ストーリー

(カテゴリー)インタビュー

一緒に遊ぶ、からはじまること――
対談NAOYA(ePARA)×なむ(ゲームさんぽ)

目次

【写真】ゲームさんぽのなむさんと、ePAPA(イーパラ)所属・全盲のアスリートのNAOYAさんが笑顔で、一緒にゲームをしている。なむさんの顔はイラストで表現され、目隠しがついている。

(カテゴリー)インタビュー

一緒に遊ぶ、からはじまること――
対談NAOYA(ePARA)×なむ(ゲームさんぽ)

ゲーム? わたしたちは隣にいる人とどうしたら一緒に遊べるだろう

クレジット

読了まで約18分

(更新日)2024年02月06日

(この記事について)

2023年10月、ePARA(イーパラ)とJR東日本スタートアップが主催となり、視覚情報に頼らないeスポーツ選手と一般参加者による格闘ゲームの交流会「心眼PARTY」が開催された。そこでストリートファイター6(以下、スト6)の対戦を行った全盲のプレイヤーNAOYAさんとゲームさんぽのなむさんが、当日のファイトを振り返りつつ、ゲームがつなぐ「あいだ」を語る本対談。ePARA代表の加藤大貴さんが立会人となり、アクセシビリティ、コミュニティとしてのあり方、他者の視点を知る実践など、いろんな方向へと広がりを見せた。

本文

【写真】ストリートファイター6の対戦画面を前に、ePAPA(イーパラ)所属アスリートのNAOYAさんとゲームさんぽのなむさんがプレイしている。NAOYAさんが左手に、なむさんが右手に座っている。

スト6のサウンドアクセシビリティ

なむ

NAOYAさん、こんにちは。先日ボコボコにされた、なむです(笑)。覚えてますか?

NAOYA

もちろんです(笑)。

なむ

隙あらば波動拳を撃ち合う、楽しい時間でした。松戸で開催された「心眼PARTY1)」に参加して、ePARAがサウンドアクセシビリティ機能2)の制作協力を行った話題のスト6を体験したわけですが、オーディエンス含めすごい熱気でしたね。視覚障害のある人もない人もフラットに参加できる仕組みがあり、ポスターの文章ひとつとってもその姿勢が徹底されていました。

加藤

NAOYAさん、めちゃくちゃ嬉しいですね。試行錯誤の甲斐があったなぁ。

NAOYA

そうですね。昨年はじめて「心眼CUP」という視覚障害のあるプレイヤーの個人&団体戦を行ったんですが、そのときの反省を生かしました。今回は心眼“PARTY”として、いろんな人が競い合ったり、交流したりできる場を目指していたので、なむさんの感想は素直に嬉しい。

1)心眼PARTY:2023年10月に千葉・松戸で開催された、ePARAとJR東日本スタートアップによるスト6対戦交流イベント。事前に一般参加者を公募し、当日は団体戦のほか、ブラインドゲームの体験会も。

2)サウンドアクセシビリティ機能:カプコンから2023年6月に発売された対戦型格闘ゲーム「ストリートファイター6」に実装された機能。この機能の制作にePARAメンバーが協力した。海外の学生からの手紙で前・後ジャンプの聞き分けに関する意見を受け、カプコンが開発を検討したのがきっかけ。全盲のプレイヤーだけでなく、身体障害のあるハードユーザーのJeniさんも参加し、音情報のアイデア出しを行った。

【写真】ストリートファイター6の対戦画面。画面左端にケンというキャラクターが、画面右端にリュウというキャラクターが立っている。
【写真】ストリートファイター6の対戦画面。画面左端にいたケンと、画面右端にいたリュウの両者が中央に移動し、距離が近づくことで、ゲームの音が高くなる様子を、線のイラストで示している。

サウンドアクセシビリティを設定すると、対戦中にシグナル音が発生し、相手との距離が近づくほど音は高くなる。また、ジャンプして相手を飛び越え、立ち位置が入れ替わった際には、音色自体が変化する

なむ

実際に音を手がかりにプレイしてみると、操作が難しくて練習が必要ですね。ただ、新しいゲームを獲得したかのような、脳みそと身体の回路がひらかれる体験だったので、これは障害のある人のためだけの機能ではなく、新たなゲームとして発達していく可能性も感じました。NAOYAさんはどうやって音の聞き分けを?

