ストーリー

(カテゴリー)アーティスト

上田 匡志

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(カテゴリー)アーティスト

上田 匡志

クレジット

[写真・映像]  森本 菜穂子

[文]  中村悠介

読了まで約3分

(更新日)2018年02月17日

(この記事について)

車、映画、そして思い出。大阪にファンタジックでユーモラスな絵を描き続けている青年がいる。自らの野望のために。

本文

(埋め込みコンテンツについて) イエローですごすうえださんのどうが。

アトリエ〈YELLOW〉のエース

俳優の阿部寛にちょっと似ている、正統派の男前がアトリエをブラブラしている。他のアーティストが黙々と創作に励む中、なにか考えごとをしているのだろうか。

彼は大阪・泉佐野のアトリエ〈YELLOW〉に所属する上田匡志さん。これまでにいくつも賞を獲った経歴のある、〈YELLOW〉を代表するアーティスト。いわばここのエース的存在だ。彼の創作活動は中学時代の絵日記に端を発し、2010年にこのアトリエに通い始めてから本格的にスタートした。

スケッチブックのいちページにかかれたうえださんのさくひんしゃしん。

上の弁当箱にいる魚のように死んでいる動物の眼はすべてX。コロッケやパスタなどシンプルな絵はより上田ワールドが全開。


絵を描いて野望を叶える

彼が描く絵は車などの乗りものや、映画のワンシーン(映画鑑賞は年間200本!)、そして自身の記憶に残る風景など。それらを、のっぺりと描く。まるで世界は2Dでできている、といわんばかりの上田ワールド。それがどんなモチーフでも必ず貫かれているのが頼もしい。そして作品はおしなべて配色がポップだけれど単にインパクトだけでは語れない。むしろジワジワくる味わいあり。たくさんのキャラクターが登場するファンタジー大作がある一方、ひとつのコロッケのみがどーんと描かれるようなシンプルなシリーズもある。〈YELLOW〉の施設長・日垣雄一さんいわく、最近の傾向としてはシンプルに向かっているとのこと。ここにきて、ある種の境地へ達しつつあるのかも。ともかく、ドローイングを量産してきた上田さんが毎日ここで絵を描き続けている理由はどんなものだろう。

作品はほぼアクリル絵の具やポスターカラー等で描かれている。

「彼は自分の野望のために絵を描いてるんです。以前、北海道の地下鉄に乗りたいっていう野望は叶ったんです」と日垣さん。絵を販売しそのお金で野望を叶えるのだそうだ。そして現在の野望はイギリスに行くことらしい。なぜイギリスなのですか?と尋ねてみると上田さんは「2階建バス(に乗りたい)」と即答した。

彼は関西のみならず、すでに海外の展覧会にも招聘され、最近では有名企業の社内報にも絵が使用されたり、とアーティスト活動は順風満帆に見える。そろそろロンドンバスの野望が叶えられるのでは?と思われるが、このところどうも集中できないらしい。この日は思い出の風景、幼稚園を描いていたけれど、ときおりアトリエをブラブラ。当時の記憶を手繰り寄せているのだろうか。

「昔は描きたいものがどんどん溢れていたんですけど、最近は模索しているのか。今日の午前中もずっと外を眺めていましたけど……まぁ、今はそういう時期なのかもしれません。ぼくらは様子をただ見守るだけで彼のペースを尊重したいと思っています。あ、今スイッチ入りましたね」。

いつのまにか机に向かっていた上田さん。幼稚園に色付けを始めた。目つきは真剣そのもの。そこに迷いはない。この調子ならイギリスは近いかもしれない。

つくえのうえになんさつものスケッチブックがおかれている。ひらかれたスケッチブックのいちページにはうえださんのコアラのイラストがかかれている。

描かれる映画のジャンルは問わない。こちらは《コアラ課長》。

うえださんがつくえにむかってせいさくしているようす。みぎてにふでをもって、みどりのえのぐでがようしにいろをぬっている。

関連人物

上田 匡志

(英語表記)Tadashi Ueda

(上田 匡志さんのプロフィール)
1991年生まれ。大阪府在住。就労継続支援施設でアトリエ〈YELLOW〉、そして〈エイブルアート・カンパニー〉にも所属。これまでにビッグ・アイ公募展「ビッグ・アイ・アートプロジェクト」村居正之賞(2012)、「現代アートの世界に輝く新星発掘プロジェクト」(2013)など入選多数。個展としては昨年、大阪で「カペイシャス展覧会 ♯05 上田匡志 個展」(Calo Bookshop and Cafe / Calo Gallery)を開催。
(上田 匡志さんの関連サイト)