。〈HUMORABO〉はそういう人たちと楽しく仕事をする場所でありたいと思っています」。

一緒に遊べる関係から生まれた仕事はNOZOMI PAPER Factory のほかにもたくさんある。東京都中野区にある就労継続支援B型事業所「あとりえふぁんとむ」と作ったのは、NOZOMI PAPER Factory の利用者が描いたモアイの絵を使った革のキーホルダー。とくにおもしろいのが、「染色がかかっていない箇所あります」などの言葉が添えられている商品。これはいわゆる検品の際にひっかかったB 級品になるのだが、見た目はほとんどA 級品と変わらない。そこであえてB 級品の理由を書いてもらい、それぞれの特徴に捉え直して商品化したのだ。

また、今年は東北の伝統工芸品などを取り扱う「東北スタンダードマーケット」が始めたTANABATA PAPER プロジェクトにも参画した。これは新型コロナウィルスの影響で開催中止になり行き場のなくなった仙台七夕まつりの飾りでリサイクルペーパーを作り、来年の開催につなげるために始まったもので、NOZOMI PAPER Factory で紙を作り、ハガキをデザインした。「以前よりも一緒に何かしたいと声をかけてもらえる機会は増えています」と雄一さん。これからも“遊び仲間” を増やしながら、〈HUMORABO〉は社会にプロダクトを届けていく。

◯Information
《HUMARABO》
ウェブサイト:http://www.humorabo.com

《NOZOMI PAPER Factory》
ウェブサイト:http://www.nozomipaperfactory.com