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(写真について)〈Museum Start あいうえの〉より。

(カテゴリー)コラム

子どもの可能性を広げる、アートプロジェクト

クレジット

[文]  佐藤恵美

読了まで約5分

(更新日)2018年12月25日

(この記事について)

子どもとアートに関わる5つの取り組みを紹介。公共施設や障害のある子どもの通うスペース、また誰でも参加できる実験的なプロジェクトなど。どの活動にも子どもの可能性を伸ばすヒントが詰まっている。

本文

ハート&アート空間 ビーアイ(宮城)

心を遊ばせることのできるスペース

こどもたちがひとつのおおきなつくえをかこんで、がようしにクレヨンでえをかいているようす。

1987年に仙台で創造表現活動をする空間〈ハート&アート空間 ビーアイ(以下、ビーアイ)〉としてスタート。その名に「自分であれ(=Be I)」という意味が込められる。2歳の子どもから大人までそれぞれが、週に1回、時間と曜日を決めて通う。1カ月ごとに考えられるカリキュラムには、絵や立体の制作はもちろん、料理や外で自然と触れ合う体験も。「人、モノ、自然、言葉とどう出会うか」を大事に、一人ひとりが「どうしたいのか」を引き出せるプログラムを考えているのだそう。

「昔ここに通っていた子が大学生になったとき〈ビーアイ〉のことを『心の拠り所だった』といったんです。障害があるなしに関わらずどんな子どもにとっても心を解放し、遊ばせることができる。そういう場所でありたいと思っています」と代表の関口怜子さん。

◎Information
ハート&アート空間 ビーアイ
宮城県仙台市青葉区立町20-11 ミカミハウス2F
tel. 022-262-2969(日祝をのぞく10:00-18:00
email. zoukabako@gold.ocn.ne.jp


Museum Start あいうえの(東京)

上野の9文化施設による、すべての子どもたちへのミュージアム体験

じょせいとおとこのこがびじゅつかんないをあるいている。じょせいはえがおでおとこのこのかおをのぞきこんでいる。

東京都美術館「楽園としての芸術」展。

「ミュージアムでの特別な体験をすべてのこどもたちに届けたい」という理念で、上野公園にミュージアムがさまざまなプログラムを展開する〈Museum Start あいうえの〉。参加するのは美術館、図書館、博物館、文化ホール、大学を含む9つの文化施設だ。

子どものミュージアム・デビュー体験を軸に、家族や学校にむけた数種類のプログラムを用意し、随時申し込みを受け付けている。家族向けのなかには、9つの文化施設をめぐるコツをマスターする「あいうえの日和」、各施設でのさまざまな鑑賞・観察・造形体験などを用意する「うえの!ふしぎ発見」などがあり、障害のある子どもには個別対応も行なう。また「ミュージアムトリップ」では、家庭等の状況により文化施設を利用しにくい子どもたちやその保護者を対象に、ミュージアムに招待している。


◎Information
Museum Start あいうえの
東京都台東区上野公園8-36東京都美術館内 交流棟2F プロジェクトルーム
tel. 03-3823-6921(代表)
主催:東京都、東京都美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学
http://museum-start.jp


対話で美術鑑賞「アーツ×ダイアローグ」(東京、神奈川)

教育に生きる、正解のないアート

がっこうのきょうしつでこどもたちがきょしゅをしているようす。

知識によらず、作品を見て感じたり考えたりしたことを言葉にする対話型の鑑賞プログラムが、東京・西東京市、神奈川・大和市の小学校で行われている。学校や美術館などでこのプログラムを行うのは〈NPO法人芸術資源開発機構(ARDA)〉。さまざまな機関と協力して芸術と社会をめぐるさまざまな活動を展開している。

1時間目は45人の少人数でアートカードを使ってゲームのように鑑賞し、2時間目は大画面で作品を見ながら対話していく。特別支援学級の子どもが参加することも。ファシリーテーターの進行で自分の考えを自由に発言するこのプログラムは、どんな意見も認められる。なぜならアートは、計算や漢字のように一つの答えがあるわけではないから。このプログラムを終えたあとは、普段の授業ではあまり発言をしない子どもが、授業に積極的になることもあるのだとか。


◎Information
NPO法人芸術資源開発機構(ARDA)
東京都千代田区内神田1-16-4 Future House lab.
tel. 03-3518-9630
http://www.arda.jp


ソーシャルサーカス(神奈川)

子どもも大人も参加できるサーカスがリハビリに

こどもたちすうめいがさらまわしのたいけんをしているようす。

ものづくりやパフォーミングアーツを通じて障害、国籍、年齢、性別などを越えた出会いや協働の機会を生む〈NPO法人スローレーベル〉が、2018年より実験を開始した〈ソーシャルサーカス〉。同団体が2014年に開催した「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」の経験から、パフォーマンスをつくるまでの練習やワークショップのプロセスに、心身のリハビリテーション効果があることに気づいたそう。

スローレーベルのこれまでの実績や海外の先駆的な事例をもとに、カナダの研究者らとともにワークショップやフォーラムなどを実施。「いろんなことに物怖じせずに参加できるようになった」という障害のある10代の子どもも。年齢や障害の有無を問わず誰でも参加できるサーカスが、「自己効力感」の向上や違いを活かし合う体験につながる。今後、公共施設や学校などでこのプログラムが育つことを視野に、活動を展開していく。


◎Information
特定非営利活動法人スローレーベル
tel / fax. 045-642-6132
email. pr@slowlabel.info
http://www.slowlabel.info


ボーダレスアートスペースHAP(広島)

好きなことを見つけてもらうために、待つ

はっぷのりようしゃのこどもたちがえをかいたりはなしをしたり、じゆうなじかんをすごしている。おとなのすたっふたちはちかくでこどもたちをみまもっている。

1989年からのギャラリー運営のもと、「アート=療育」という思いから2012年に設立された放課後等デイサービス。現在は児童発達支援も含め、広島市内の3カ所でそれぞれ10名ほどの子どもが通う。約50名のスタッフは、ほとんどがアーティスト。美術に関する専門を生かしながら、子ども一人ひとりと丁寧に関わる。一口に「アート」といってもその表現はさまざま。映像をYouTubeにアップする子もいれば、ダンボールで立体作品をつくる子、トランポリンで飛び跳ねる子、ただ寝るだけの子もいる。

「時間の流れは人それぞれ違うので、待つことを大事にしています」と代表の木村成代さん。何もしなくてもスタッフは待ってくれている。子どもたちがやりたいことを見つけるまで。最近では、障害のある子どもに限らず、近所の子どもや大人が参加できるイベントやサークル活動も行っている。

 

◎Information
一般社団法人Hiroshima Art Platform HAP
広島県広島市中区上八丁堀4-1 アーバンビューグランドタワー公開空地内
tel. 082-211-3260
email. gg@gallery-g.jp
http://artspace-hap.com/