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JR 高輪ゲートウェイ駅に設置された仮囲いアートプロジェクト

(カテゴリー)レポート

(タイトル)対話がつくるプロダクト〈ヘラルボニー〉

(この記事について)

岩手県と東京都に拠点を置くヘラルボニーは、福祉を軸に物・こと・場所を企画し、様々なプロジェクトや商品を世の中に送り出す。彼らは障害のある作家たちが生み出したアートを積極的に製品化する。製品化の真ん中にあるものは作家たちとの「対話」だ。

(更新日)2021年02月18日

CREDIT

[写真 東京編]  相馬ミナ

[写真 岩手編]  船橋陽馬

[文]  井上英樹

アートから新しい価値を生み出す

2020年夏。JR 高輪ゲートウェイ駅にヘラルボニーの松田崇弥代表と、チーフ・クリエイティブ・オフィサーの佐々木春樹さんの姿があった。

傍らにはカラフルな絵が飾られている。この絵はターポリンという素材に印刷されたもの。駅前特設広場に設置された工事現場の仮囲いを彩っている。

設置期間終了後、絵を洗浄してトートバッグに加工するという。5種類、計10点の作品は〈るんびにい美術館〉(岩手県)に所属する作家の作品だ。

本来、仮囲いは工事完了とともに不要となって破棄される。この「仮囲いアートプロジェクト」では「街をアートで彩る」、「商品が誕生する」、「廃棄物を削減する」ということが実現できた。「仮囲いアートプロジェクト」は、価値が循環する新しいスタイルの「ミュージアム」といえるだろう。

ヘラルボニーと共に企画したJR 東日本スタートアップ株式会社の柴田裕代表取締役は「今、SDGs(持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)に対する各企業の関心が高まっている。廃棄されず新しいものに生まれ変わる仮囲いは、駅などの社会インフラとの相性が非常にいいと考えています。今後もお客様が喜ぶアートを展示したい」と期待を寄せる。

デザインするに当たり、佐々木さんは「商品を作る時点で終わりまでをイメージしている。これまではサステイナブル(持続可能)といわれていたが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が主流になるはず」という。佐々木さんたちが追い求めるデザインとは、一過性の流行で消費されるものではなく、息の長い商品だ。

展示作品が印刷されるターポリンとは、紫外線や雨風などに対して強度のある強い素材。1枚の絵から10点の商品が作れるという。絵を眺める人たちも楽しそうだ。「絵を鑑賞する」という行為に「作品を購入する」という楽しみも追加された。この展示を見てバッグを買った人は、バッグを褒めてもらう度にこの体験を語って聞かせるだろう。

作品の価値を高める役割

 松田さんには忘れられない思い出がある。

「ある所で障害者が作った革製品を見つけました。値段を聞くと500円。5時間かけて作ったそうです」。しっかりした作りなのに、なぜ安価で売るのだろうか。

これほど極端な例はともかく、障害者が作った商品の相場は概ね安い。松田さんはプロデュースする側に原因があるのかもしれないと考えた。障害のあるなしに関わらず、作品に対して適正な評価を下す人がいなければ、価値は生まれない。作家の個性や作風、商品特性などを丁寧に伝えることができれば、極端に安価で売ることもなくなるだろう。消費者は作品や商品に対して適正な評価をしてくれるはずだ。

ヘラルボニーの商品は比較的高額商品が多い。作りや素材にこだわり、百貨店に並んでも他の商品と堂々と渡り合う。値段に見合った素晴らしい商品だ。

  品質同様に作家の存在も大切にしている。それは商品名に表れている。商品名には「Kiyoshi Yaegashi」というように、作家名がつけられる。商品を買う人はデザインに惹かれて購入する人が多いだろう。しかし、商品名についた作家名を覚えると、次から「八重樫さんの新作」と、作家のファンになっていく。ヘラルボニーから生まれる商品は、名もなき商品に陥ることはない。