NAOYA

技のリーチについては、もともと僕が音楽をやっていたこともあって、相手との距離を知らせるアクセシビリティ機能の音階でわかるんですよ。「今はファの音で、ソの音に変わった」とか。その変化でタイミングをとっています。

なむ

すごい。それは、みんな音階で理解してるわけではなく、NAOYAさん独自の認識?

NAOYA

そうだと思いますが、音階がわかっている人は、それでやっていると思いますね。

なむ

なるほど。それぞれの覚え方、認識、プレイスタイルがあるんですね。NAOYAさんからすると、音階が豊かなほどやりやすい?

NAOYA

豊かさというより、情報提示のひとつという認識ですかね。ほかにあるとしたら、音量、左右、もしくは音色とか。

なむ

一方で、今回参加された真(ま)しろ選手は、ドライブインパクトという技がかっこいいという理由で連発していました(笑)。

NAOYA

まあ、真しろさんがルークというキャラクターを使っているのは、推しの声優さんが担当しているからなので(笑)。

なむ

ああいうプレイスタイルも、観戦している側からすると魅力的だったりしますよね。

【写真】真しろさんがコントローラーを高い位置に構えて、操作をしている。右端に対戦画面が写っている。

ルーク使い・真しろさんのプレイ中の様子。コントローラーを高い位置に構えて、勢いよく操作する姿が印象的

【写真】会場のジェクサー・eスポーツ ステーションJR松戸駅店内の様子。ゲーミングチェアがずらりと並ぶなかで、赤いアイマスクをつけたプレイヤーと、青いアイマスクを付けたプレイヤーがゲームをプレイしている。

心眼PARTY団体戦の様子。3人1組×3チームが先鋒・中堅・大将の順に対戦。すべての人がアイマスクを装着してプレイする。チームマネージャーを務めたJR松戸駅の駅員も真剣な表情で見守る

【写真】心眼PARTYの団体戦を楽しそうな表情で見守る観客3名。中央の観客は驚いた様子で、頭を抱えている。

音を頼りに的確な解説を飛ばすNAOYAさんによる生実況で、観戦スペースも大盛り上がり。「観戦の可能性って今後も広がりそう」となむさん

ゲームの試行が現実を変える?

NAOYA

なむさんは、なぜ「ゲームさんぽ3)」を?

なむ

ほかの人の視点や価値観を知りたかったというのが大きいですね。最初にアップしたのは、当時3歳だった僕の子どもとゲームさんぽをした動画。扱うキャラの視点で銃を使って敵を倒すFPSというジャンルのゲームでしたが、子どもとまわると、フィールドにある滑り台やアイスクリームの絵に反応してまったく戦闘をしない(笑)。自分は2年間そのマップで戦ってきたのに、絵があることさえ知らなかったんです。我が子とはいえ他者の視点を通して見たとき、新しくものを知ることができるというのが面白いなぁと。

加藤

今の話でどうしても一言(笑)。ePARAの部活4)でDiscord上に集まっていろんなゲームをするんですが、たとえばNAOYAさんとかと「フォートナイト」をプレイすると、「こんなところにアイテムがあって、そんな音がするんだ!」みたいな驚きがある。それと似ているなと思って。

なむ

まさに。その驚きって「人はみんな違う」と知ること。その違いが人を人たらしめるし、人はその違いが好きで、だからこそコミュニケーションするのだと思います。異なるということを知った人たちがつくる社会は、きっと面白い、多様な社会になる。だから僕はゲームさんぽをやっているわけです。あとゲームをコミュニケーション技術の集大成だと考えていて。

NAOYA

それはどのあたりに感じます?

なむ

たとえば、オンラインで200人くらい集まって、この指止まれみたいなことや、大きな岩を持ち上げることもできちゃいますよね。現実だと難しいことでもゲームのなかだと仮想的、模擬的な社会として実践できる。そこで得た知見が、現実にも良いかたちでどんどん実装されていくんだろうなと想像しています。

NAOYA

僕の感覚だと、どちらかというとゲームは娯楽で、軽視されがちなところもあって、ほかの分野と比べて遅い。すでにWebアクセシビリティのガイドラインがJIS規格として存在し、点字ブロックの規格も整備されている。一方、ゲームアクセシビリティは、最近やっとマイクロソフトがガイドラインを出したくらい。これから発展していくだろうとは思いつつ、視覚障害のある人に限っては「ゲームができる」こと自体、今まで知られていなかった現実がある。

