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【写真】カラフルなデザインが施された久遠チョコレートの商品

(カテゴリー)レポート

久遠チョコレート

チョコレートがみるみるアートに変わっていく。

(この記事について)

お店に並ぶカラフルなチョコレート。よく見るとフルーツが載せられていたり、ナッツが入っていたりととても手が込んでいる。実はこのチョコは知的障害のある職人の手によるもの。〈久遠(くおん)チョコレート〉代表の夏目浩次さんは障害者の就労環境を知り、その選択肢の少なさと工賃の低さに疑問を抱いた。その疑問がカラフルでおいしいチョコレートを生んだ。〈久遠チョコレート〉本店のある愛知県豊橋市へ夏目さんを訪ねた。

(更新日)2022年09月30日

CREDIT

[文]  飛田 恵美子

[写真]  斉藤有美

本文

自信に満ち溢れるチョコレート職人たち

【写真】抹茶パウダーを作る為に使う石臼

ゴロゴロゴロ。乾燥した茶葉が石臼で粉砕されていく。トントントン。ドライフルーツやタルト生地が小型包丁で細かくカットされていく。真剣な表情で、目の前の細かな作業に集中する職人たち。

「おすすめ商品はありますか?」と話しかけると、手を動かしながらも「チョコミント。テリーヌの」「リッチベリーです」「ミルクチョコのタブレットは世界一おいしいかもしれない」と得意そうに答えてくれた。

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代表商品の「QUON テリーヌ」。道明寺やほうじ茶、レーズンにピスタチオなど多様な素材を使っている。

〈久遠チョコレート〉は、愛知県豊橋市に本社を置くブランドだ。代表商品はピュアチョコレートと日本各地の食材を組み合わせた「QUON テリーヌ」で、その種類はなんと150種以上。なかでも、生地の上に色とりどりのドライフルーツやナッツがのった美しいプレミアムテリーヌは一つひとつ表情が異なり、見ているだけで心が躍る。

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見目麗しいプレミアムテリーヌは贈りものにもぴったり。

フランチャイズを含め、全国に生産・販売拠点を持つ〈久遠チョコレート〉。その特徴と言えるのが、そこで働く570名のうち、半数以上が障害者であること。そして、一般企業での就労が困難とされる障害者が働く就労継続支援B 型事業所の全国平均工賃が月額1万6千円ほどであるなか、その数倍もの工賃を払っていることだ。

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B型作業所として運営している豊橋工場の作業風景。フルタイムで働けば月17万円ほど稼ぐことができる。

代表の夏目浩次さんは、都市計画コンサルタントをしていたときに障害者の就労環境を知り、その選択肢の少なさと工賃の低さに疑問を抱いたという。2003年に独立し、愛知県の最低賃金を守って障害者を雇用するパン屋を開店した。

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「多様な選択肢がある社会になれば」と夏目さん。

「でも、理想と現実のギャップは大きかったんです。パン作りは工程が複雑で、焼きたてのパンを開店時間までに用意するには、分刻みのスケジュールで動かなければいけません。誰にでもできる仕事ではなく、ついてこられない人を解雇したこともありました。経営も厳しくて、一時期は本当に大変でしたね。……創業から10年、何か活路はないかと悶々としていました」

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職人が描いた絵をパッケージに使ったカラフルなタブレット。

転機となったのが、現在〈久遠チョコレート〉でシェフショコラティエを務める野口和男さんとの出会いだった。「チョコレートは正しい材料を正しく使えば誰でもおいしいものが作れる」という言葉を聞いて、夏目さんは半信半疑で野口さんの工場を見学する。そこでは、隣の日本語学校で学ぶ外国人たちが休み時間に高級ブランドのチョコレートを作っていた。

【写真】チョコを薄くのばしてナイフでカットしていく様子
【写真】チョコの粘度を確認する様子
【写真】丁寧にチョコを成形していく

「本当に単純な手作業の繰り返しで、素人でも高単価の仕事に携われるんです。間違えても溶かせばまた使えるし、賞味期限も長い。チョコレートはパンと違って、人に時間を合わせてくれる素材だと思いました。『この作業ならあの人でもできる』『こう工夫すればあの人にも』と、それまで置き去りにしてしまった人たちの顔がばーっと浮かび、『チョコレートを事業にしよう』と決心しました。」

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商品におまけとしてつける折り紙に没頭。本に載っていたプテラノドンをリクエストすると、「これは難しい、でもやってみます」と挑戦してくれた。

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パウダーラボにて、作業の合間にパチリ。みなさんいい表情!

隣の人に寄り添うために、
みんなが本気でもがいたら

【写真】カメラを向けるとこちらに注目してくれたスタッフ

2014年に〈久遠チョコレート〉を立ち上げてから、働く人一人ひとりの障害や特性に合わせて環境を整えてきた夏目さん。2021年には、重度障害者が働く生活介護事業所〈パウダーラボ〉を豊橋市内にオープンした。テリーヌに使う果実やお茶の粉末を作る工場で、冒頭で紹介したのがその製造風景だ。

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それまで外注していた粉末化作業を内製化。機械ではなく石臼を使うことで、素材のうまみをそのまま活かせるようになったという。

「生活介護事業所は就労を目的とした施設ではないため、B型事業所より工賃が安く、一説では月3千円から5千円と言われています。でも、障害が重くてもできる仕事はあるはずだと思ったんです。何かを生み出すことは苦手でも、壊すことは得意という人もいるし、工夫すればそれも立派な価値になる。パウダーラボでは、月額5万円以上の工賃をお支払いしています」

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最初は車で送迎されていた人が仕事にやりがいを感じて自分の足で意気揚々と歩いてくるようになったり、少しずつできることが増えていったりと、この1年でうれしい手応えを感じているという。パウダーラボも全国展開していく予定だ。

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同じ豊橋市内にオープンした〈パウダーラボセカンド〉。チック症状により床を強く蹴ってしまう職人が気兼ねなく働けるよう、1階の物件を借りたという。

「パウダーラボができたことでテリーヌの品質は高まり、作業の効率も上がりました。働きたいのに働けなくてうなだれている人が隣にいたから、その人にできることを真剣に考えた。そうしたら、それが自分たちの成長につながった。同じことが、ほかの業界でもできるはずです。隣の人に寄り添うためにみんなが本気でもがいたら、日本は本当の意味で豊かな社会になるのではないでしょうか」

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2021年12月には、“大きな設備投資が必要なく、過疎地や山間部に住む親子2人でも始められる業態”として焼き菓子専門店〈QUONチョコレートDEMI-SEC〉もスタート。

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DEMI-SECでは、ピュアチョコレートを贅沢に使ったフィナンシェやテリーヌタルトを製造・販売する。

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豊橋本店で提供している生チョコのソフトクリーム。コーンの上部にはビターチョコレート、内側にはテリーヌチョコがコーティングされていて、味の変化が楽しい。

おいしいだけでも、見た目が美しいだけでもない。〈久遠チョコレート〉のカラフルなテリーヌは、「こんな社会になったら楽しいと思わない?」と問いかけるアート作品と言えるかもしれない。


Information
〈久遠(くおん)チョコレート豊橋本店〉
住所:愛知県豊橋市松葉町1-4
電話:0532-53-5577
Web:久遠チョコレート公式サイト