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(カテゴリー)展覧会

(ニュースのタイトル)東京都現代美術館でグループ展「翻訳できない わたしの言葉」開催中

(更新日)2024年04月26日

(この記事について)

みんなが同じ言語を話しているようにみえる社会に、異なる言語があることや、同じ言語の中にある違いに、解像度をあげ目を凝らそうとする作品を紹介

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言葉や思いをそのまま受けとることから  

東京都現代美術館では、日本における多様な言語のあり方や、話すという行為そのものとその権利について触れつつ、「ことば」について考えるグループ展「翻訳できない わたしの言葉」を開催しています。 世界には様々な言語があり、一つの言語の中にも、方言や世代・経験による語彙・文法の違いなど、無数の豊かなバリエーションがあります。話す相手や場に応じて、仲間同士や家族だけで通じる言葉を使ったり、他言語を使ったりと、複数の言葉を使い分ける人もいるでしょう。言葉にしなくても伝わる思いもあります。それらはすべて、個人の中にこれまで蓄積されてきた経験の総体から生まれる「わたしの言葉」です。他言語を学ぶことでその言語を生み出した人々の文化や歴史に触れるように、誰かのことを知ることは、その人の「わたしの言葉」を、別の言葉に置き換えることなくそのまま受けとろうとすることから始まるのではないでしょうか。

この展覧会では、ユニ・ホン・シャープ、マユンキキ、南雲麻衣、新井英夫、金仁淑の5人のアーティストの作品が紹介されています。かれらの作品は、みんなが同じ言語を話しているようにみえる社会に、異なる言語があることや、同じ言語の中にある違いに、解像度をあげ目を凝らそうとするものです。第一言語ではない言葉の発音がうまくできない様子を表現した作品や、最初に習得した言語の他に本来なら得られたかもしれない言語がある状況について語る作品、言葉が通じない相手の目をじっと見つめる作品、そして小さい声を聞き逃さないように耳を澄ませる体験などを通して、この展覧会では、鑑賞者一人ひとりが自分とは異なる誰かの「わたしの言葉」、そして自分自身の「わたしの言葉」を大切に思う機会を提示したいとの思いが込められています。


参加アーティスト

ユニ・ホン・シャープ|Yuni Hong Charpe

ユニ・ホン・シャープは「Je crée une œuvre(私は作品を作る)」というフランス語の発音を、フランス語を第一言語としている長女に訂正してもらう様子を描いた映像作品《RÉPÈTE | リピート》(2019年)を展示します。母語として育った言語以外の音を正確に捉えて発音するのは難しく、外国語学習や共通語のアクセントに苦労したことのある人は多いのではないでしょうか。アーティストは最後に「正しい」発音で「Je crée une œuvre」を言うことができるようになります。しかし「正しい」発音でなくても、それはアーティストが「わたしの言葉」として使っている言葉なのです。

ユニ・ホン・シャープ《RÉPÈTE | リピート》2019年

ユニ・ホン・シャープ《Still on our tongues》2022年

マユンキキ|Mayunkiki

日本列島北部周辺の先住民族アイヌであるマユンキキは、アイヌという存在自体の否定、ステレオタイプや理想の押し付けに直面しています。民族全体を代表していると捉えられたり、アイヌらしさを期待されたりすることも認識しながら、個人として言葉を紡ぎ、自分を作り上げてきたもの・人々・言葉を丁寧に提示する試みを続けています。本展では、本来第一言語になりえたかもしれない言語を改めて学ぶことについて、写真家の金サジと対話する映像、その対となるものとして自分が話す言語を自ら選択することの意義について、アートトランスレーターの田村かのこと対話する映像とあわせ、セーフスペースとしての空間の中に、マユンキキを作り上げてきた様々な要素を展示します。

マユンキキ Photo by Hiroshi Ikeda

マユンキキ《Siknure – Let me live》2022年、 Ikon ギャラリー(バーミンガム)での展示風景 Photographer Stuart Whipps, courtesy of Ikon Gallery.

