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(カテゴリー)インタビュー

(タイトル)自閉症者の世界を体感できる映画『僕が跳びはねる理由』原作者に聞く、「自分の思いを伝えられるようになって、世界はどう変わったか」

東田直樹 [作家]

(この記事について)

会話が成り立ちにくいことから、誤解や偏見を受けることが多かった自閉症者だが、彼らがどのように世界を感じ、とらえているのかを体感できる映画が公開された。『僕が跳びはねる理由』は、美しい映像と音響技術によって、知らない国を旅するように彼らの世界を追体験できる。原作者である東田直樹さんは、それまで理解されにくかった自閉症者の感情や思考をどのように綴ったのだろう。

(更新日)2021年04月02日

CREDIT

[写真(トップ画像と本)]  大沼ショージ

[文]  岡田 カーヤ

                           消えてしまう言葉をつなぎとめながら、自分の思いや考えを伝えている

会話をするのが難しい重度の自閉症者である東田直樹さんが、エッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)を執筆したのは今からおよそ15年前、13歳のときのこと。

どうして会話ができないのか、どうして突然跳びはねる行動をするかなどが、自閉症者の感覚や感情、世界のとらえかたとともに、わかりやすい言葉で描かれたこの本は、大きな注目を集めた。

「世界中の自閉症の子を持つ親にもこの本を読んでほしい、伝えたい」という思いでこの本の翻訳を手掛けたのは、自らも自閉症の息子を育てるイギリスのベストセラー作家、デイヴィッド・ミッチェル氏。現在、世界34カ国で出版されている『The Reason I Jump』がプロデューサーの目にとまり、映画『僕が跳びはねる理由』が制作された。

今回、映画公開にさきがけて、原作者である東田さんにオンラインで話を聞いた。画面の向こうにいる東田さんは、机の上においた文字盤を指しながら、ゆっくりと、だけど確実に質問に答えてくれた。会話をすることが困難な東田さんの、「すぐに消えてしまう言葉」をつなぎとめておいてくれる役割を担っているのが文字盤なのだ。

僕が見ていた世界が変わったのではなく、世界を見る僕の目が変わった。世界は僕が考えているよりずっと厳しく、そして優しいものだった

東田さんが、自著『自閉症の僕が跳びはねる理由』で記されている「どうして自分は跳びはねるのか」「どうして会話が難しいのか」「世界をどのようにみているか」「どのようにものごとを記憶しているか」などは、映画でも印象深いシーンとして表現されていました。
翻訳者のデイヴィッド・ミッチェルさんは、「荒々しい感情の波にさらされているときのことを、言語化するのはたいへんなこと」と、映画『僕が跳びはねる理由』でおっしゃっていました。東田さんにとって、自分の感覚を言葉にすることは、とても難しいことだったのですよね?

 

東田)
日常生活がそんな感じでしたので、僕にとっては、普通のことだと思っていました。
けれども、楽々と口で話しているみんなを見て、うらやましかったです。

 

だからこそ、言語化する必要があったのですね?

東田)
そうですね。
いろいろありましたが、僕もみんなのように自由に話せるようになるのが夢でした。

 

そのために文字盤は必要なものだった。

東田)
そうです。僕は、話そうとすると、言葉が消えていました。だから、言葉を引き出すために、この文字盤を使っています。

 

何度も訓練をすることで文字盤を使いこなせるようになり、自分の意思を人に伝えることができるようになったのですね。伝えることができるようになってから、東田さんの世界はどのように変わりましたか?

東田)
自分という人間が、たとえ他の人の想像とは違っていたとしても、自分の意思を伝えられるということは、僕がここで生きている証になっているような気がします。

僕は、文字盤ポインティングができるようになって初めて、人の気持ちを受け止めることの大切さを知りました。思いを人に伝えられるようになったからといって、自分の気持ちのすべてをぶつけていい訳ではありません。そんな当たり前のことに気づいたのです。

僕が見ていた世界が変わったのではなく、世界を見る僕の目が変わったのだと思います。世界は、僕が考えているよりずっと厳しく、そして優しいものでした。

 

小さいころから文字や数字に強い関心をもっていたそうですね。
東田さんにとって、文字や数字、そして言葉はどういう存在なのでしょう。また、自分の気持ちを、最初に文字盤を使って伝えたのはいつで、どのような気持ちでしたか?

東田)
僕にとっては友達みたいな存在です。文字や数字は人間が考えたものです。だからなのかもしれませんが、それぞれに個性を感じます。僕は知っている文字や数字を見ると嬉しくなります。「また会えたね」という気分になり、話しかけたくなります。

文字盤を使い始めたのは小学校2年生くらいの時で、徐々に上達するにつれて、もしかしたら上手くいくかもしれないと思うようになりました。まさに希望の光が差し込んできたかのような感覚でした。

 

お母さんがつくってくれた文字盤で練習したそうですね。今使っているのもお母さんがつくってくれた文字盤ですか?

東田)
そうですね。最初は文字盤に慣れるためにも、文字の大きさが重要でした。

 

文字盤を使い始めた頃からだんだんと、東田さんの伝える力は成長、上達しているのですね?

