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(カテゴリー)ARTISTS

(タイトル)伊藤愛子

(この記事について)

在るがままに踊る姿は、どこまでもキレている。1人の舞踊家も魅了する彼女のダンスは、周りの人の心も躍動させていた。

(更新日)2018年3月17日

CREDIT

[写真・映像]  森本菜穂子

[文]  水島七恵

しゃべるように、踊る。

他者と保っておきたい距離感も、他者の侵入を拒む自分も、「ひるのダンス」ではすべて崩される。触れ合って、動き回って、立ち止まって、探り合いながら、その瞬間に立ち上がってくる生の感情が、自分と他者とのあいだに新しい関係性を生む。

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一対一で踊りを同期し合う、佐久間さんと伊藤さん。

舞踊家の佐久間新さんを招いて開催している「ひるのダンス」は、〈たんぽぽの家1の活動として、月に2回、奈良県奈良市六条にある〈たんぽぽの家・アートセンターHANA〉(以下、〈HANA〉)で行われている。ダンスの可能性を探ることをテーマとした「ひるのダンス」。思い思いに身体を動かすその空間に、知的障害のある伊藤愛子さんはいた。

15名ほどのメンバーが踊っていただろうか。そのなかでも伊藤さんのダンスは切れ味が鋭く、そしてパワフルだった。縦横無尽に駆け抜けながら、時折、佐久間さんと濃密に共鳴する。

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そんなふたりの出会いは2004年。その後、インドネシアの楽器、ガムランを通した障害のある人たちとの舞台、「さあトーマス」(2005年)大阪公演でも共演した。以来、ふたりは数々の舞台を作り上げてきた。当時のことを佐久間さんはこう振り返る。

「『さあトーマス』は、〈たんぽぽの家〉と僕が当時所属していた〈マルガ・サリ〉というガムラングループとのコラボレーション作品で、愛ちゃんをはじめ10名ほどの〈たんぽぽの家〉のメンバーや、公募で集まった障害のある人たちでパフォーマンスをしたんです。そこで僕は初めて愛ちゃんと舞台に立ったんですが、すごく相性がよくて、“他にも一緒にやりたいよね”っていうことになったんです。というのも愛ちゃんは、まるでしゃべるように踊るんです。だからこうしたい!というのがすごく伝わってくるし、僕も“こうだったら、こうだよね”って動きで返すと、愛ちゃんはちゃんと返してくれる。実は僕、それまで即興で踊ることに慣れてはいなかったんですよ。でも愛ちゃんと出会って刺激を受けて、僕自身、彼女のようになりたいと思うようになっていったんです」。

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障害のある人とアーティストがペアになって、新しい関係と作品を作るプロジェクト「エイブル・アート・リンク2007」に、伊藤さんは佐久間さんと参加。2人のダンスする影がスクリーンに投影されることで、障害のある、なしといった鑑賞者の固定概念を崩していった。
(「アートリンクプロジェクト」映像作家・山田千愛さんとのコラボレーション/エイブル・アート近畿2007ひと・アート・まち京都、2007年、主催:近畿労働金庫)

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障害のある人とアーティストがペアになって、新しい関係と作品を作るプロジェクト「エイブル・アート・リンク2007」に、伊藤さんは佐久間さんと参加。2人のダンスする影がスクリーンに投影されることで、障害のある、なしといった鑑賞者の固定概念を崩していった。
(「アートリンクプロジェクト」映像作家・山田千愛さんとのコラボレーション/エイブル・アート近畿2007ひと・アート・まち京都、2007年、主催:近畿労働金庫)

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障害のある人とアーティストがペアになって、新しい関係と作品を作るプロジェクト「エイブル・アート・リンク2007」に、伊藤さんは佐久間さんと参加。2人のダンスする影がスクリーンに投影されることで、障害のある、なしといった鑑賞者の固定概念を崩していった。
(「アートリンクプロジェクト」映像作家・山田千愛さんとのコラボレーション/エイブル・アート近畿2007ひと・アート・まち京都、2007年、主催:近畿労働金庫)

「さあトーマス」は全国各地を巡る。そしてその翌年、伊藤さんと佐久間さんは〈たんぽぽの家〉のスタッフとともに中国・上海へ向かった。ふたりは現地の障害者初等技術職業訓練学校で、即興ダンスとワークショップを行う機会に恵まれたのだ。そこで充実の時間を過ごしつつ、伊藤さんの身に思わぬアクシデントが起こる。

「私、具合が悪くて現地のホスピタルに入ったの。検査したら背中に黒い影があるって言われて大変だったんだけど、その原因はうちのマザーがね、ピンクのビッグなホッカイロをね、私の背中に貼っていたの!(笑)」。

笑いながら、そのアクシデントを解説してくれる伊藤さん。つまりホッカイロを貼り付けたままレントゲンを撮ったところ、それが悪性か何かの病巣だと医者に勘違いされたらしい。誤解が解けた後、最終的には食べ過ぎからくる体調不良だったことが判明し、無事にみんなと一緒に日本へ帰国した。

「ホスピタルとかマザーとかビッグとか(笑)、海外のエピソードだからと英語を混ぜつつ話す愛ちゃん、いいですよね。以前も大阪で一緒にワークショップをしたときも、会場に外国人がいると、愛ちゃんは英語で挨拶を始めたんです。英語が得意というわけではないのに、そうやって周りをちゃんと観察しながら、その場に合わせてコミュニケーションを取ろうとする。その心意気がまた愛ちゃんの踊りにも反映されているし、素敵なところでもあるんです」。

