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(カテゴリー)コラム

ダイバーシティな「ドラマ」ガイドvol.8

(この記事について)

人類が誕生して以来、私たちは言葉や歌、書物、演劇などで物語を紡ぎ続けてきました。では、現在の世界ではどのような形で物語を伝えているのでしょうか。映画やテレビに代わって登場したのが、サブスクリプション型の動画配信サービス。世界に住む人々はタイムラグなしで、自宅にいながらにして共通の物語を楽しむことができるようになりました。また、新しいプラットフォームの登場と共に、コンテンツにも「多様性」という変化の兆しが見られます。今回は世界中の人が夢中になっている動画配信サービスの魅力をお伝えします。

(更新日)2021年09月10日

CREDIT

[文]  井上英樹

[イラスト]  町田早季

物語を伝える新しいプラットフォームの登場

生活様式の変化から、「昨日、あの番組を見た?」という会話は成立しなくなった。

『積木くずし』(45.3%/1983)、『水戸黄門』(43.7%/1979)、『3B組金八先生』(39.9%/1980) などと視聴率で肩を並べるドラマは、近年では『家政婦のミタ』(40.0%/2011)や『半沢直樹』(42.2%/2013)くらいだ(ビデオリサーチ調べ)。

しかし、有史以来、歌、詩、演劇、講話、小説、映画、テレビなどと形を変え、私たちの近くに存在し続けてきた物語の魅力が失われたわけではない。テレビに置き換わり、いまの世界で大きな力を持つメディアはサブスクリプション型の動画配信サービスと言えるのではないだろうか。これは定額制で国内外の映画・ドラマ・アニメなどが見られるサービスだ。

NetflixAmazonプライム・ビデオ、Hulu、などのサービスがあり、最大手のNetflixは全世界の有料会員数が2億人を超えており、新型コロナの巣ごもり需要でさらに拡大している。

動画配信サービスは作品を放映する「プラットフォーム」だ。様々な制作会社のドラマや映画を世界中と繋がるこのプラットフォームで見ることができる。つまり、ドラマ制作者は質の良いコンテンツを作れば、様々な動画配信サービスを利用して、全世界で配信が可能となったのだ。

私たちはフランスの移民が主人公のドラマを、インドの殺し屋のコメディを、韓国の中世を舞台にしたゾンビドラマを日常的に楽しむことができる。そして、日本で制作された最新のアニメや映画をインドや欧州でも見ることができる。この数年で世界は映像コンテンツで密接に繋がりはじめた。

Netflix 『Lupin/ルパン』。エミー賞受賞のルイ・ルテリエ監督がメガホンをとり、『最強のふたり』のオマール・シーが主演するドラマ。フランス制作。(c)2021 Netflix, Inc.

多様性に富んだコンテンツ

視聴者数が増えたことで、配信サービス自体がオリジナルコンテンツを制作する動きも活発になっている。数年前までは「映画は映画館のもの」と配信サービスに否定的だった映画監督や俳優たちも、予算規模や制作の自由さ(内容や時間、自主規定など)を求め、最近ではこぞって制作に参加している。クオリティも年々上がり、配信サービスが制作した作品がアカデミー賞にノミネートされることも珍しくなくなった。もはや、配信サービスは映像コンテンツになくてはならない存在となっている。

配信サービスの作品を見ていて、新鮮な感じを受けるのがキャスティングや物語の多様性の豊かさだ。今回は世界で多く見られている大人気作品を3本ご紹介し、その多様性の一端に触れていただけたらと思う。以下に挙げる3本の作品はあまりにも有名で、ドラマ好きなら新鮮味のないラインアップだろう。しかし、その多様性を意識しつつ、再度視聴してみるとこれまでとは違った作品観を抱くかもしれない。

ウォーキング・デッド(2010年~)

人類はゾンビの登場によって終末を迎える。生き残った少数の者たちが荒廃した世界で生きていく姿を描く物語。

 この原稿を書いている2021年9月現時点でもウォーキング・デッド(以下WD)最終シリーズにあたるシーズン11が制作されており、スピンオフ(外伝的な派生作品)や続編の映画化も予定されている。劇中、ゾンビはウォーカー(歩く者)と呼ばれる。ウォーカーの姿が恐ろしいため、食わず嫌いの人も多いだろう。たしかに、ウォーカーが人を生きたまま食べるショッキングなシーンはしばしば登場する。しかし、慣れとは恐ろしいもので、見続けているとなんとも思わなくなる(はず)。それに、劇中もっとも恐ろしく描かれるのは人間だ。

WDはアメリカを舞台にしており、現実と同様に登場人物は人種や宗教が多岐にわたる。人は1人では生きてはいけない。生き残った者は必ずグループを形成する。偶然一緒になったグループ、女性だけのグループ、強い男性だけのグループ、犯罪者だけのグループ。限られた資源を奪い合い、多くの場合で集団は対立をする。その際、生き残るのが協調性・多様性のある集団だ。

(c)2019 AMC Network Entertainment LLC. All Rights Reserved.