東田)
困っていることを伝えるだけでなく、作文を書いたり、詩を書いたりしながら、文章を書くという練習を続けてきました。

 

文章を書くうえで影響を受けた本や作家はなんですか? また、書くうえで気をつけていることはどういうことでしょう。

東田)
影響を受けた本は、宮沢賢治さんが書かれた『銀河鉄道の夜』です。日本語の美しさと独特のリズムに惹かれました。
僕が書くうえで気をつけていることは、自分にしか書けない文章を綴ることです。

「君もここにいていいんだよ」という態度や優しいまなざしを向けてもらえるだけで、気持ちが落ち着く人もいるはずだから

普段、「考えている時間」が多いそうですね。どんなことを考えることが多いのでしょう? またどんなことを考えるのが好きですか?

東田)
僕はよく人を観察しています。テレビなどを見ていても、「どうしてあの人は、こんなことをするのだろう」と不思議に思うと、じっと考え込んでしまいます。気になる人の表情や仕草、声のトーンなどから原因を自分なりに分析します。

答えがわかるとすっきりします。その他にも、新作の詩や物語を空想することもあります。創作のいいアイデアを思いつくと気持ちが高揚し、突然笑い出してしまいます。

 

日常生活のなかで跳びはねることは、東田さんの心を落ち着かせるための手段のひとつだと思うのですが、そのほか気持ちを落ち着かせるためにやること、好きなことはどういうことですか?

東田)
いつもしていることを、いつも通りにやることです。
こんなに混乱してしまったと思ったら、いつもしていることをやって、気持ちを落ち着けます。

東田さんは、映画『僕が跳びはねる理由』を見て、どのような感想をもたれましたか? また印象深いシーンはどこでしたか?

東田)
自閉症者の思いや自閉症家族の当事者への愛が描かれた素敵な作品だと思いました。映画をご覧になられた方は、自閉症者が何を見て感じているのか、自閉症者の視覚や聴覚を体験したかのような感覚になると思います。普通の人たちにはわかってもらいにくい自閉症者の生きづらさをご理解いただけるのではないでしょうか。

印象深いシーンは、シエラレオネの差別に関するシーンです。ひどい差別や偏見があることを知り胸が痛くなりました。命をも奪ってしまうこのような出来事は、人としてとても悲しいことだと思います。

アメリカに講演に行かれたとき、「自閉症理解が進んでいる」と感じ、「おかげでパニックにならずにすんだ」と発言されています。日本の社会で足りないところはどういうところでしょうか? また、暮らしやすい世の中にするために、必要なことはどういうことだと考えますか?

東田)
僕が行ったのはニューヨークですが、公共施設などで困ったことが起きた場合、「自閉症です」と係員の人に言えば、みんな笑顔で対応してくれました。自閉症の啓発が進んでいるため、自閉症とはどのような障害なのかを立ち止まって説明する必要もありませんでした。

日本では、ルールや決まりごとに縛られ過ぎて、少しの配慮ですむことも、大きな問題になってしまうことがあるように思います。

「君もここにいていいんだよ」という態度や優しいまなざしを向けてもらえるだけで、気持ちが落ち着く人もいるのではないでしょうか。

暮らしやすい世の中にするために必要なことは、もし自分だったらという想像力を働かせ、互いに生きる権利を認めることだと思います。

「すべての自閉症者を代表することはできないが、みんなに理解してもらいたくてこの本を書いた」と映画の中で解説されています。『自閉症の僕がとび跳ねる理由』を執筆された15年前と今とでは、自閉症をめぐる状況は変わってきましたか?

東田)
少しずつ良くなっていると思います。けれども、自分が自閉症であることで苦しんでいたり、家族が悲しい思いをしたりしている人たちは、まだまだたくさんいます。
これからも多くの方たちのご理解とご協力をいただければと、願っています。

◎Information
『僕が跳びはねる理由』
2021年4月2日から、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国順次公開
原作:東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)
翻訳原作:『The Reason I Jump』(翻訳:デイヴィッド・ミッチェル、ケイコ・ヨシダ)
監督:ジェリー・ロスウェル/2020年/イギリス
字幕監修:山登敬之
配給:KADOKAWA
©2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute

 

[STORY]
自閉症者が見て、感じている世界はどういうものか。“普通”といわれる人とどのように異なっているのか。世界各地で暮らす5人の自閉症の少年少女たちの姿を、家族の証言とともに描き、美しい映像と音響で自閉症者の世界を綴ったドキュメンタリー映画。旅をしているかのような発見と驚きに満ちている。2020年サンダンス映画祭、ワールド・シネマ・ドキュメンタリーコンペティション部門で観客賞を受賞。

公式Webサイト:https://movies.kadokawa.co.jp/bokutobi/


PROFILE関連人物

東田直樹

(英語表記)HIGASHIDA Naoki

(東田直樹さんのプロフィール)

作家。1992年8月千葉県生まれ。会話のできない重度の自閉症でありながら、パソコンおよび文字盤ポインティングによりコミュニケーションが可能。2005年、13歳のときに執筆した『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)で、理解されにくかった自閉症者の内面を平易な言葉で伝え、注目を浴びる。

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