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“しょうがい”って何? 障害者福祉の制度、法律、サービスの言葉

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“しょうがい”って何? 障害者福祉の制度、法律、サービスの言葉

解説:岡部兼芳[はじまりの美術館館長]

クレジット

[イラストレーション]  小幡彩貴

[文]  佐藤恵美

読了まで約7分

(更新日)2017年05月26日

(この記事について)

「福祉」とは、法律や制度の問題とは切っても切れない縁で結ばれています。なぜなら福祉という言葉を辞書で引くと「等しくもたらされるべき幸福」といった意味があり、それを実現するには国や自治体が整える法律や制度が関係してくるからです。ここでは障害者にまつわる福祉の言葉を紹介していきます。「障害とは何か」といった議論から、さまざまな制度やサービスの最新情報まで。解説は障害者支援施設で生活支援員も務めていた、はじまりの美術館(福島)の館長・岡部兼芳さんです。

本文

障害者にまつわる法と制度が激変した10年

世界の条約をもとに、日本の整備も進みました

この10年、障害者にまつわる法律や制度はめまぐるしく変化しました。この障害者福祉業界の動きにそって、制度や法律、さまざまな言葉を紹介したいと思います。

なぜこの10年かというと、2006年に国連総会で「障害者権利条約」が採択されたことが大きな出来事としてあります。これは、障害者の尊厳と権利を保障するための条約で、翌年日本も署名しました。ただ、すぐに条約を結ぶことはできませんでした。障害者の労働や教育、アクセシビリティ01などあらゆる面で国内の法令が条約の求める水準に達していなかったからです。

その後、「障害者基本法」の改正(2011年)、「障害者総合支援法」の成立(2012年)「障害者差別解消法」の成立、「障害者雇用促進法」の改正(2013年)など法令の整備を行い、2014年に日本は障害者権利条約を締結しました。

利用者がサービスを選ぶシステムへ

では障害者権利条約が締結される前、日本の障害者にまつわる法律や制度はどのようなものだったのでしょうか。

これからお話しする、障害者福祉にまつわる基本理念やさまざま施策のもととなっている法律が、1970年にできた「障害者基本法」です。この法律は、障害者のための権利や支援に関する基本理念、また国や地方公共団体の責務などを定めています。

一方、制度については第二次世界大戦後に国内で福祉サービスが整えられていくなかで「措置制度」が生まれました。これは行政が個々人の障害の程度によって利用できるサービスを判断し、それに対して費用を事業者に渡すという仕組みです。ただこれでは利用者自身がサービスを選ぶことはできません。そこで、2003年に「支援費制度」に転換されます。これは、利用者自身がサービスを選択できる、画期的な制度でした。利用者は事業者と契約を交わし、行政はその費用を支援するという仕組みです。しかし、利用者のニーズが掘り起こされたことで、逆に行政は大赤字となりました。また、運用していくなかでサービスの行き届かないところがでてきたり、精神障害や特定疾患、高次脳機能障害など制度の適用外となってしまった人たちもおり、法律の改正を望む声が大きくなりました。

3つの障害についての法律が一本化

これを受けて2005年に公布されたのが「障害者自立支援法」です。これまで大きく3つに分類されそれぞれに運用されてきた、身体障害、知的障害、精神障害に関する法律が一本化され、対象とされる範囲も広げられました。それに伴い、「障害程度区分(現・障害支援区分)」も採用されました。これは支援の必要度を表す6段階の区分のことで、この区分によって受けられるサービス内容や、サービスの利用時間、回数等が違ってきます。ただ、障害者の「自立」を掲げながらサービスの利用者に一部費用の負担を求める「応益負担」(受ける利益に応じた負担)という考え方が採用されたことなどから施行当初から批判も多く、 憲法に違反しているのではないか、という違憲訴訟にまで発展。2013年には「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」、通称「障害者総合支援法」に改められました。

法のなかに位置付けられた“配慮”

障害者総合支援法と同じ時期、2016年に施行された「障害者差別解消法」という法律があります。これは「障害の有無によって分け隔てられることなく、 相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進する」というものです。

これにより、行政、企業、学校など社会のさまざまな場所で「合理的配慮」の提供が求められています。「合理的配慮」は、障害者権利条約で定義されたものです。障害のある人が日常や社会のなかでげとなる社会的障壁を取り除くため、状況に応じて行われる配慮のこと。行政では義務付けられ、民間にはそうした考え方を持って配慮していきましょう、という努力義務があります。


「家族で支える」から「地域で支える」へ

多岐にわたる障害福祉サービス

このようなさまざまな法律の改定により、サービスの種類も増えました。昔はサービスを利用できない時間は家族が一緒に過ごし、ケアをすることが当たり前になっていました。しかし、現在では地域生活を支援するサービスも増えています。たとえば平日の日中は施設に通う「デイケア」に加えて、休日の外出をサポートするサービスがあったり、夜間のショートステイも利用できるようになりました。

生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援などは、障害のある方たちが日中を過ごすためのサービスです。これは先ほどの障害支援区分によって利用できるかどうかが決まります。たとえば生活介護は日常生活で常に支援が必要な方が利用できるサービスです。仕事や作業をしたいという方は就労支援のサービスを利用します。就労移行支援は年限がありますが、就労するための基本を身につけるサービス。就労継続支援は、A型とB型に分かれています。A型は最低賃金を保障していく雇用型のサービスで、B型は工賃を最低賃金の半額まで保障するというものです。そのほか、一定期間、身体機能または生活能力の向上のために必要な訓練を行う自立訓練などがあります。

