ストーリー
【写真】大好きな水玉のワンピースでカメラを見て微笑む山田恵子さん

(カテゴリー)アーティスト

山田恵子

クレジット

[写真]  中村紀世志

[文]  小野好美

読了まで約4分

(更新日)2023年02月24日

(この記事について)

動物や植物の伸びやかでありながら細かな表現、華やかでカラフルな色使い、水玉やストライプの模様。人への想いを原動力に、「好き」と「得意」をぐんぐん伸ばして開花する、山田恵子さんの多彩な表現活動。

本文

【絵】オレンジの同系色でストライプ状に色を塗り分けられているオウム

《森の中の、オウムたち》/水性ペン、コピック、紙/380×540mm/2021年

【絵】鮮やかな暖色で彩られたフラミンゴと寒色で彩られた水面や植物がコントラストを成している

《林の奥の方の、植物の回りにいるフラミンゴ》/水性ペン、水性顔料ペン、紙/380×540mm/2021年

おしゃべりしながらも、細かに旺盛に、カラフルに、作品は立ち上がっていく

福岡県福岡市の〈工房まる〉多賀のアトリエで活動する山田恵子さんは、人と話したり、コーヒーを淹れてもてなしたり、とにかく人と関わることが好きな女性だ。

山田さんの制作過程でも、作品モチーフを工房スタッフと話しながら決めることが多い。モチーフに動物を選んだときは、動画を見てその動物の生態への理解を深めることもあるのだとスタッフの武田楽(らく)さんが教えてくれた。

【写真】

〈工房まる〉で製作に取り組む山田恵子さん

「孔雀ってどんな声で鳴くんだろう?」
「意外と怖い声だった」
「イロブダイって、歯がすごく丈夫で、サンゴを食べるんだって」
「豚足も食べるかいな?」

そんな会話をしながら賑やかに楽しく、山田さんのイメージは膨らんでいく。それから複数の写真を組み合わせて画面を構成し、作品を形作っていく。

【絵】木の枝に座ったり、葉っぱの間から顔をのぞかせたりするチンパンジー

《ジャングルの中にいるチンパンジー達》/水性ペン、紙/540×380mm/2013年

たくさんの動物が映り込んだ写真を見て描くときは、重なり合った動物の形に苦戦する。2010年に山田さんが〈工房まる〉を利用し始めたときから見守ってきた池永健介さんはこう話す。

「重なりを表現するのに、どうしても線のうえに混乱が生まれる。でも山田さん自身は常に意欲的で、描き抜く力がある。だからこそ結果的におもしろい線になるんですよね」

【絵】重なり合うようにペンギンが描かれたモノクロの絵画。スタッフがペンだけで描くことを提案して生まれた

《北極ペンギン》/ポスカ、水彩ペン、紙/540×380mm/2011年

混乱を生み出しながらも、山田さんは形に折り合いを付けていく。辻褄が合わない、ユニークで歪んだフォルムの動物がかえって魅力を放つ。密な描き込みと余白の対比が、大胆なリズムを生む。

【絵】中央にライオンが大きく、余白に桜の花びらや樹木が描かれたモノクロの絵。動物の躍動的な輪郭と規則的な模様のコントラストが今の作風につながっていく

《桜の世界のライオン》/筆ペン、紙/540×380mm/2012年

【絵】たくさんのハクガンが描かれたモノクロの絵。緻密な書き込みと余白がつくるリズムに引き込まれる

《ハクガン》/水性ペン、紙/540×380mm/2011年

【絵】カマキリ、蝶、テントウムシ、カタツムリなど、たくさんの種類の昆虫がカラフルに描かれる。中学時代に通っていた絵画教室でも昆虫を描くことがあった、と山田さん

《菜の花畑にいる虫達》/スポイトインク、ペン、紙/380×270mm/2012年

 

〈工房まる〉に通い始めた頃の山田さんは、クレヨンを使って人物を描くことが多かった。中学時代に絵画教室に通っていたこともあり、もともと絵を描くことは好きだった。

山田さんの絵の伸びやかなフォルムに着目した池永さんらスタッフは、その線が潰れてしまわないよう、発色のいいマーカー「コピック」や水彩絵の具での着彩を勧めた。そこから山田さんの絵は、動植物のモチーフを水玉やストライプの模様や個性的な線でカラフルに描きあげる現在のスタイルにたどり着いた。

【絵】金魚が水草などが、水玉やストライプなどを用いてカラフルに描かれている。山田さんの現在の代表的な要素が詰め込まれている

《アクアリウム展の、金魚達》/コピック、ペン、紙/540×380mm/2021年

「山田さんは褒められると羽ばたく、素直な方。自分の表現を獲得しながら、《孔雀オンパレード》を描き上げたあたりで、山田さんの個展をしようとスタッフみんなで話しました。描いている山田さん自身の気持ちがのっているな、と感じたんです」

池永さんは作品を収めたファイルを開きながら、そう話す。

【絵】6枚ほどの孔雀の写真をモデルに構成したカラフルな孔雀の作品

《孔雀オンパレード》/耐水性ペン、コピック、紙/540×380mm/2021年

 