「障害のある方のアートを使ったというと、“ 慈善活動というバイアスがかかる場合がある。だから、作家である『八重樫さんの作品を使った商品』という文脈にすることを意識している。あくまでもアーティストが主役です。アートを描いた人の気持ちになり、オリジナル作品が一番映えるように制作している」と、デザインを担当する佐々木さんはいう。

作品のトリミング(部分を切り取ること)にも細心の注意を払うそうだ。「作家とコラボレーションをしている気持ちでいます。作家の意思を汲み取らないと、商品ができても作家に喜んでもらえないと思う。購入者の幸せと、作品を描いた作家の意思を大切に考える。僕がその両者のブリッジ(橋渡し)になり、いかにいい商品を届けるか。そこを常に考えています」

松田さんには翔太さんという自閉症の兄がいる。その兄の存在がヘラルボニーの原点だ。

「地元(岩手)の友人にヘラルボニーの話をしても、障害やアートは『俺には関係ない』という感じがある。でも、そんな彼らもイッセイ ミヤケやコム・デ・ギャルソンを着る。それがブランドの力なんだと思う。今後も僕たちは福祉やアートの世界で生きていく。それを商品や街に落とし込むことで、障害のある人との出会いを作っていくことが、多様性が浸透していく近道なのではないかと思います」

物語をたくさんの人と紡いでいく

ヘラルボニーの本社は岩手県の花巻市にある。この地で育った松田さんは「アートなんてまったく興味がなかった」と当時を振り返る。ある時、母親に「素晴らしい美術館がある」と〈るんびにい美術館〉を教えられ、そこで初めて障害のある人のアートに触れた。併設のアトリエで作品制作を目の当たりにする。日本中にこのような施設があり、アートは毎日生まれている。このカラフルな個性をもっと世の中に知ってもらいたい。その日の衝撃は、双子の兄である文登さんと共にヘラルボニーを設立するまでとなった。社名は長男・翔太さんがノートに書いていた言葉を使った。

〈るんびにい美術館〉のアートディレクター板垣崇志さんは、松田さんがやって来た日のことを覚えている。作品を使用して、商品開発をしたいという。「矢も盾もたまらずやって来たような、そんな印象を受けました。けれど、彼にはプロジェクトを成し遂げる覚悟や決意があった。企画書は未完成だったのですが、なにをやるかは明確に彼に見えている気がしました」。

当初、板垣さんは所属作家の作品を印刷して、グッズ販売をするのだと思っていた。しかし、松田さんのプランは細部にこだわり、微妙な色や細部を織りで再現するという。経験のない彼に可能だろうか。いくつかの工場で製造を断られたが、高品質のネクタイを製造・販売することで定評のある銀座田屋の工房で制作ができることになった。

数カ月後、できあがったネクタイを見て板垣さんは唸った。それは美しく、かすれやタッチまで表現した上質のネクタイだった。「松田さんは妥協をしない。限界まで追求する」と、板垣さんは品質を高く評価する。板垣さんには一つ譲れない思いがあった。「対話」だ。アトリエで制作する作家との対話を大切にしてほしいと告げていた。

「センセーショナルに作家を売り出してほしくない。虚像が先行すると本人と違うものが、まるでそうであるかのように届いてしまいます」

板垣さんの望み通り、ヘラルボニーが商品を作る際は、必ず作家とコミュニケーションを取っている。そして、誠実に作家の個性を伝える。それが板垣さんとの約束だ。

「彼らはビジネスでも存在感を増している。ヘラルボニーはロールモデルになると思う」と、今後に期待を寄せる。

商品の品質だけでなく、すべての工程において丁寧にものづくりをするヘラルボニー。彼らはこれからも作家と共にヘラルボニーの物語を作り続けていく。多くの人と関わり合いながら。

ヘラルボニー(コーポレートサイト)
http://www.heralbony.jp

HERALBONY(ブランドサイト)
http://www.heralbony.com

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