一人ひとりにあった支援を

これまでご紹介した日中に活動をするためのサービスのほかにも、施設に入所して生活を送る施設入所支援や、自宅で入浴や食事の支援を受ける居宅介護など、日常生活の場面場面に、多様なサービスが設定されています。サービスの種類が増えた分、それを提供する側も対応に追われながら、さまざまなサービスを増やしています。利用する方々にとって選択の幅は広がったものの、一方でサービスがあること自体を知らない人がいたり、どのように使っていいのかわからなかったりすることから、「相談支援」という窓口ができました。

相談支援では、福祉施設の事業の一つとして、サービスの利用を希望する本人のニーズを聞き取り、受けられるサービスを紹介したり、サービスとサービスをつないで生活の組み立て方を提案しています。また、行政から支給を受け、サービスを利用するためには「個別の支援計画」が必要なのですが、この計画をたてるのも相談支援の大切な仕事の一つです。サービスを利用したい人、資金を支給する行政、福祉事業所、この3者の間に立ち、必要なサービスを必要な方に利用してもらえるよう、客観的な立場で支援をする相談支援事業の重要性は、ますます高まっていくでしょう。


“しょうがい”をめぐるさまざまな議論

障害は個人の問題か、それとも社会の問題か

では、そもそも“障害”とは何なのでしょうか。障害者基本法によると「障害者」とは、「身体障害、知的障害または精神障害があるため、継続的に日常生活または、社会生活に相当な制限をうける者」とあります。わかりやすく言えば、「心身のいろいろな条件により社会のなかでかなりの生き辛さがある」ということです。程度の差はあれ“生き辛さ”は誰もが少なからず感じたことがあるのではないでしょうか。

ではその生き辛さ、障害の原因がどこにあるのかといった考え方に「医学モデル」と「社会モデル」があります。「医学モデル」は障害を個人の問題とする考え方で、「個人モデル」とも呼ばれます。その人の持っている条件や身体的な課題に対して医療的な治療やケア、リハビリが必要だとするものです。

それに対して「社会モデル」は、社会のなかで自由に生きる条件が整ってないことが「障害」であり、社会のほうに問題があるという考え方です。どんな人でも生きやすい社会をつくっていくことで、そうした問題を解決していく、人権的な観点に基づきます。最近はこの社会モデルをベースに考えられることが増えてきています。また、WHO(世界保健機関)は、この両モデルからのアプローチが必要であるという観点に基づき「障害」の分類を行っています。

ノーマライゼーションから、ソーシャルインクルージョンへ

ノーマライゼーション」や「ソーシャルインクルージョン」という言葉は、聞いたことのある人も多いかもしれません。似ているようで違う意味や背景を持っています。前者は障害の有無にかかわらず、人びとが等しく生きられる社会を目指す考え方。誰もが「ノーマル」に生きていけるための社会理念です。後者は、日本語では「社会的包摂」と訳されたりします。どんな違いのある人でも社会に包み込み、ともに支えあっていこう、という意味を持っています。ノーマライゼーションは“障害”という存在があることを前提にしていることで批判される面もあり、最近ではソーシャルインクルージョンがよく使われています。また「ダイバーシティ」は「多様性」という意味で、近年この文脈で使われる言葉です。

「しょうがい」の表記が2通りある理由

障害」と「障がい」の表記を巡ってもさまざまな議論があります。「障害」の「がい」という字は、もともとは「碍」でしたが、戦後の当用漢字の整理のなかで「碍」が外れたため、「害」が当てられました。ただこの字は「害する」「害されている」といったマイナスのイメージがあり、当事者のなかには不快に感じる人もいます。そうした当事者団体02からの要望もあり、自治体のなかには「害」を平仮名にし「障がい」と表記するところも多いのです。また各自治体の表記の仕方で、その地域の事業者も「害」か「がい」かを選択することがあったり、個人的な考え方で使い分けている場合があります。

しかし、平仮名にすることで、差別や蔑視が起きている現実問題をうやむやにしてしまっているのではないか、という視点の議論もあります。それで「害」をあえて漢字にし、この字を使っている限りは社会的に問題があるのだ、ということを示していったほうがいいと主張する方もいます。ちなみに法律では「障害」としています。

「障害」も「障がい」も、どちらも問題意識を持っている点では同じです。問題なのは、無自覚に差別的な使い方がされることや、全くの無関心、無理解です。知らないがゆえの恐怖や拒絶は、偏見や差別、ひいては戦争といった多くの悲劇の源にもなっています。少し立ち止まって「もし自分だったらどう感じるだろう」と相手の立場に思いを馳せ、想像力を働かせること。その延長線上に、ダイバーシティを基本的な考え方とする、寛容で想像力にあふれた社会が実現するはずです。


キーワード 記事中の言葉

01: アクセシビリティ

場所や情報、サービスなどへのアクセスのしやすさや、利用のしやすさを表す。

02: 当事者団体

障害のある方たち自身による団体や、保護者、家族などが主体となる団体を指す。

関連人物

岡部兼芳

(英語表記)Takayoshi Okabe

(岡部兼芳さんのプロフィール)
はじまりの美術館(福島県耶麻郡猪苗代町)館長。釧路公立大学経済学部経済学科卒。佛教大学通信教育課程修了。福祉作業所支援員、中学校教員を経て、2003年社会福祉法人安積愛育園入社。あさかあすなろ荘にて生活支援員として働く中で、知的に障害のある利用者の表現活動をサポートする「unico(ウーニコ)」に携わる。2014年6月より現職。福祉機関誌『手をつなぐ』編集員もつとめる。
(岡部兼芳さんの関連サイト)