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中牟田 健児

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(カテゴリー)アーティスト

中牟田 健児

クレジット

[写真]  植本一子

[文]  倉石綾子

読了まで約3分

(更新日)2018年08月24日

(この記事について)

アーティストの心もようを写すかのように、刻々と移り変わるタッチ、モチーフ、色、画材。「感じたものを、感じたままに描く」作家の素顔とは。

本文

なかむたさんが、がようしにきいろいクレヨンでえをかいているようすのしゃしん。

変幻自在のタッチ

幼い頃から絵が好きで、学生時代には水彩画を習っていたという中牟田健児さん。高校卒業後に入所した作業所では製菓の計量などを担当していたそうで、しばらく創作活動から遠ざかっていたが、家族の「自分のやりたいことをやってほしい」という想いもあり、2007年に〈工房まる〉に入所。再び絵筆を取ることになった。家族が大事に見守ってきたという才能が、ここで開花する。

なかむたさんのさくひんしゃしん。

〈工房まる〉では1500点を超える作品を保管しているが、そのタッチは実に幅広い。チャコペンを使った、スミ一色の写実的な作品。中牟田さんの年齢からして小学生の時に愛読したであろう、「キャプテン翼」や「キン肉マン」といった漫画を彷彿とさせる、躍動感のある人物を描いた作品。水彩絵の具を使って描いた作品は、どこかユーモラスなタッチに。一方、まるで水彩絵の具のように色を重ねて陰影を強調する色鉛筆の作品は、どこまでも叙情的だ。義手で絵を描く画家・詩人の大野勝彦さんの作品を家族で鑑賞しに行った際は、大野さんの作風に大きな影響を受け、文字の入った作品をしたためるようになった。こうした変幻自在のタッチと才能は、〈工房まる〉で絵を描くメンバーたちからも一目置かれているほどである。

〈工房まる〉で保管している中牟田さんの作品ファイルは40冊以上。


理想の一枚を求めて

中牟田さんの作品のもう一つの特徴は、ユニークな作品名。『ぴゅる』『たみは』『ひだりせせ』……。言葉そのものに意味はなさそうだが、読み上げると語感がなんだか気持ちいい。こうしたタイトルを、文字盤を使いスタッフに淀みなく伝える。「どういう意味なんでしょう?」と中牟田さんに問うと、にやっと笑う。「作品自体よりも、タイトルの方が頭に残っているものもある。こういう言葉の組み方にも独特のセンスがあるなあって思います」と、中牟田さんと付き合いの長いスタッフの池永健介さんが感心している。

10年ほど前、中牟田さんはメンバーやスタッフに「僕は、感じたものを、感じたままに描いていきたい」と話したことがあったそうだ。その言葉の通り、描くモチーフもタッチも、本人の日々の想いをたどるかのように刻々と変化していく。

例えばこんなことがあった。『かたつむりのおくりもの』という児童書の挿絵を頼まれた時のことだ。本の編集者はもともと、モノクロで描いた初期の動物作品を気に入って中牟田さんにオファーしたそうだが、その頃の中牟田さんは、水彩でシンメトリーな模様や文字が入った抽象画を描いていた。池永さんと一緒に本を読んだ中牟田さんは自分のイメージをまとめ、挿絵を描き下ろした。だが、何枚描いてもオーダーのタッチが出てこないまま締め切りだけが迫る。スタッフは編集者と相談し、結局、色をつけた水彩画で提出する方向となった。

中牟田さんが挿絵を手がけた、はやしさちよ著『かたつむりのおくりもの』(石風社、2009年)。

「締め切り間際の頃、本の著者がご挨拶にアトリエを訪ねてくれました。中牟田さんの作品を見てとても気に入ってくれ、感激されていました。僕たちスタッフは編集者からのオーダーに応えられないことに葛藤と不安を感じていたのですが、画家にとってはいま描きたいものを描きたいように描くことも大切なんです。オーダー通りのスタイルで描いてもらいたい気持ちもあるけれど、いま描いているタッチ、作風こそ、中牟田さんの『いま』であり変化なんだって、そこに気づけたことがとても大きかった」(池永さん)

最近ではクレヨンを使った抽象画が多いという。自らの理想の絵を追いかける求道者は、これからもいくつもの変遷を遂げ、ますます大きく羽ばたいていくのだろう。


関連人物

中牟田 健児

(英語表記)Kenji Nakamuta

(中牟田 健児さんのプロフィール)
1975年生まれ、福岡県在住。2007年に〈工房まる〉に入所して本格的な作家活動をスタートさせる。水彩絵の具、チャコペン、クレヨン、色鉛筆など多彩な画材を使い、これまでに1000点以上の作品をものしてきた。代表作に『かたつむりのおくりもの』(石風社、はやしさちよ著)など。
(中牟田 健児さんの関連サイト)