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約90分間、それぞれが自由に即興で踊る「ひるのダンス」。踊った後は、参加者メンバーで踊りを振り返る懇談会を行っている。

チャーミングでユーモアも欠かさない伊藤さんは、その後も着実にパフォーマーとしての才能を開花させる。また並行して、〈たんぽぽの家〉が長く取り組んできた民話や創作童話、自分史などを語る舞台表現「わたぼうし語り部」やNHK Eテレの番組ナレーションなど、声のプロとしても活躍するようになっていく。「“語り”はたくさんやることがあって、最近大変なの。そういうときこそダンス」と、伊藤さんははにかむ。

「愛ちゃんとは僕が〈たんぽぽの家〉に来る度に会っていたけど、確かにここ最近、愛ちゃんは語りのプログラムがあって忙しかったから、がっつり踊るのは今日が久しぶりでしたね。でもやってみたらバッチリでした。お互いにきっと少し大人になったと思うので、久しぶりに人前でも踊りたいですね」。

「ひるのダンス」を振り返っての佐久間さんからの感想に、伊藤さんは「またぜひ違うところでもやりたいです。今日はカンフーダンスもやったりしながら、佐久間さんと向き合って踊ることができてよかった。佐久間さんがかっこよかった」と気持ちを伝える。そしてそろそろ取材も終盤に差し掛かっていると自ら察したのか「今日は楽しかったです。ありがとうございました〜!」と言いながら、爽やかに取材部屋を後にした。佐久間さんの言う通り、伊藤さんは本当に周りの空気をよく読んでいる。

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障害のある人が暮らし、カフェを併設した地域交流の拠点ともなる<有縁のすみか>(写真)は、「まちの縁側」のような場所をイメージしてオープンした。

伊藤さんは〈HANA〉から徒歩23分の距離にある福祉ホーム〈たんぽぽの家・有縁のすみか〉(以下、〈有縁のすみか〉)で暮らしている。2016年にオープンしたばかりの〈有縁のすみか〉は、伊藤さんのお母さんをはじめとする保護者の方たちが自主的に立ち上げた〈障害のある人たちが自立を考える会〉が発端となって、オープンすることができた。〈たんぽぽの家〉常務理事の岡部太郎さんは言う。

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多摩美術大学の出身の岡部さん(写真中央)。1999年に前橋市役所で開催された「Group文字屋」展をきっかけに、〈たんぽぽの家〉と出会い、途中1年間休学して〈たんぽぽの家〉でインターンとして働いていた経験を持つ。

「愛ちゃんのお母さんを始め、〈たんぽぽの家〉に通うメンバーの保護者のみなさんは、すごく意識の高い方が多くて、子どもたちが外に出ていくことにも積極的な方が多いですし、自分たちが亡くなった後もちゃんと力強く社会の中で生きて行けるようにと、日々優しくも厳しく見てくれているんです。そんな保護者の方たちの眼差しに、我々〈たんぽぽの家〉もいろんな気づきをたくさんいただいています」。

取材を終えた伊藤さんは、〈有縁のすみか〉に戻っていた。ちょっとだけ最後に顔が見たいと行ってみると、「どうぞ」と、大好きだと言う(2017年の)大河ドラマの主人公・井伊直虎の絵が表札がわりになっている自分の部屋に私たちを招いてくれた。

「洗濯物は男性と女性のものが混ざったらあかんから、分けてネットに入れて洗っています」とここでの暮らしを解説しながら、部屋の前で記念写真。最後まで、伊藤さんはこちらの空気を掴んでいた。さすが!


KEYWORDS(記事中の言葉)

註:たんぽぽの家

奈良を拠点に、障害のある人の芸術文化活動の支援を行いながら、誰もが生きやすい社会づくりをめざしてさまざまな市民活動を行っている〈たんぽぽの家〉は、現在、〈一般財団法人たんぽぽの家〉、〈社会福祉法人わたぼうしの会〉、〈奈良たんぽぽの会〉の3つの組織で構成されている。主な活動として、アートとケアをキーワードに、障害のある人の詩にメロディをつけて歌う「わたぼうし音楽祭」を始め、アートと社会の新しい関係をつくる「エイブル・アート・ムーブメント」、「ケアする人のケア」研究プロジェクトなどに取り組んでいる。その活動拠点である〈たんぽぽの家・アートセンターHANA〉は、アートを通じお互いの感性を交換できる、地域に開かれた場として機能。日々障害のある人たちが絵画や立体造形、テキスタイル、陶芸、演劇、 ダンスなど、様々な表現活動を行っている。
http://tanpoponoye.org

PROFILE関連人物

伊藤愛子さんの顔写真

伊藤愛子

(英語表記)Aiko Ito

(伊藤愛子さんのプロフィール)

1980 年生まれ、奈良県在住。2000 年より〈たんぽぽの家〉で活動を始める。舞台「さあトーマス」(2005年)の参加をきっかけに、パフォーマーとしての表現の可能性を広げる。他にも書、語り、手織りなど、その表現活動は多岐に渡る。2012〜2016 年まで、NHK Eテレ「バリバリ」にてナレーションを担当。

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