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(カテゴリー)ARTISTS

(タイトル)阿部美幸

(この記事について)

相合傘とチューリップ。この2つのモティーフがキャンバスにいくつも重ねられていく。その繊細で大胆なタッチは揺らぐ恋心を映し出しているのだろうか。

(更新日)2017年8月10日

CREDIT

[写真]  間部百合

[文]  石田エリ

相合傘に夢をのせて

すらっと背が高くて、細身で、ショートヘアとピンクのポロシャツがよく似合う。阿部美幸さんは、社会福祉法人みぬま福祉会が立ち上げたアトリエ〈工房集〉へ来るようになって絵を描きはじめた。もう15年になる。少し前までは機織りもしていたが、最近は絵だけに集中しているという。描くモティーフは、チューリップと相合傘。この2つだけ。ボールペンと色鉛筆、ときどきマジックや水彩絵の具を使って描くこともある。

「美幸さんは、どうして相合傘を描いているんですか?」と聞いてみた。
「えっと、好きなの」と、美幸さん。
初対面なのと、写真も撮られているので、少し緊張した空気感がある。
「相合傘の下には誰の名前を書くんですか?」と、さらに聞いてみた。
「書かないよ」と返ってきた。

「ほんとうは好きな人の名前が書いてあるんですよ」と、スタッフの方があとでこっそり教えてくれた。大好きなジャニーズのグループ「Sexy Zone」のメンバーの名前だったり、最近お気に入りのスタッフの名前が書かれることもある。それを、上から色鉛筆で塗りつぶしていく。筆圧強く、勢いよく。書かれた名前は、表面に残ることもあるし、その奥の世界へと封じ込められることもある。

美幸さんは、いつも誰かに恋をしている。恋をすると、あれこれ空想が止まらなくなるという経験は、誰にでもあるのではないだろうか。美幸さんの絵をじっと観てみる。その色彩、滲み、柔らかくか細く力強い線。塗りつぶされた向こう側には、美幸さんと私たち(観る側)それぞれの、ドキドキするような恋心が詰まっているのかもしれない。

美幸さんは、2013年から〈工房集〉と同じ法人のグループホームで生活をしているそうだ。休みの日には、スタッフと一緒に原宿のジャニーズ・グッズのお店へ買い物に出かけたり、この日も午前中は東京のギャラリーに、ある展覧会を観に行っていたと聞いた。2011年、浅草橋にある〈マキイマサルファインアーツ〉での展覧会「ガールズミーティング」の出展作家に選ばれ、作家デビューを果たして以来、徐々に展覧会に出展する機会も増えてきた。

近しいスタッフには、「絵を描くと落ち着くよ」「絵を描くことは夢です」と、いつも話をしているという。その夢は、この先どんな風に膨らみ、描かれていくだろうか。


PROFILE関連人物

阿部美幸さんの顔写真

阿部美幸

(英語表記)Miyuki Abe

(阿部美幸さんのプロフィール)

1981年生まれ。1999年より、社会福祉法人みぬま福祉会「川口太陽の家」に所属。2002年より同法人が運営するアトリエ「川口太陽の家・工房集」にて、絵を描くようになる。この年から、工房集に併設されたギャラリーにて作品を展示するようになり、2011年、浅草橋にある〈マキイマサルファインアーツ〉での展覧会「ガールズミーティング」の出展作家に選ばれる。以降、高知市市民ギャラリーで開催された「アートと暮らし」展に出展、アーツ千代田3331にて開催される「ポコラート全国公募展Vol.4」に入選するなど、作家としての活動を続けている。

(阿部美幸さんの関連サイト)

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