2021年に福岡市のギャラリーで初の個展が実現。山田さん自身は、毎日いろいろな人が作品を見に足を運んでくれるのがとにかくうれしかったという。

【絵】ファッション誌を参考にした作品のシリーズ。片手を挙げる女性がモデル

《まわりの景色を眺めている女性》/水彩絵の具、ペン、紙/380×279mm/2011年

【絵】ファッション誌を参考にした作品のシリーズ。帽子を被った女性がモデル

《外でエアロビックをしている女性》/水性絵の具、ペン、紙/270×380mm/2011年

【絵】ファッション誌を参考にした作品のシリーズ。ハイヒールの女性がモデル

《エアロビックスをしている女性》/水彩絵の具、ペン、紙/270×380mm/2011年

【絵】ファッション誌を参考にした作品のシリーズ。横向きに座っている女性がモデル

《カベに足をおいてストレッチしている女性》/水性絵の具、ペン、紙/270×380mm/2011年

【絵】ファッション誌を参考にした作品のシリーズ。立ったまま足を組む女性がモデル

《横になって自然をイメージしている女性》/水性絵の具、ペン、紙/270×380mm/2011年

【絵】工房の仲間をモチーフにしたシリーズ。「石井さん」の全身が描かれ、周囲には色とりどりの花

《オランダの世界にいる石井さん》/色鉛筆、水性ペン、紙/270×380mm/2012年

【絵】工房の仲間をモチーフにしたシリーズ。「仁井さん」のまわりには国旗と花が描かれている。

《国旗の世界にいる仁井さん》/色鉛筆、水性ペン、紙/270×380mm/2012年

【絵】工房の仲間をモチーフにしたシリーズ。「大樹君」の洋服や周辺の花や鳥が融合し、ひとつの世界を成している

《鳥にえさをやっている大樹君》/色鉛筆、水性ペン、紙/270×380mm/2012年

【絵】工房の仲間をモチーフにしたシリーズ。「歩君」の周囲に妖怪や花、洋服には目玉おやじが描かれる

《ゲゲゲの鬼太郎の歩君》/色鉛筆、水性ペン、紙/270×380mm/2012年

【絵】ミニマムな線で描かれた三頭の鹿

《鹿》/水性ペン、紙/380×270mm/2011年

【絵】ユーモラスなフォルムと表情のゴリラとチンパンジー

右《ゴリラ》/水性ペン、紙/270×380mm/2011年
左《チンパンジー》/水性ペン、紙/270×380mm/2011年

【絵】木の枝あるいはロープを渡るオランウータン

《オラウンタン》/水性ペン、紙/270×380mm/2011年

 


人が好きだから、失敗してもまたがんばれる

取材の日に山田さんが描いていたのは、バラだった。モデルは、山田さん自身が携帯電話のカメラで撮影した花の写真で、色はピンク一色。けれども描かれた花は、ピンクに加えて水色、黄色、朱色、青。そして花弁には細かな水玉やストライプと、山田さんのセンスが爆発している。

【写真】作品の細かな部分に絵の具の色を載せていく山田さんの手元の様子

ピンク一色の薔薇が、山田さんの世界ではこんなにカラフルでポップになる

「もとは一色だけど、それじゃいかんね、カラフルにした方がもっときれいだなぁと思うんです。この絵を見てくれる人にも、きれいないろんな色があっていいと言われたい。私はカラフルなのと水玉が大好きなんです」

絵の具を重ねるうち、輪郭線が消えてしまうことがある。山田さんは着彩後に改めて線をなぞる。こうした繊細な工程を経て、だいたい1か月で4つ切りや8つ切りサイズの作品が完成する。

【写真】

パレットに規則正しく出された絵の具も、よく見れば山田さんの好きな水玉になっていた

【写真】

たくさんある絵の具は混ぜないでそのまま使うことが多い

 

山田さんは工房の部活でコンテンポラリーダンスに励み、2022年夏には福岡アジア美術館で上演される舞台にも出演。取材をしたのは本番を前に、練習に励んでいたときだった。舞台では演技、歌、ファッションショーと多彩な表現をする予定だと山田さんは教えてくれた。

【写真】

山田さんの机の前。取材時、山田さんは出演する舞台『あのさぁ(仮)』の本番を1か月後に控えていた

舞台出演を叶えるために、山田さんは何度もオーディションに挑戦。繰り返し挑戦する強さはどこから来るのかを尋ねた。

「自分が落ち込むと、周りの人も暗い雰囲気になってしまう。だからその人たちのためにも次はがんばるぞ、と思うんです」

山田さんの表現を生む原動力は、どうしたって人とつながりたい強い思いとホスピタリティなのだ。

【写真】

絵画にコンテンポラリーダンス、歌に舞台出演と幅広い表現方法を持つ山田さん。次の絵画作品のモチーフを尋ねると「イルカが描きたいです」と教えてくれた

【写真】

〈工房まる〉のスタッフ武田楽さんと池永健介さん

(埋め込みコンテンツについて) 山田さんの製作風景

(埋め込みコンテンツの説明) 【You Tube動画】


関連人物

山田恵子

(英語表記)YAMADA Keiko

(山田恵子さんのプロフィール)
1986年生まれ。福岡県福岡市在住。2010年から〈工房まる〉での活動をスタート。多賀のアトリエにて絵画制作を行っている。エイブルアート・カンパニーアーティスト。2021年 第4回 日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展佳作。2021年、初個展となる『おしゃべりと静寂』を福岡市中央区のギャルリドアッシュにて開催。
(山田恵子さんの関連サイト)