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【写真】お盆の上にコーヒーゼリーがある。エプロンをした人がもっている。グラスのなかには、ゼリー、生クリーム、アイスがのり、一番上に笑顔のクッキーがささっている。

(カテゴリー)レポート

くつろぎカフェ オリジナルスマイる
(福岡県)

お客さんとの交流、メニュー開発、ここでしかできない私の表現。

(この記事について)

福岡市の住宅街。町の人が集まるこちらのカフェでは、ランチやスイーツが運ばれてくると、目を輝かすのはお客さんばかりではありません。考案者であるスタッフたちも心の中でガッツポーズをしているのです。

(更新日)2022年12月29日

CREDIT

[写真]  中村紀世志

[文]  小野好美

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広々とした店内。中央には大きなカウンターがあり、床には使い込まれた木材が使われていてシックな印象。以前は歴史ある料亭だった。

ゆったりできて、おいしくて、元気がでる、
町で人気のカフェ

福岡県福岡市東区。用水路の流れがゆったりした空気を作り出す町の一角に〈くつろぎカフェ オリジナルスマイる〉はある。松の木をくぐるようにして建物内に入ると、温かみのある木づくりの空間が広がる。奥の窓は中庭に面しており、広々とした店内にさらなる開放感をもたらしている。

開店時刻の11時を過ぎると、お昼時にかけて、友人グループ、夫婦、ママ友とその子どもたちといった風のお客さんが次々に来店。カウンターには一人客の姿もある。45席ある店内は、あっという間にほぼ満席になった。

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生パスタランチセットは、パルミジャーノ・レッジャーノチーズのカルボナーラ、厚切りベーコンと3種のキノコのトマトクリームパスタ、北海道産ホタテとジャコの和風パスタの3種から選べる。サラダ、スープ、ドリンク付き。

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お昼の一番人気は、週替わりランチ。小鉢、スープ、ドリンク付き。

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国産牛肉と野菜がたっぷりのった佐賀県のご当地料理、シシリアンライスセット。スープ、ドリンク付き。

ランチの人気メニューは、週替わりランチと生パスタ。スイーツのメニューも目移りするほどたくさんある。どのお客さんも、食事とその前後の時間をゆっくりと楽しんでいる印象だ。

2006年にオープンしたこの店を運営しているのは社会福祉法人〈明日へ向かって〉。法人を利用する11 人のメンバーが、キッチンやホールのスタッフとして働いている。

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店の前に並ぶ11人のスタッフ。

お菓子の販売から叶えたカフェ勤務の夢

メンバーの一人である奥野成美さんは、以前は同法人が運営する〈菓子工房 ぷぷる〉でチョコレートを作る仕事をしていた。場面緘黙症(かんもくしょう)があり、家の外では話せなかったという。

〈オリジナルスマイる〉リーダーの滝下未沙さんは、奥野さんについてこう話す。

「もともと奥野さんは、休みの日にも気になる店に行ってメニューを研究するほどのカフェ好き。カフェで働きたいという意欲も強かったんです。でも、そうすると仕事に接客が含まれる。カフェで働くために、話せるようになろうと決めたんだと思います」

〈菓子工房 ぷぷる〉は、販売方法がユニークだ。「待っていたって売れないから」とは法人の主宰・末松忠弘さんの言葉。近隣の取引先企業に直接訪問して販売する方式をメインにしているのだ。

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〈菓子工房 ぷぷる〉の焼き菓子はカフェでも購入可能。全て九州産米粉を使用しており、しっとりした口どけ。シフォンケーキにクッキー、マロングラッセがゴロリと入った栗のケーキも人気。

この販売への同行が奥野さんの転機になる。営業担当の職員と一緒に、取引先に通うようになった。

奥野さんは、少しずつ発話の機会をとらえ、外で話すことに徐々に自分を慣れさせていった。家族の送迎を必要としていた通勤も一人でバスを使ってするようになり、やがて4年勤めた工房からカフェへの異動をかなえた。

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カウンター内でドリンクを作る奥野成美さん。お昼時は息をつく暇もない。

奥野さんの担当業務は、コーヒーを淹れること。

一杯一杯、ハンドドリップで淹れるため、忙しい時間帯は「汗をかきますよ」とサラリと話す。一見クールで、でもその実、静かに仕事への情熱を燃やしている奥野さんはここで、多様かつ唯一無二の自身を表現している。

店には、奥野さんがカフェ研究をして企画したスイーツのメニューがある。休みの日に自宅で試作し、器を買って盛り付け、写真を撮って滝下さんに見せた。その熱意に触れた滝下さんは「これはどうしても店のメニューにしたい」と考え、皆でブラッシュアップ。晴れて店のメニューに並ぶこととなった。

こうして生まれたのはコーヒーゼリーパフェ。コーヒーのしっかりした苦味をバニラアイスの甘さが包みこむ。アクセントに、〈菓子工房 ぷぷる〉が店のキャラクターをかたどって作ったクッキーが載せられている。

