ストーリー
【写真】陽射しがたっぷり入る〈ミナトマチファクトリー〉で作品を描くsaoriさん

(カテゴリー)アーティスト

saori

クレジット

[写真]  中村紀世志

[文]  小野好美

読了まで約4分

(更新日)2022年10月21日

(この記事について)

作品に向かうと、筆致は強く、放たれるエネルギーはぐっと濃くなる。そうして彼女の周囲には、明るい色の層がつくられていく。カラフルなボールペンで描かれる、長崎県佐世保市〈ミナトマチファクトリー〉saoriさんの制作風景。

本文

【絵】

《アーケード》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《本屋》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《金物屋》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《くっけん広場》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《セーラータウン》/ボールペン/297×210mm/2014年

豊富な色と強弱のあるタッチで描かれる、地元商店街の風景

金物店や書店、路地など、長崎県佐世保市にある商店街の一軒一軒の店や景色をモチーフにした作品がsaoriさんの代表作だ。細やかなボールペン画。実際に街を歩いた後で作品を見ると、その色合いは、遊び心に満ちたものだと分かる。

saoriさんはモチーフの写真を見て、まず輪郭を水色のボールペンで描いていく。

「後から他の色を重ねやすいので、今は水色が多い。時々、紺や黒も使う」

saoriさんはそう教えてくれた。

【写真】

かき氷をモチーフにした作品を描いているところ

【写真】

輪郭線には水色のボールペンを使うことが多い

【写真】

凛とした佇まい。saoriさんが描く姿からは強い集中力を感じる

この日のsaoriさんはコメダ珈琲店で提供しているかき氷の絵を描いていた。いちごのシロップがふんだんにかけられ、ソフトクリームが添えられたメニューの写真が手元に置いてある。テーブルクロスに描かれたいちごの模様も含め、saoriさんは前述の通り、水色のボールペンで繊細に輪郭を取っていく。

輪郭線を描き終えて色塗りの段階に入ると、saoriさんは氷の部分を表すのに、シロップの色に似たピンクのボールペンと、太字タイプの白のボールペンを選んだ。さらさらと二色を塗り重ねることで、ふんわりと空気を含みつつシャープさもある、氷の質感がよりリアルに表される。

一方で氷が盛られた器やスプーンの部分には、単色のボールペンを強い筆圧でぐりぐりと塗り付けていく。テーブルクロスの模様のいちごは、赤だけでなく水色や山吹色に塗られていた。

【写真】

氷の部分はサラサラと軽いタッチで塗っていく

【写真】

ピンクに白のボールペンを重ね、氷のニュアンスを表す

【写真】

白い太字ペンを重ね、氷の質感をよりリアルにしていく

【写真】

テーブルクロスのいちご模様は自由な色に着彩。単色の部分は強い筆圧で塗っていく

ボールペン愛と一枚ずつ異なる余白

【写真】

カラフルな「SARASA」や「ユニボール シグノ」のボールペンがズラリと並ぶ

【写真】

ペン先の好みについて教えてくれるsaoriさん

ペンケースを見せてもらうと、30本近いカラーボールペンがぎっしりと詰まっている。自宅にはさらにたくさんのカラーがあるという。「SARASA」の0.5ミリ芯のボールペンがsaoriさんのお気に入り。0.3ミリ芯を使うこともあるが、色を塗るには細すぎたそうで、またさらに細い0.1ミリだと紙が破れてしまうこともあり、0.5ミリが主力選手になったという。

ボールペンのことを話すsaoriさんは少しだけ言葉が多くなる。文房具が好きな気持ちが伝わってきた。

【写真】

saoriさんが描いた植物画を印刷した参考商品の紙製ジャケット。saoriさんのファッションや雰囲気によく似合っていた。

用紙の中に枠を取り、その中にモチーフを描くのも特徴的だ。フリーハンドで描かれた枠線は、傾いていたり、台形だったり、外側に大きく余白があることもある。

「いろいろな形の枠や余白も含めてsaoriさんの作品だと思うので、個展をしたときは、余白ごと展示しました。以前は紙面に対して絵がもっと小さかったんですが、だんだん大きくなってきているんです。もしかして、作品が商品になったり、個展をしたり、そうした経験が自信につながって、少しずつ大きくなっているのかもしれませんね」

saoriさんの制作を2014年の利用当初から見守る、職員の坂井佳代さんはそう教えてくれた。saoriさんが絵を描き始めたのはミナトマチファクトリーを利用するようになってからだ。

【絵】

《国道》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《市役所》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《眼鏡屋》/ボールペン/297×210mm/2014年

【絵】

《教会と街》/ボールペン/297×210mm/2015年

【絵】

《京町》/ボールペン/297×210mm/2015年

商店街を駆け抜けて

saoriさんの描いた作品は、事業所内にある布用のプリンターで布に印刷され、近くにある同系列の〈佐世保布小物製作所〉でポーチやハンカチ等のファブリック製品に仕立てられる。佐世保の景色が描かれたこれらのプロダクトは、長崎の美術館やブックショップなどに並ぶ人気商品だ。

【写真】

描かれた作品はその場で布に印刷され、裁断や縫製を経てポーチなどの商品になる。

【写真】

光沢あるサテンの生地に作品がプリントされたポーチ

また佐世保の飲食店が作っているオリジナル商品のパッケージや佐世保のタウン誌の表紙にもsaoriさんの作品が起用されている。saoriさんは自身の作品が商品になることをうれしく思っていると話してくれた。

【写真】

させぼ四ヶ町商店街を描いたsaoriさんの作品がパッケージに。商店街にある「和伊懐石 縁」が製造・販売する佐世保名物レモンステーキのソース

【写真】

saoriさんが描いた街の風景が使用されたタウン誌の表紙

時折、歩いて10分ほどの距離にある〈佐世保布小物製作所〉に用事ができると、saoriさんは〈ミナトマチファクトリー〉から全力疾走していくそうだ。明るく賑やかで、同時にのんびりした空気の商店街を、saoriさんが長い髪を揺らせてダッシュしていく姿が目に浮かんだ。シャイで、でも情熱的なsaoriさんは、きっとこれからも繊細な色合いのボールペンを駆使して、猛然と作品を生み出していくことだろう。

【写真】

休みの日に美術館や図書館に行き、絵画や画集を見るのが好きだと話してくれた

(埋め込みコンテンツについて) saoriさんの制作風景

(埋め込みコンテンツの説明) 【YouTube動画】


関連人物

saori

(saoriさんのプロフィール)
佐世保生まれ。2014年よりMINATOMACHI FACTORYに所属。極細のペンで下書きもなく世界を描くボールペン画家。色彩の理を引き剥がし、色鮮やかな世界を再構築する。作品は独特な歪みを持ち味に繊細さと鮮烈さを併せ持つ。近年は様々な画材で表現の幅を広げている。2018年「ART BRUT FESTIVAL 2018 生のままの芸術、独創的な芸術作品たち」(諫早市美術)、2019年「minatomachi factory 雑貨になったアートたち」(佐世保市博物館島瀬美術センター)、2019年「Minatomachi factory. Zoo作品展」(長崎 アルカスsasebo)に出展。2018年、コメダ珈琲のポスターに採用、2020年にはkominkanにて初個展を開催。
(saoriさんの関連サイト)