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【写真】鉛筆を手に、しゃんとした姿勢でこちらを見るraitoさん

(カテゴリー)アーティスト

raito

(この記事について)

海岸線のような、等高線のような複雑で細かな線と、その線が作り出す図形。この印象的な文様をもつ動物や人物、街並みの絵を生み出しているのは、長崎県〈ミナトマチファクトリー〉で活動するraito(ライト)さんだ。きちんと整とんされた机で精緻(せいち)に描く、ある日の制作風景。

(更新日)2022年08月26日

CREDIT

[写真]  中村 紀世志

[文]  小野好美

本文

【絵】raitoさんによるヤギの線画。ヤギの顔と背景の一部を複雑な線が形づくっている。

《ヤギ》/鉛筆/250×175mm/2018年

【絵】raitoさんによる人物の線画。細かな線と図形がいたるところに描かれている。

《農園の人》/鉛筆/250×175mm/2020年

「こういうふうに見えている」
から描かれる、独自の文様

raitoさんがこの日、長崎・佐世保の〈MINATOMACHI FACTORY〉(ミナトマチファクトリー)でスケッチブックに描いていたのはトビウオの絵で、ちょうど細かい文様を描き込んでいるところだった。

【写真】

真剣な表情で、トビウオの絵に細かな文様を描き入れていくraitoさん。

描いているエリアに定規を当て、気持ちよく尖らせた鉛筆をゆっくり動かす。定規は線を引くことに使われることなく、あくまでフリーハンドで描き進めていく。

机の上にはいつも卓上で使うタイプの鉛筆削り、ペンケース、水筒が置いてある。顔をスケッチブックに近づけ、時に消しゴムで線を消して修正する。手を止めてじっくりと、制作途上の作品を見つめる。そんなふうに、ごく慎重にraitoさんの細密な創作は進んでいく。だいたい3〜4か月かけて、一枚の絵を仕上げるそうだ。

【写真】

絵の手本にしているトビウオの写真を手にするraitoさん。

【写真】

手本の写真に目を凝らすraitoさん。

【写真】

添えられた定規は、線を引くためには使わない。フリーハンドで緻密な図形を描いていく。

複雑な線や文様が入るようになったのは、2016年に〈ミナトマチファクトリー〉を利用し始めたのと同時だった。文様について尋ねるとraitoさんは

「こういうふうに見えております」

と折り目正しく教えてくれた。

道具は大事に、整とんを欠かさず。
いつも清々しい机の上

使っている鉛筆はraitoさんが握った手に隠れるほど短くなっていた。また定規も途中で折れていたが、どちらも

「まだ使えます、使えるところを使えばいいのです」

使っていない道具はすぐにバッグにしまう。

「あんまり散らかしているのはダメだと思います」

やはり折り目正しくそう教えてくれる。

作品は鉛筆で描いた後、色鉛筆で着彩することもある。職員の提案でカラーペンを色鉛筆の上から重ねることも。

【写真】

制作途中の机の上の様子。きちんと削られた鉛筆と使い込まれた消しゴム、折れてしまったがまだまだ使える定規、鉛筆削りなど馴染みの道具が並ぶ。

【写真】

宮崎駿さんを描いたraitoさんの作品。着彩は、以前〈ミナトマチファクトリー〉に所属していたメンバーが行った。ミナトマチファクトリーと同系列の〈株式会社アンドベーシック〉に飾られている。

【絵】raitoさんによる犬を描いた作品。着彩は色鉛筆。内側に文様があるほか、輪郭線の一部が海岸線のようになっている。

《犬》/鉛筆、色鉛筆/345×240mm/2019年

【絵】raitoさんによるライオンを描いた線画。緻密な線と図形が部分的に描き込まれている。

《ライオン》/えんぴつ/345×240mm/2019年

【絵】raitoさんによる電車を描いた作品。着彩は色鉛筆とカラーペン

《電車》/色鉛筆、カラーペン/350×245mm/2021年

【絵】raitoさんによる長崎市内の眼鏡橋を描いた作品。着彩は色鉛筆とカラーペン

《眼鏡橋》/色鉛筆、カラーペン/330×225mm/2021年

キャラクターもストーリーもお手のもの。大学ノート11冊に及ぶオリジナル長編漫画

raitoさんには漫画作家としての顔もある。大学ノートに描いているオリジナル作品「ザッツ来人(ライト)」は2020年から制作しており、現在11冊目にいたる大作だ。どの巻も巻頭ページはカラーなのが雑誌の連載のようで本格的だ。ストーリーは美術部の活動あり、友情あり、恋愛あり。学園物と思いきや、恐竜が登場するシーンも。登場人物は、raitoさんが実際に通っていた学校の先生や友人をモデルにしている。