南雲麻衣|Mai Nagumo

南雲麻衣は3歳半で失聴し7歳で人工内耳適応手術を受け、音声日本語を母語として育ちました。大学生になって手話(視覚言語)と出会い、今は日本手話を第一言語とするろう者としてのアイデンティティを獲得しています。「複数の言語を持つと、本当に帰属しているのはどちらなのかを常に問われていると感じる。」と南雲はいいます。音声言語と視覚言語を二項対立として考えるのではなく、そのあわいで揺れながら選択をし続けることは、単一言語主義へのささやかな抵抗の実践なのです。本展では、彼女の言語獲得や言葉との付き合い方を描く映像インスタレーション《母語の外で旅をする》(仮)(撮影・編集:今井ミカ)を展示します。

南雲麻衣 Photo: 齋藤陽道

南雲麻衣 Photo: k. kawamura

新井英夫|Hideo ARAI

新井英夫は、障害のある人や高齢者など、思い通りに言葉を表出しにくい/身体が動かしにくい人たちと向き合い、内なる「からだの声」に耳を澄まし尊重しあう身体表現ワークショップで高い評価を受けています。コミュニケーションには、発信する力だけではなく、聴く力も重要です。誰かの「わたしの言葉」を聞き逃さないように、言葉になる前の「からだの声」に気づくように、今回は展示室内で微かな音を奏で耳を傾けたり、身体の些細な動きを意識したりというワークを、鑑賞者に提示します。現在、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病と対峙している新井の日記的即興ダンス映像も、身体と言葉のつながりについて考えるきっかけとなるでしょう。

新井英夫 親子WSで輪になって 即興ダンスセッション!! ©水都大阪2009

新井英夫《踊ルココロミ Improvisation Dance with ALS》2022 年- 撮影:イタサカキヨコ

金仁淑|KIM Insook

金仁淑は、滋賀県にあるブラジル人学校サンタナ学園との出逢いを学校の日常を背景に1人1人と見つめ合うことで表現した10ch映像インスタレーション《Eye to Eye》( 2023年恵比寿映像祭コミッション・プロジェクト特別賞受賞)に加え、その後の出逢いを収めた新作を展示します。日本語を使わない在留外国人は独自のコミュニティを持っており、日本語を使う前提で暮らす地域社会と接する機会は多くはありません。しかし言葉は違っても、出逢うことができれば仲良くなれたり見つめあえたりします。アーティストが丁寧にコミュニケーションを積み重ねて制作したこの作品は、まさに彼ら一人ひとりに出逢うためのプラットフォームなのです。

金仁淑《Eye to Eye, 東京都現代美術館 Ver.》2024年
「翻訳できない わたしの言葉」展示風景、東京都現代美術館、Photo:金仁淑 ©KIM Insook

金仁淑《扉の向こう》2024年
「翻訳できない わたしの言葉」展示風景、東京都現代美術館、Photo:金仁淑 ©KIM Insook


関連プログラム

参加作家によるアーティストトークやパフォーマンスなど多彩なプログラムが行われます。


インフォメーション

翻訳できない わたしの言葉

会期:2024年4月18日(木)から7月7日(日)
時間:午前10時から午後6時まで(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(4月29日、5月6日は開館)、4月30日、5月7日
料金:一般1,400 円 / 大学生・専門学校生・65歳以上1,000円 / 中高生600円 /小学生以下無料 ※障害のある方と付添者2名無料
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F (東京都江東区三好4丁目1−1

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

 

お問合せ:東京都現代美術館
〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
ハローダイヤル 050-5541-8600 ※年中無休9:00-20:00
または TEL:03-5245-4111(代表)
東京都現代美術館ウェブサイト

会場

[東京都現代美術館] 東京都江東区三好4-1-1

東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1