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(カテゴリー)コラム

ダイバーシティな「アニメーション」ガイドvol.6

(この記事について)

アニメーションは子どもから大人まで幅広い層が楽しめるカルチャーです。子どもの頃に見たアニメを見返してみると「あれ、こんな内容だったんだ」と気がつくこともあるでしょう。また、幼少期の感性に働きかける内容のアニメもあるかもしれません。アニメコラムニストでありアニメウォッチャーの小新井 涼さんに多様性を知るための3本のアニメを紹介していただきました。

(更新日)2021年03月18日

CREDIT

[文]  小新井 涼

[イラスト]  町田早季

多様性とアニメ

アニメでみられる多様性には、一体どんなものがあるでしょうか。
多様な文化や思想、人種といった現実と地続きのものから、中には多様な惑星社会から、異世界や異種族まで……。フィクションという前提があるからこそ、そこで描かれる多様性も無限に思えるかもしれません。

しかし一方で、全く逆に、アニメには多様性が無さすぎると感じる人も少なくないと思います。ロボットに乗るのは男の子、魔法使いになるのは女の子。主人公一家は、大抵が血縁関係のある両親と子ども、時々祖父母が揃って同じ家に住んでいる。青春ものといえば甘酸っぱい恋愛やキラキラした学園生活が描かれるもの……などなど。なるべく多くの視聴者が感情移入できるようにと、時には沢山の選択肢から最大公約数を選ばざるを得ず、そうしたある種の固定観念が生まれてしまうこともあるからです。

フィクションだからこそ無限にも思えるけれど、実際に描かれる世界は、視聴者や制作者、作品が生まれる社会や時代の色に大きく影響され、時に制限もされる。アニメでみられる多様性とは、そうして人々の価値観の変化によって、狭められれば広げられたりもする、“現実世界の映し鏡”のようなものでもあると、私は思います。

では現在、アニメの多様性に影響を与える現実世界は、どうなっているでしょう。
新型コロナウィルスの影響で依然海外渡航は難しいものの、通信技術の発達によって、地球上の様々な地域の文化や思想、宗教や言語に触れることは益々容易になってきています。それが原因で衝突することもありますが、そうして新しいものの見方に触れることで、私たちを取り巻くあらゆる物事の価値観も驚く程急速に変化し、多様化してきているのを感じている人は多いはずです。

そしてそれに伴ってか、“現実世界の映し鏡”でもあるアニメの多様性にも、ここ10年程で新しいものの見方や様々な価値観が取り入れられた作品が続々と生まれてきました。
今回はその中から、「ジェンダー」「家族」「青春」それぞれの多様性を知ることができるアニメを、3本紹介します。


ミュークルドリーミー

ハローキティでお馴染みの“サンリオ”発のキャラクター『ミュークルドリーミー』を原作とした本作。主人公の女の子が、ある日突然、お空の上から落ちてきた“こねこのぬいぐるみ”とパートナーになり、夢のかけら“ドリーミーストーン”を集めることになる……という、ファンタジーアニメです。

ぱっと見は「休日朝の小さな女の子向け作品」ですが、本作が興味深いのは、これまでそうしたジャンルではあまり見られなかった「ジェンダー」の描かれ方がされているところ。特に印象的なのが、ぬいぐるみとパートナーになり、主人公たちとドリーミーストーンを集める仲間のひとりに、主人公の幼馴染の男の子が加わることです。

これまでこうしたジャンルの作品では、“不思議な力を手に入れるメインキャラは大抵が女の子”でした。しかしその幼馴染の男の子は、決して蚊帳の外に置かれるでもなく、サポート役に徹するでもなく、自らもメンバーの一員として、主人公たちと共に活躍するのです。

他にも、好きな子のため作中いち健気に身体を張っていたり、お菓子を手作りしたり、エンディングダンスのメンバーにも加わったり……。幼馴染の彼の描写は、「そういえばこれまでそのポジションで男の子が描かれることってなかったな」ということを随所で気づかせてくれます。

子ども向けアニメは、その分かりやすさゆえに、時として“男の子はこういうもの、女のt子はこういうもの”という偏った価値観を作りかねないと思っている人も多いかもしれません。ですが、近年だと他にも『リルリルフェアリル』(主人公妖精のバディが男の子)や『プリパラ』(女子アイドルの世界で活動する男の子がいる)、『HUGっと!プリキュア』(男の子もプリキュアになれるお話がある)などでもみられるように、むしろ現代の価値観を持った子どもたちが見るからこそ、いち早く多様なジェンダーの描き方を取り入れ始めているのは、こうした子ども向け作品からであるように感じます。

