ストーリー

(カテゴリー)アーティスト

遠藤 綾

目次

【メインイメージ写真】社会福祉法人ほのぼの会〈わたしの会社〉に所属する遠藤綾さんが、刺繍の作業をしている様子。丸い木枠の型を布にはめ、その内側に花のような模様を刺繍で表している。綾さんは小花柄があしらわれた緑色のワンピースを着て、髪を薄緑のリボンでポニーテールにした姿。

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遠藤 綾

Cultivating The Arts “生きるための技術”をさがして(山形③)

クレジット

読了まで約4分

(更新日)2024年03月08日

(この記事について)

「THE ARTS」を“生きるための技術”ととらえ、表現が生まれる全国各地の現場を、福祉や創作活動に携わる案内人とともにめぐる企画「Cultivating The Arts」。今回は、山形で障害のある人の芸術普及・支援を行う、やまがたアートサポートセンターら・ら・らコーディネーターの武田和恵さんを迎え、3名の作家のもとを訪問した。山形県寒河江市にある〈さくらんぼ共生園〉の荒木恵二さん、村山特別支援学校本校へ通う長濱哲哉さんの次は、鳥居ヶ丘の社会福祉法人ほのぼの会〈わたしの会社〉に所属する遠藤 綾さんだ。

本文

プロローグ:関係性から生まれるもの

2019年より山形で続く、“障害のある人たちの表現(=「きざし」)とそれに寄り添う「まなざし」に焦点をあてた”公募展「きざしとまなざし」。武田和恵 さんは、その舞台裏を担うひとりだ。各地の福祉施設や個人を訪ねては、表現活動の現況について聞き取りを重ねている。 

「きざしとまなざし」。たとえば、こんなことがあったという。ある福祉施設では、備品を毎日のように駐車場に並べる人がいた。もちろん、利用したい人からすれば困ってしまう。しかし、スタッフはその行為に戸惑いながらも、「なぜだろう?」という自身の素直な視点に立ち、 写真を撮って記録を続けた。“いたずら”のような営みの蓄積に、その人の意思の表れを汲み取ったのだ。

「問題行動だと見なされるような行為も、とらえ方を変えれば、ものを創造する芸術活動なのかもしれない。だから、『きざしとまなざし』展では、そんな関係性から生まれてくる、表現の“きざし”を紹介しているんです」と武田さんは言う。


【写真】社会福祉法人ほのぼの会〈わたしの会社〉が有する畑に生えていた花。紫色の小花が細長く連なっている。

「好き」「やってみたい」が
ものをつくるエネルギー

朝、山形市鳥居ヶ丘の住宅街に佇む、社会福祉法人ほのぼの会〈わたしの会社〉へ赴いた。施設が運営するカフェとパン屋が併設され、かすかに香ばしい匂いが漂う。外から店を覗き込むと準備中で、「素材にこだわっていて、おいしいんだよ。あとで寄ろう」と武田さん。向かいの敷地では、スタッフの方が畑仕事に精を出していた。

【写真】〈わたしの会社〉内のアトリエの様子。朝、利用者の方々がテーブルについている。

施設内のアトリエでも、手織りや絵などの創作活動を行う利用者の方々が、作業をはじめようとしていた。テーブルの上にゆっくりと紙やノートを積み上げているのは、遠藤 綾さんだ。見ると、それぞれに色とりどりの文字が書き連ねられている。なかには紙の端が折れていたり、色褪せていたりと年季を感じるものも。

【写真】遠藤 綾さんの作品の一部。紙一面が、カラフルなペンで書かれた文字でびっしりと埋められている。
【写真】遠藤 綾さんの作品が層になって重なっている。紙の端は癖がついていたり、破けていたりする。

「好きな歌の歌詞や、アニメのキャラクター名などを何年も書いていらっしゃって。数百枚はあるだろう紙の束を、毎日リュックに入れて持ってきて、必ず全部持ち帰るんです」と、スタッフの上遠野(かどおの)莉奈さんが話す。傍らには、CDの歌詞カードも同じように重ねられていた。頑張ったときのごほうびとして、ご家族に買ってもらったものなのだそう。「すべてに綾さんの“好き”が詰まっている。お守りのようなものなのだと思います」と、上遠野さん。こうして自分のスペースを整頓することが、綾さんの作業前のルーティンになっている。

【写真】テーブルに紙の束や文具がまとまって並べられている様子。

しかし、仕事中に文字を書くわけではない。ここ数年は刺繍に熱中しているという。隣の部屋に移動した綾さんは、布を顔の間近に寄せて、静かに針を上下させていた。「カラフルな色使いや細かなタッチは、綾さんが書く文字とも通じている気がする」と武田さんは言う。刺繍をはじめたての頃は糸が単線でフラットだったが、今は層のように重ねて縫うことで、独特の味わいを生んでいる。

【写真】メインビジュアルと同じ写真。綾さんが丸い木枠の型をはめた布を顔に近づけ、黙々と刺繍に取り組む様子。
【写真】綾さんの刺繍作品のアップ。円を形づくるように角丸の長方形が連なって縫われ、花びらのような模様を生み出す。

綾さんは絵や手織りにも取り組むそうで、上遠野さんから「やってみる?」と素材を提案することもある。それに対し綾さんは、「えぇー」と顔をしかめはにかむものの、みるみる自分なりの表し方に昇華していくのだとか。

「私だったら、『なぜこのモチーフを選ぶのか』などと理由を考えて固くなってしまいます。でも、綾さんは『好き』『やってみたい』がエネルギーとなって湧き上がる。表現者として尊敬していますし、どんなものが生まれるのか、いつも楽しみで仕方ありません」と、上遠野さんは真っ直ぐな目で語ってくれた。

【写真】アトリエ内で上遠野さんと綾さんが向かい合って話している。上遠野さんはしゃがんでテーブルに腕を置き、席につく綾さんと目線を合わせている。

関連人物

遠藤 綾

(英語表記)ENDO Aya

(遠藤 綾さんのプロフィール)
1987年生まれ。〈わたしの会社〉では、1日の間に手織りや刺繍、絵や俳句などさまざまな仕事を行う。ジブリ作品やプリキュアシリーズなど、大好きなアニメが創作のモチーフになることも。

武田和恵

(英語表記)TAKEDA Kazue

(武田和恵さんのプロフィール)
やまがたアートサポートセンター ら・ら・らコーディネーター。障害のある人の芸術活動を支えるネットワークづくり、展覧会の企画運営などに従事。