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奥野さん考案の「コーヒーゼリーパフェ」。上に載っているのは「カップくん」クッキー。

パフェのオーダーが入ると、奥野さんはお客さんの前では決して顔には出さないが、裏でこっそり「よっしゃ」と喜ぶ。ただ、オーダー数は思うように増えないという。なにしろスイーツメニューが大変豊富で、ライバルが多いのだ。今はガラスのコップに盛り付けているが、取っ手付きのガラスの器に変更したらどうだろうかなど、奥野さんは忙しい仕事の合間、「我が子」の売り上げアップ策をしっかり練っている。

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「コーヒーゼリーパフェ」と考案者の奥野成美さん。普段は顔には出さないけれど、注文が入ると「よっしゃ」と喜ぶ。

「奥野さんが学校を卒業して法人の利用をスタートするときに、学校の先生は『奥野さんが外で挨拶できるようになるといいですよね』と話していたんです」。滝下さんは、カフェで周囲とコミュニケーションを交わしながら働く奥野さんを見ながら、当時を思い出す。

「奥野さんは人に喜んでほしいという気持ちが強くて、努力家。いつの間にか基本的な手話を覚えてきたことがありました。それは店に時々来てくださる聴覚障害のお客さんのため。役に立ちたい一心からでした」。滝下さんはそうも教えてくれた。

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〈オリジナルスマイる〉リーダーの滝下未沙さん。

メンバーの活躍の場であり、町に溶け込むカフェでもある

「〈オリジナルスマイる〉の名の元になった、SMAPの曲『オリジナル スマイル』の歌詞が好きで、曲を聞くと、自分も笑顔で、心に力を入れようって思うんです。僕らのチームワークで、お客さんに笑顔になってほしい」。そう話してくれたのは渕野(ふちの)浩平さん。カフェスタッフ歴14年の大ベテランだ。

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パフェを運ぶベテランの渕野浩平さん。

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渕野さんは、月に一度の風船バレーが余暇の楽しみ。

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渕野さん考案「抹茶と白玉のはつこいパフェ」。はつこいは添えられたサブレの商品名。

続いてお話を伺った森郁裕(たかひろ)さんはカフェ歴8年目。忙しい時間帯は「手が追いつけないくらい」だが「仕事は楽しい。チームでフォローし合って働くことにやりがいを感じる」と話す。

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推しのパフェを運ぶ、森郁裕さん。

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森さん一押し「プチパフェ キャラメルマキアート」。中に入っているゼリーを森さんがつくっている。

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「プチパフェ キャラメルマキアート」を運ぶ森さん。

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森さんは、ドリンクの提供タイミングをいつも気遣っている。

渕野さんも森さんも、奥野さん同様自分がかかわるメニューに誇りを持ち、イキイキ働く姿がかっこいい。

一人ひとりが生きやすく、自分らしくいられるよう社会の当たり前を超えて駆け抜ける

〈明日へ向かって〉はカフェ、菓子工房のほかに雑貨の工房を持ち、インドネシアの伝統音楽・ガムランの演奏活動に、ファッションショー、よさこい踊りと文化活動も盛んだ。

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2000年にパウンドケーキづくりから始まった〈菓子工房 ぷぷる〉の作業場。

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現在はおよそ20種類のお菓子をつくっている。

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パウンドケーキをセットして包丁を下ろすだけで簡単に、均等に切れる道具を開発。よく見ると、両端が太くなっている。

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しっとりおいしい米粉のパウンドケーキ。10年程前、原料を小麦から米粉へと切り替えた。

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インドネシアの伝統楽器ガムランを用いたアンサンブルは、オリジナルの楽譜を見ながら。

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ガムランアンサンブルには笙(しょう)も登場。

最近では、重度の障害がある人のリラクゼーションに役立つのではと考え、360度の映像を映し出すプロジェクターを導入した。先進的な活動に、主宰の末松さんは「特別なビジョンはないんです」とあくまで謙虚。ビジョンを掲げるのではなく、160人を超える法人のメンバー一人ひとりが生きやすく、自分らしくいられるよう社会の当たり前を超えて駆け抜けてきた結果に、現在のユニークな法人の形があるのだ。

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〈くつろぎカフェ オリジナルスマイる〉〈菓子工房 ぷぷる〉を運営する社会福祉法人〈明日へ向かって〉主宰・末松忠弘さん。〈明日へ向かって〉は「超えていくんだ」をキャッチフレーズに活動。

〈オリジナルスマイる〉はその中で、ここでしかできない表現に喜びを感じるメンバーの活躍の場として、そして町に溶け込むカフェとして、両面から欠かせない唯一無二のピースになっている。

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店の前に並ぶ11人のスタッフ。自然と笑顔が弾ける様子に仕事の楽しさとチームワークの良さが伝わってくる。


Information
〈くつろぎカフェ オリジナルスマイる〉
住所:福岡県福岡市東区若宮5-7-22
電話:092-671-4618
営業時間:11:00 ~ 17:00/日曜・祝日休
Web:くつろぎカフェ オリジナルスマイる公式サイト