数万年ほど脱線するが、人類がアフリカで誕生した後、私たちの祖先は旅を繰り返し、世界の隅々に拡散していった。

夜を過ごす際、気の弱い者や小さな子どもがいると、集団は防衛に対する意識が強くなる。危険地域を避け、小さな物音ひとつで逃げ出しただろう。また、老人がいれば知恵を用いて危機を回避することができるし、子どもがいれば衛生や教育という概念が向上する。

一方、好戦的で体力に自信のある者だけの集団は、短期的には効率的に食料を集めることができ、他の集団に臆することもない。しかし、内外で争いが絶えず個体は怪我をする確率が高い。結果的に臆病で弱い者たちの集団が生き延びる可能性は高くなる。

そもそも、なぜ人は旅をしたのかというと、好奇心ではなく「弱い」ために、集団から追い出されたのだと考えられている。この「弱い者たち」はグループを作り、定住し、またはじき出されて世界に拡散していった。WDの旅を見ていると、初期の人類の集団のように思えてくる。ゾンビ物と毛嫌いしている人には、ぜひ人類拡散の旅を追体験できるWDをおすすめしたい。

ウォーキング・デッド 公式サイト

ブレイキング・バッド(2008~13年)

ニューメキシコ州に住む冴えない高校教師ウォルター・ホワイトの物語。ウォルターは高齢出産を控えた妻がおり、多額の住宅ローンも抱えている。不安定ながらも、ごくありふれた人生を送っていた。そんな彼にある病が発覚する。

突然、人生の終わりが見えた瞬間、ウォルターは途方に暮れる。これから生まれる子どもや妻も心配だが、ひとり息子は脳性麻痺で軽度の言語症と運動機能の障害を抱えている。自分が死んだ後、生活を維持し、さらには子どもたちが教育を受ける資金が必要だ。だが、形勢を逆転する満塁ホームランを狙っても残された時間は少ない。

ウォルターは生徒の麻薬ディーラーをパートナーにして、化学の知識(ウォルターは化学の教師なのだ)や技術を使って麻薬精製に手を染める。まとまった金を作れば麻薬からは手を引く。少なくとも、犯罪をはじめた当初には家族を幸せにするという大義名分があった(無論許されることではないが)。しかし、保管できないほどの現金を手にしてもウォルターは犯罪に手を染め続け、人生の道を踏み外していく。

(c)2008-2013 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.

物語は全般的にコミカルに描かれるが、物語やキャスティングはアメリカの多様性を反映する。ウォルターの息子ジュニアは脳性麻痺という設定だが、ジュニアを演じるRJ・ミッテもまた脳性麻痺で軽度の言語障害と歩行障害がある(ちなみにRJ・ミッテは本作より以前から俳優活動をしている)。

ドラマに登場するジュニアは両親思いの、どこにでもいるティーンとして描かれる。ジュニアの存在がウォルターをブレイキング・バッドするきっかけのひとつではあるのだが、真まで悪人となりきれないウォルターの心のブレーキとなっていることも付け加えておく。ドラマ終了後、RJ・ミッテはコメディドラマやリアリティ番組『Celebrity Island with Bear Grylls』などに出演するなど、本作品から大きく飛躍した。

ブレイキング・バッド 公式サイト

ゲーム・オブ・スローンズ(2011~2019年)

ドラゴンが生きる架空の時代、国々の王座を巡る争奪戦が繰り広げられる。一見、ファンタジー物かと思うかもしれない。しかし、ゲーム・オブ・スローンズ(以下GOT)には、性描写や残虐シーンが多く、とても子どもには見せられない内容だ。しかし、現実世界の欧州の中世時代には(もちろん日本も)、血を血で洗う恐ろしい権力闘争が行われてきた。GOTは、ダークファンタジーでありながら現実世界の人間の醜さを描いているのかもしれない。

劇中には小人症の王族、手を失った戦士、隻眼の兵士、下半身不随のプリンス、娼婦、奴隷といった日本のドラマではなかなか登場しない設定の人々が登場する。しかし、物語に多様性の彩りの為に設定しているのではなく、それらの登場人物は必然的に物語に関わり合う。

特に印象的な登場人物を挙げるとするなら、ピーター・ディンクレイジ演じるティリオン・ラニスターだろう。ディンクレイジの身長は132センチ。劇中、この小人症という特徴から多くのを受けるが、天才的な政治感覚と実行力でしぶとく生き抜いていく。シリーズを通して中心的な役割を演じ、主人公のひとりとして圧倒的な存在感を見せる。彼は「(弱みを)世間は忘れないがとしてまとえば弱点にならない」と言う。

身体的特徴のためにドラマ冒頭では「小人症のティリオン」という視点で見てしまうかもしれない。しかし、作品が進むにつれ「小人症」という彼の特徴は、数ある特徴のひとつになっていく。多様なキャスティングが、物語の多様性を担保している。

ゲーム・オブ・スローンズ 公式サイト

世界中の人に向けたサービス

世界で配信されるということは、それだけ多くの人から審判が下されると言うことだ。例えばNetflixではオリジナルコンテンツ制作にあたり、リスペクトトレーニング(職場でのハラスメント防止のための取り組み)、インティマシー・コーディネーター導入(ベッドシーンなどのセンシティブな撮影において、役者と演出との間で調整をする専門家)、労働時間の規制などのガイドラインをもっている。日本ではバブル期のポルノ業界を描いた『全裸監督』から、インティマシー・コーディネーターが導入された。これら世界基準のガイドラインの導入は、今後の映画・ドラマ作りを大きく変えるだろう。

また、内容もあらゆる角度から審査が行われ、ヘイトや一方的な価値観を押しつけるような内容の作品は制作の段階で淘汰される。必ずしも差別や暴力を扱わないというわけではなく、物語の中に必然性があれば差別的、扇動的、暴力的な表現も登場する(きっと、地上波のドラマしか見たことがない人は『ゲーム・オブ・スローンズ』の激しい表現に驚くだろう)。しかし、「描かない」ことで、ヘイトや偏見は、魔法のように世界からは消えない。架空のドラマであっても、描いているのは現実の世界なのだ。だから、動画配信サービスが発信するコンテンツは見る者の心を揺さぶり続けるのだろう。

※上記の作品はNetflixAmazonプライム、Huluなどの動画配信サービスでご覧頂けます。公開期間は各サービスによって変更することがあります。


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