なむ

「ゲームは遅い」というのもすごく理解できて、僕らは最近になってやっとアクセシビリティを理解しはじめた。NAOYAさんはゲーマーとしてイライラしっぱなしだったと思うんです。「なんなんだよ!」って。そのずれが確実にある。

3)ゲームさんぽ 2017年にYouTube上ではじまったゲーム実況の活動。さまざまな分野の専門家をゲストに迎え、雑談をしながら多様な視点を共有する。現在、ゲームさんぽのつくり方をひらき、誰もが実践できるよう、コミュニティ化を進めている。

4)ePARAの部活 所属アスリートが毎週水曜日の夜に、オンラインのコミュニケーションツールであるDiscord上に集まり、ゲームで遊ぶ活動。大会前は練習的な内容になるが、普段はプレイヤー同士のコミュニケーションの場にもなっている。

【写真】スト6体験会の様子。水色のユニフォームを着たePARAの実里さんが体験者の隣りに座って、やり方を教えながら、一緒にプレイをしている。

スト6体験会の様子。参加者と対戦しつつ、アクセシビリティ機能を説明するePARAの実里さん。「スト5のときよりも近距離でしか使えない投げ技の空振りが減った」と語る

【写真】カスタムされた黒いアーケードコントローラー。黒いスティックと、赤・青・黄・緑のボタンが配置されている。

アーケードコントローラーのボタンの色やスティックをカスタムして使っている参加者も

公平性を保つには

NAOYA

僕自身、画面が見えないからこその、個人的工夫がたくさんあって。メニュー画面で希望の設定項目に行き着くために、たとえば、「下矢印を3回押して決定ボタン」みたいなのを記憶しておくとか。あるいは身体に障害のある人であれば、自分専用のコントローラーをつくるとか。ゲームアクセシビリティの周知や向上に関して、個人レベルでやっている工夫を集約したり、発信したりするところから、はじめていく必要があるなと思います。

なむ

スト6をプレイしてみて、現時点ですでに追加したい機能とかってありますか?

NAOYA

現状では、相手がガードしているのかどうか音では判断できないんですね。僕、ちょっと前までガードって見てもわからないものだと思い込んでいて。とりあえず攻撃したらガードされたから崩しにいかなきゃと思っていたら、目が見えている人はガードのモーションがちゃんと見えているということを後で知って。それなら、俺にもガードのモーション情報ほしいぞと(笑)。

なむ

うわぁ、それめちゃくちゃ面白い話。アクセシビリティが今後どう発展していくかを考えたら、いろんな人が自分の特性に合った環境を自ら設定できる、つくれるというのがひとつの到達点。同時に、ゲームが公平であるかどうかが大事だなと。ある機能を入れたことで、ゲームバランスが崩れることもありえる話ですよね。さきほどの話もそうですが、その逆もしかりで、そりゃあ音をつけてほしい。

加藤

公平性の話、悩ましいところもあって、たとえば身体障害の方もプレイできるよう「マウス使用可」とすると現状だと有利になりすぎてしまうゲームもある。公平性は大会や参加者ごとに異なるものなのかもしれません。

なむ

スポーツ分野だと、義足の方の100m走がどんどん速くなっていて、義足をつけていない人を追い越してしまうと、スポーツってどうなるの?という議論もある。個人だけでなく、プラットフォーマーやコミュニティをもつ側も議論していく必要があるんでしょうね。

【写真】心眼PARTY団体戦後の集合写真。手を上げたり、ePARA関連のグッズを掲げたりしながら、20数名ほどの参加者や関係者が楽しそうな様子で写っている。
心眼PARTY団体戦を終えて、参加者や関係者で集合写真

関連人物

NAOYA

(NAOYAさんのプロフィール)
ePARA所属アスリート。ブラインドeスポーツプレイヤーとナレーターのエンタメ二刀流。心眼体験にて、数々のプレイヤーとお手合わせしてきました。今日も笑顔130%で登場だ!
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なむ

(英語表記)Num

(なむさんのプロフィール)
ゲームさんぽ始祖。実家がお寺のなまぐさ坊主。普段は美術館的なところで働いている。著書に『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』(白夜書房)。
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