ミュークルドリーミー


スティーブン・ユニバース(Steven Universe)

“ジェム”という宝石型の生命体と、人間との間に生まれた主人公・スティーブンが、家族や友だち、街の人々と共に世界を救うマジカル・コメディの本作。冒険やバトル、笑いや感動、素敵な楽曲や魅力的なキャラクターたちの活躍が基本的に1話完結で描かれつつ、作品全体の壮大な物語が、長いシリーズをかけて徐々に明かされていくという超大作カートゥーンとなっています。

“愛”の描かれ方や、“対話”による歩み寄りなど、本作にはフィーチャーしたいことが沢山あるのですが、今回特に注目したいのは「家族」の描かれ方です。母のいない家族、異父兄弟とかつての父と今の父、娘に干渉しすぎてしまう母親、忙しすぎて家族であることを忘れてしまった家族など……本作には本当に様々な家族が登場します。

そうした家族のどれもが、決して“特殊”なものとして描かれないのもポイントです。主人公のスティーブンも、血の繋がらない家族と共に暮らしていますが、それがおかしいことだとか、可哀想なことだとか言って、非難したり同情する人はいません。これがその人たちのあり方なんだと自然に受け入れて接するその登場人物あっちのスタンスは、家族の形は違っていて当然で、そこに“普通”や“特別”はないことに気づかせてくれます。

他にも、違う境遇や違う価値観を持つ分かり合えない相手とも、対話を重ねて歩み寄り、徐々に家族になっていく過程が描かれていたり……。こうした数々の描写を通して、家族になるため・家族であるために大事なのは、血縁関係や体裁だけじゃないということを、そっと教えてくれる作品です。

スティーブン・ユニバース

星合の空

本作は、廃部寸前の男子中学ソフトテニス部を舞台に、様々な事情を抱えた子どもたちが、学校や家庭のしがらみの中、悩み葛藤しながらも日々を過ごす姿を描いた青春ストーリーです。

最初はやる気のなかった部員たちが、徐々にひとつの目標に向かって結束する姿や、息を呑む試合展開という、まさしく青春な熱い一面も見どころのひとつ。ですが、本作の興味深いところは、そんな眩しい「青春」を、少し違った角度からも描いているところです。

例えば男子ソフトテニス部の生徒それぞれの境遇だけでも、離別した父親の恐喝に悩まされる子、モンスターペアレントの過干渉に追い詰められてしまう子、養子の子や再婚家庭、DV……など。青春モノで扱うには重すぎるのでは? と驚きつつも、しかしその時期の子どもたちに起こり得る出来事として、単なるフィクションとは片づけられない生々しい問題が描かれています。

他にも、ヒロインポジションというよりは男子ソフトテニス部のいち仲間として描かれる女子生徒がいたり、家庭の事情で祖母・母・自分“それぞれから呼ばれる名前が違う”子がいたり、自らの性に悩む子がいたり……。従来の青春モノではあまり描かれなかったものの、その時期の子どもたちがどこかしらで強く共感できる部分がありそうな、多様なパーソナリティを持つ登場人物も沢山登場します。

青春と聞くと、眩しくてキラキラしていて、趣味に恋愛に勉強に一生懸命! というイメージも勿論強いです。ですが実際に過ごしている身にとっては、辛いこともままならないことも多くて、閉塞感の中で必死に生きている時期でもあったり、悩みやパーソナリティも一辺倒ではなかったりもします。本作はそんな「青春」の、もうひとつの顔をみせてくれる作品なのです。

星合の空 -ほしあいのそら-

アニメが様々な価値観や考え方を教えてくれる

こうしてアニメでは様々な多様性が描かれていますが、それらは作品のメインテーマというよりは、あくまでひとつのエッセンスとして、物語に散りばめられているのもポイントだと思います。

「こういう見方もあるんです!」と、強く主張してくるのではなく、「こんな価値観や考え方もあるのか」と、見ている人が自主的に発見していけるような。そんな新しい価値観と出合い、みつける楽しさがあるのが、アニメで多様性を知れることの面白さだと私は思います。


PROFILE関連人物

小新井 涼

(英語表記)KOARAI Ryo

(小新井 涼さんのプロフィール)

アニメコラムニスト、アニメメディアプランナー、アニメウォッチャー。まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活躍。

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