【写真】

きちんと揃えたノートが20冊近く入っている、raitoさんのバッグ。

【写真】

大学ノートに描かれたオリジナル漫画作品「ザッツ来人(ライト)」。1ページ目は色鉛筆で着色されている。

【写真】

大学ノートに描かれた、raitoさんオリジナルキャラクター「ライドッグ」。「脚は馬より速く、白熊より強く、ツバメよりも速く空を飛べる」など、設定が詳しく述べられている。

【写真】

ノートの左ページ下は「ライドッグ」。右ページ上は着ぐるみを着た「メイちゃん」。どちらもオリジナルキャラクター。

【写真】

この日raitoさんが持っていたお気に入りの小説版『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。

自身が考案したキャラクターを描くためのノートもある。黒いぶちがある白い犬「来人(ライト)」が変身するロボット犬の「ライドッグ」。軽トラックを擬人化した「ケータ」。イラストに添えられた紹介文によればケータは「心優しいが若返りたいと思っている」そうで、アニメ化に際してraitoさんが想定している声優の名前も添えられている。

漫画やキャラクターのイラストには、文様は施されていない。絵画は絵画、漫画は漫画。あくまで別の表現なのだ。

見せてくれたノートをきちんと揃えてバッグにしまうと、raitoさんは絵画の制作に戻った。トビウオは、長崎の名産・あごだしの原料ということもあって職員が提案したモチーフだ。raitoさんは写真を見ながら描いていく。トビウオにはさほど興味はないが、描いているのだと教えてくれた。

ではraitoさんが好きなものは何かといえば、電車に犬。素敵なお店や図書館に行くこと。それに機関車トーマス、手塚治虫、漫画の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。

raitoさんが描く文様は、次第に細かさを増しているという。確かに以前の作品に比べて、トビウオは制作途中とはいえ、文様が広い面積を占めている。

「こういうふうに見えております」

そう話してくれたraitoさんは現在20代。これからどんなふうに変化しながら、どんな線で世界を切り取っていくのだろう。raitoさんが大切に扱っている鉛筆や定規、消しゴムは、そのときも今と同じくらい気持ちよさそうに机の上に並んでいることだろう。

【絵】raitoさんによるベートーベンを描いた線画

《ベートーベン》/鉛筆/250×175mm/2019年

【絵】raitoさんによる演奏中のジミ・ヘンドリックスを描いた線画

《ジミ・ヘンドリックス》/鉛筆/250×175mm/2017年

【絵】raitoさんによる夏目漱石を描いた線画

《夏目漱石》/鉛筆/250×175mm/2017年

【絵】raitoさんによるクレオパトラを描いた線画

《クレオパトラ》/鉛筆/250×175mm/2017年

【絵】raitoさんによるマリリン・モンローを描いた線画

《マリリンモンロー》/鉛筆/175×250mm/2019年

【絵】raitoさんによるマリリン・モンローを描いた作品。カラーペンで着色したもの

《マリリンモンロー》/鉛筆、カラーペン/175×250mm/2019年

【写真】

カメラを見据えて、いろいろな表情を見せてくれたraitoさん。

(埋め込みコンテンツについて) raitoさん作品制作風景

(埋め込みコンテンツの説明) 【YouTube動画】


PROFILE関連人物

raito

(英語表記)ライト

(raitoさんのプロフィール)

1997年長崎県・佐世保市生まれ。一見するとデジタルアートのように見えるグラフィックは定規とフリーハンドで紡ぎだしている。独特のタッチに定評がある彼の作品は、法則に捉われない繊細かつ綿密な複数の線が主役となる。アナログとデジタルの境界を超えて表現される作品は唯一無二の世界をつくりだす。 2017年「第19回エイブル・アート・アワード画材支援の部ターナー色彩賞」受賞、2020年「パラリンアートカップ2020 損保ジャパン賞」受賞、2018年「アール・ブリュット展」招待展示。2019年「minatomachi factory 雑貨になったアートたち」(佐世保市博物館島瀬美術センター)、2019年「Minatomachi factory. Zoo作品展」(長崎 アルカスsasebo)に出展。

(raitoさんの関連サイト)

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